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三部けい『僕だけがいない街』は、先行する二つの作品をその祖型と考えることができるでしょう。一つはロバート・ゼメキスの映画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』。もう一つは、桜坂洋の『ALL YOU NEED IS KILL』です。タイムスリップして過去を書き換えることでその未来である現在も書き換えるというのが前者の核です。そして、ゲーム的世界のルールに従って失敗の教訓から学んだ改善を加え続けることで、成功に至るまでゲームをリセットしながら継続するというのが後者の核です。『僕だけがいない街』では、このラインに従って、ストーリーが進んでゆきます。
しかし、『僕だけがいない街 5』では、主人公の藤沼悟は雛月加代の誘拐殺人は食い止めたものの、1988年の世界に小学生の姿のままとどまり続けます。というのも事件そのものが起こらなければ、犯人の手がかりもつかめないわけです。
そうすると、犯人が立ち回りそうな場所に、先回りするしかなくなります。まずは、次の被害者となる中西彩、そして友人の杉田広美。彼らが次の犠牲者にならないように、何とか守らなければならない。
けれども、知っているすべての被害者を守りきったところで、犯人は、別の場所で、別の新たな相手を見つけ犯行を続けるだけではとの疑念も浮かびます。どうしたらよいのか?聡は悩むのでした。
一見終わりのないモグラたたきのようなこの探偵ゲームですが、網の目がせばまると、当然犯人とのニアミスも増えてきます。そして、クラスメートのケンヤの話から犯人はあちこちで、代わりに犯人となりそうな人間を見つけながら、犯行を繰り返しているらしいとの情報も得るのでした。
一体、ニアミスを繰り返している相手とは誰なのか、ひょっとして悟の知っている人?
事件の最大の核心へと足を踏み入れる第五巻です。
関連ページ:
三部けい『僕だけがいない街 4』
三部けい『僕だけがいない街 3』
三部けい『僕だけがいない街 2』
三部けい『僕だけがいない街 1』