一色まこと『ピアノの森 26』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略
18年間にわたって連載されてきた一色まこと『ピアノの森』もこの26巻で完結です。
25巻ではショパンのピアノ協奏曲第一番を弾いて、聴衆を圧倒的な感動の渦に巻き込んだ一ノ瀬海が、ショパンコンクールで見事優勝に輝くというシーンで終わっていました。
本来であれば、ここで物語はクライマックスとなり、後は気の抜けた消化試合のようになってしまうのが普通です。しかし、実は本当のクライマックスはここから。ショパンコンクールの熱気が残る中で、最後のテーマが浮上します。それは、ピアニスト阿字野壮介の復活なのです。
かつて天才として一世を風靡した阿字野ですが、不運な交通事故によって恋人と、右手指の一部機能を失い、失意のうちに表舞台から姿を消したのでした。そして、音楽教師として赴任した田舎の小学校で出会ったのが一ノ瀬海だったのです。
ショパンコンクールというゴールを達成した今、一ノ瀬にとって必要なのはもはや師ではなく、ライバルというわけです。
一ノ瀬が接触をはかっていたDr.中尾への手術の依頼も、自分の指の手術ではなく、阿字野の手術だったのです。
そのことを知ったときの阿字野は、むしろ自分のためにカイに余分な重荷を背負わせていたことにショックを受けます。
かつては機能回復が不可能だと言われていた指の機能も、医学の進歩によって手術を受ければ完全に回復できると知って、あきらめていた阿字野は戸惑いを隠せません。
果たして阿字野は手術を受けるのか、そしてピアニストとしてカムバックできるのか?
この最後のゴールへとむけて、再び物語は加速してゆくのです。
カイの名声が世界に、そして津々浦々へと広がるとき、変わらざるをえなかったものがもう一つありました。カイの生まれ育った、悪場所としての森の端もまた、消えゆく運命だったのです。
『ピアノの森』は何かというと、勧善懲悪の音楽ファンタジーであると思います。コンクールの背後で、渦巻く権謀術数、パン・ウェイを優勝させようとする父親の金と暴力にモノを言わせるやり方、地元ポーランドのシマノフスキに賞を与えたり、優勝させたりしようとする圧力はこの26巻でもくすぶっていますが、やがて消え去り見えなくなってしまいます。そして悪場所であった森の端に潜んでいた悪の勢力もこれを機会に一掃されてしまいます。さらにカイのピアノによって、雨宮親子の淀みかけていた感情も物語の終りで浄化されます。そして、カイの母親怜子もまた…
フェアな競争は避けられないとしても、正当に評価されるべき者が評価され、報われるべき人が報われるーそれが『ピアノの森』の世界観です。その完全な達成は不可能であるがゆえにこの物語はファンタジーなのですが、それゆえにこそ『ピアノの森』は感動的な傑作になっています。25巻で終わればそこそこの傑作に終わったであろうこの物語は(フィクションである以上主人公を優勝させること自体は簡単だから)、この26巻によって不滅の傑作になったと思います。物語の円環を閉じながら、ショパンコンクールの優勝よりもさらに先の世界へと、カイのピアノを飛躍させた作者一色まことの勝利、ラストシーンも圧巻です。
関連ページ:
一色まこと『ピアノの森 25』
一色まこと『ピアノの森 24』
一色まこと『ピアノの森 23』
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25巻ではショパンのピアノ協奏曲第一番を弾いて、聴衆を圧倒的な感動の渦に巻き込んだ一ノ瀬海が、ショパンコンクールで見事優勝に輝くというシーンで終わっていました。
本来であれば、ここで物語はクライマックスとなり、後は気の抜けた消化試合のようになってしまうのが普通です。しかし、実は本当のクライマックスはここから。ショパンコンクールの熱気が残る中で、最後のテーマが浮上します。それは、ピアニスト阿字野壮介の復活なのです。
かつて天才として一世を風靡した阿字野ですが、不運な交通事故によって恋人と、右手指の一部機能を失い、失意のうちに表舞台から姿を消したのでした。そして、音楽教師として赴任した田舎の小学校で出会ったのが一ノ瀬海だったのです。
ショパンコンクールというゴールを達成した今、一ノ瀬にとって必要なのはもはや師ではなく、ライバルというわけです。
一ノ瀬が接触をはかっていたDr.中尾への手術の依頼も、自分の指の手術ではなく、阿字野の手術だったのです。
そのことを知ったときの阿字野は、むしろ自分のためにカイに余分な重荷を背負わせていたことにショックを受けます。
かつては機能回復が不可能だと言われていた指の機能も、医学の進歩によって手術を受ければ完全に回復できると知って、あきらめていた阿字野は戸惑いを隠せません。
果たして阿字野は手術を受けるのか、そしてピアニストとしてカムバックできるのか?
この最後のゴールへとむけて、再び物語は加速してゆくのです。
カイの名声が世界に、そして津々浦々へと広がるとき、変わらざるをえなかったものがもう一つありました。カイの生まれ育った、悪場所としての森の端もまた、消えゆく運命だったのです。
『ピアノの森』は何かというと、勧善懲悪の音楽ファンタジーであると思います。コンクールの背後で、渦巻く権謀術数、パン・ウェイを優勝させようとする父親の金と暴力にモノを言わせるやり方、地元ポーランドのシマノフスキに賞を与えたり、優勝させたりしようとする圧力はこの26巻でもくすぶっていますが、やがて消え去り見えなくなってしまいます。そして悪場所であった森の端に潜んでいた悪の勢力もこれを機会に一掃されてしまいます。さらにカイのピアノによって、雨宮親子の淀みかけていた感情も物語の終りで浄化されます。そして、カイの母親怜子もまた…
フェアな競争は避けられないとしても、正当に評価されるべき者が評価され、報われるべき人が報われるーそれが『ピアノの森』の世界観です。その完全な達成は不可能であるがゆえにこの物語はファンタジーなのですが、それゆえにこそ『ピアノの森』は感動的な傑作になっています。25巻で終わればそこそこの傑作に終わったであろうこの物語は(フィクションである以上主人公を優勝させること自体は簡単だから)、この26巻によって不滅の傑作になったと思います。物語の円環を閉じながら、ショパンコンクールの優勝よりもさらに先の世界へと、カイのピアノを飛躍させた作者一色まことの勝利、ラストシーンも圧巻です。
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一色まこと『ピアノの森 25』
一色まこと『ピアノの森 24』
一色まこと『ピアノの森 23』