つぶやきコミューン

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桜坂洋・小畑健『All You Need Is Kill 1』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略 


   Kindle版

2004年に刊行された桜坂洋のSFバトル小説『All You Need Is Kill』は、その後十年の歳月を経て、『ヒカルの碁』『デスノート』『バクマン。』小畑健の手で漫画化された。コミック化した『All You Need Is Kill』(集英社)は、1、2巻同時発売で完結。2014年7月のハリウッド映画公開に合わせた形である。これまでマイナーな扱いであった、ゲーム的世界がそのまま現実化したようなダークなバトルもののファンタジーが、ついに世界を席巻する結果となったのはなかなか痛快な気分である。

通常、物語の主人公は死なないものである。死んでしまうと、物語がそこで終わってしまうからだ。しかし、『All You Need Is Kill』の主人公の初年兵キリヤ・ケイジは、人類の存在を脅かす「ギタイ」という謎の生命体との戦闘で、あっという間に死んでしまう。そして、気がつくと出撃の前日に戻っている。そして、またも戦闘で死ぬという結果を繰り返すのである。死の恐怖に耐えかねた彼は、戦場からの逃亡を図ろうとする。あるいは、自殺を試みる。しかし、どうあがいても結果は同じで、このループ化し、反復する時間を逃れることはできない。逃れることができないのなら、戦いに勝利し、生き延びようと彼は決意する。ゲームのキャラクターのように、少しずつ戦闘時間を延ばし、何度も死にながら知ったループ化した世界のルールは次のようなものだった。

ルール1
”死ぬと出撃前日の朝に戻る”
ルール2
”どこで どんな死を迎えてもルール1が適用される”
ルール3
”逃げられない”
ルール4
”記憶は継続される”
そして ルール5
”必ずしも同じことが起きるわけではない”

ケイジには、目標とする存在があった。人類最強のジャケット兵、”戦場の牝犬”、リタ・ヴラタスキである。その呼び名に反して、少女のような容貌を備えたリタ。ケイジが初めて戦場で死んだ時、彼女は

ジャパンでは食後のグリーン・ティーは無料だと聞いたのだが…本当か?

という質問をしてきた。この質問が、リタとケイジを結ぶ運命の糸となろうとは、まだ知る由もなかった。

次々に襲いかかる”ギタイ”を倒し続け、リタのように生き延びるためには、戦闘技術を磨くだけでは限界があった。通常の兵器であるパイルドライバは20発という弾数制限があったのだ。弾切れ=死という限界を超えるため、ケイジはリタと同じバトルアクスを手に入れようとするのだった…

ケイジはギタイとの戦いに勝利し、ループ化した世界から逃れることができるのか。リタとケイジを結ぶ運命の糸とはいったい何なのか?

キャラクターを何度も死なせながら、しだいにスキルアップし、ラスボスを倒すまでゲームを続けるプレイヤーのような主人公キリヤ・ケイジの立場ほど、多くの若者にとって容易に感情移入できる存在はないだろう。それがこの作品が小説として書かれた時の読まれ方である。しかし、コミック化された2014年の現在、その読まれ方は違っているように見える。ゲームをやることなしに、現実の社会で働く中で、多くの人々は日々死にながら、再び目覚め、また同じ戦いに赴くことを繰り返しているのではないか。ビジネス書や自己啓発書を攻略本としながら、勝ち目のない戦いに勝利しようと日々努力し続け、ループから逃れようともがき続けているのではないか。キリヤ・ケイジの姿は、そのまま社畜として、あるいは派遣社員として働き続け、あるいは就活地獄を戦い続ける多くの日本人の肖像画であるように思われる。それが、この時期、この作品に過分とも言えるスポットライトが当たった理由ではないだろうか。(『All You Need Is Kill 2』へ続く)

PS Amazonでは、紙の『All You Need Is Kill 1』は現在品切れのようです。(14/06/29)



書評 | 22:18 | comments(0) | - | - |
出口治明『ビジネスに効く最強の「読書」』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本
 

(…)人間が社会で生きていくために最も必要とされる自分の頭で考える能力、すなわち思考力を高めるためには、優れた古典を丁寧に読み込んで、著者の思考のプロセスを追体験することが一番の早道だと思っています。(p151)

 

 

ライフネット生命CEO兼会長である出口治明氏は、無類の読書家としても知られ、書評サイトHONZの客員レビュワーとして、単なる情報レベルの読解ではなく、ビジネスへの洞察や人生の機微に通じた書評には定評がある。『ビジネスに効く最強の「読書」本当の教養が身につく108冊』(日経BP社)は、出口氏の愛読書の中から十のテーマに沿って、選りすぐりの推薦書108冊の紹介をまとめたものである。

こうした書評集、本についての本には二つの楽しみがある。一つは読書の方法、スタイルのちがいであり、もう一つは読書の対象のちがいの楽しみである。十代二十代であれば、素晴らしいと思った人の読書のスタイルや愛読書をまるごと真似るというやり方もあるかもしれないが、何千冊かの本を読み、ある程度自分のスタイルや対象が固まってくると今さら大きくそれらが変化することはないだろう。それでも、100冊もリストアップされると、これは当然読むべきであったのに読んでいない本であると気づくものが何十冊か浮かび上がり、そしてそのうちの何冊かは読むことになる。ちょっとした知識や教養の地滑りが生じ、自分の興味や関心の世界が、一段広がる。その刺激が何よりも楽しい。読書のスタイルも同様だ。数十年かけて出来上がった読書のやり方が急に変わることはないとしても、読書家であれば必ず共通した部分と異なる部分がある。共通した部分ではやはりそうなのか、わが意を得たりと思い、異なる部分はそんなやり方もあるのかと、これまた刺激や参考とし、その一部は自分でも試みてみることがあるかもしれない。そして、これはこの本の読者の多くに共通した読み方であるはずだ。

一人の人間の目、ものの見方には、それぞれ独自のバイアス、偏りがある。そこに、信頼できるもう一人の人間の目を持ち込んでみる。すると、同じ読書、本の世界であっても、複眼的な視野の下で、別の世界が立ち上がるのだ。その時、二酸化マンガンを投じられた過酸化水素水のように、マンネリ化し、ルーティン化した読書に新しい息吹が宿り、未開拓の土地があちこちに開けてくる。『ビジネスに効く最強の「読書」』はまさにそのような読書の触媒となる一冊である。

出口氏が厳選した108冊の本は、企業経営のTOPの多くと同様、古典が多い。中でも、自ら歴史オタクを任じるだけあって、歴史書が圧倒的に多い。歴史書も二千年も前に書かれた本物の古典から、最新の学者の研究、わかりやすく小説化した作品など幅が広い。そして次には、世界数十カ国千以上の都市を旅した旅行好きであるので、旅行記・紀行文の類が多い。それゆえ、私を含め多くの読者にとっては、ほとんどから開きのボディに次々に歴史書や紀行文の連打を叩き込まれることになる。

読書のスタイルに関して面白いのは、際限ない本の増殖を自宅とは別の倉庫を構えることで捨てたり売ったりすることなく処理しているHONZ代表の成毛眞氏とは異なり、出口氏は図書館派であるということだ。もちろん初めからそうであったわけではない。蔵書が住空間の許容限度を超えたところで意を決し、この選択を行ったのである。
 

 勝手に飛び込んできた本は、もちろん少しは立ち読みをしますが、大体は購入していました。その結果、狭いわが家(社宅でした)は本であふれ、廊下にも天井まで山積みする羽目に。本が崩れてきて危ない思いをしたことは数度ではききません。
しばし熟考して、頭を保有から貸借に切り替えました。ちょうどロンドンへの赴任が決まった時期(1992年)でした。思い切って、蔵書はすべて古本屋さんに引き取ってもらいました。
2回に分けて来てもらい、それぞれ30万円前後頂いた記憶があります。岩波の全集や初版本がたくさんあったので、恐らくそれなりの値段がついたのでしょう。それからは近くの図書館で借り、図書館にない本に限って購入する、というパターンに変わって現在に至っています。

(COLUMN:出口流、本の選び方、pp83-84)


この言葉は、出口氏のような筋金入りの「本の虫」には、お金がないからなれないと思っている人には朗報ではないだろうか。図書館中心の読書でも、十分この国でトップクラスの読書人にはなれるのである。

出口氏の読書スタイルは一日に何冊も読むような多読型ではないし、「速読」を愚かしいものとして否定している。
 

 大嫌いな言葉は「速読」です。本に書いてある内容をすぐに知りたければ、ウィキペディアを引けばいいのです。その方がはるかに早い。第一、人と話をしていて、速読されて喜ぶ人がいるでしょうか。速読は、世界遺産の前で記念写真を撮っては15分で次に向かう弾丸ツアーのようなものです。行ったことがあるという記憶は写真を見れば蘇るでしょうが、そこで何を観たかは少しも頭に残ってはいないでしょう。速読ほど有害無益なものはない、と考えています。(COLUMN:出口流、本の読み方、pp150-151)


さて、肝心な読書の対象の方であるが、108冊のリスト自体が一つの楽しみであると思うので、各章一部を駆け足で紹介しよう。

PART1:リーダーシップを磨くうえで役に立つ本ではカエサルという人物が一つの中心となり、マティアス・ゲルツァーの『ローマ政治家伝』やカエサル自身の『ガリア戦記』、マキャべりの『君主論』が紹介されているが、興味深いのはトールキンの『指輪物語』が含まれていることだ。

PART2:人間力を高めたいと思うあなたに相応しい本では、『韓非子』やトーマス・マンの『ブッデンブローク家の人びと』など。この中では塩野七生の『チェザーレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』を五十年後にも残る一番の傑作として激賞していることが印象的だ。

PART3:仕事上の意思決定に悩んだ時に背中を押してくれる本では、池谷裕二『脳には奇妙なクセがある』やクラウゼヴィッツの『戦争論』など。PART4:自分の頭で未来を予測する時にヒントになる本では2050年を予測する楽観論と悲観論の双方を紹介から始め、ジョージ・オーウェル『一九八四年』やハックスリー『すばらしい新世界』に至るユートピア小説の系譜をたどる。PART5:複雑な現在をひもとくために不可欠な本では永川玲二『アンダルシーア風土記』から始め、古今東西の多様な視点からの歴史書がずらりと並び、PART6:国家と政治を理解するために押さえるべき本では、早野透『田中角栄 戦後日本の悲しき自画像』のような日本社会の特異性を掘り下げた書物と、マックス・ウェーバー、ハンナ・アーレント、カール・シュミットらの古典的名著を併せて紹介する。PART7:グローバリゼーションに対する理解を深めてくれる本では幕末のペリーに焦点を当てた複数の本からグローバリゼーションの問題を読み解き、同じ問題意識はベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体』まで、広範な書物をカバーする。PART8:老いを実感したあなたが勇気づけられる本ではボーヴォワールの『老い』と上野千鶴子『おひとりさまの老後』の対比が中心、そしてPART9:生きることに迷った時に傍らに置く本では、吉野源三郎やアラン、ラッセルなど多くの人が学生時代に読んだであろう人生論が中心だが、新しい息吹としてヤマザキ・マリの『男性論 ECCE HOMO』を加えることを忘れない。そして最後のPART10:新たな人生に旅立つあなたに捧げる本では小田実『何でも見てやろう』や沢木耕太郎『深夜特急』といった懐かしい本とともに玄奘『大唐西域記』やゲーテの『イタリア紀行』といった超古典が紹介される。

同じ一つの問題意識であっても、これほど幅広いダイナミックレンジの中、これほど多種多様な本が並べられることへの素直な驚き。読者の中には、自己啓発書的なタイトルや章題の付け方が気になる人がいるかもしれないが、マーケット・セグメンテーションによる他の本との差別化のためにつけた一種の方便、必要悪である。真の読書家は全く気にとめることなく、めくるめくような書名のパレードと一段奥へと誘う著者の解説の切り口に魅了され続けることになるだろう。その出会いの中には、未知との遭遇だけでなく、青春時代に読もうとして、読むことなく通り過ぎた本との再会も少なからず含まれる。本書は、単に古典中心の教養書の紹介にとどまらず、いわば、タイムカプセル的な本の「大人買い」、「大人読み」への通路を見つけてくれるブックガイドでもあるのだ。

関連ページ:
出口治明『仕事に効く教養としての「世界史」』

書評 | 22:13 | comments(1) | - | - |
堀江貴文・岡田 斗司夫『ホリエモンとオタキングが、カネに執着するおまえの生き方を変えてやる!』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本
 
欲しいのは「成功」じゃありません。自分が主役の物語だから、成功するに決まっているんです。欲しいのは「より多くの人が参加できる物語」です。
岡田 斗司夫はじめに、p11)


『ホリエモンとオタキングが、カネに執着するおまえの生き方を変えてやる!』(徳間書店)は、ホリエモンこと堀江貴文氏とオタキングこと岡田 斗司夫氏が2010年5月、2011年4月、2013年6月に行った対談をまとめたものだ。このことを頭に置いておかないと、堀江・岡田両氏の著作をカバーし、近況を知っている人は話の流れにとまどうことになるかもしれない。2010年の時点では、岡田氏のFREEexはオタキングexと呼ばれていたし、堀江氏も岡田氏のツイッターをフォローしたばかりだったからだ。

『オネアミスの翼』が与えた三つの夢

岡田氏は『新世紀エヴァンゲリオン』を生んだGAINAXを作った人である。岡田氏を中心にクリエイターが結集し1984年から1987年にかけ『王立宇宙軍 オネアミスの翼』を作成。完成後解散の予定が、赤字を埋め合わせるために、その後も『トップをねらえ!』(1988-89)や『ふしぎの海のナディア』(1990-91)といった作品を生み出すことになる。

この『オネアミスの翼』の大大ファンであるのが堀江氏で、ライブドア時代に続編を作りたいと提案したことがあるほどだ。少年のように目を輝かせる堀江氏の夢をかきたてた『オネアミスの翼』には、三つの夢がこめられている。一つは宇宙開発への夢、もう一つはベンチャーの夢、そして第三がアニメ作成への夢である。『オネアミスの翼』は、地球に似たどこかの惑星で、ぱっとしない若者たちが、力を結集させてロケットを宇宙上げる物語だ。そして、宇宙開発とアニメーションの夢は、この対談を最後まで支配する大テーマとなっているのである。


「小四病」とは何か?

オタキングと呼ばれる岡田氏だが、人間関係を苦手とするコミュ症のオタクではなく、むしろ人間観察や評価に長けた特異な能力を持った人であり、さながら『ドラゴンボール』に登場するスカウターのようなその能力は朝日新聞に連載されている人生相談「悩みのるつぼ」にもいかんなく発揮されている。

その岡田氏の目から見ると、堀江氏は「中二病」ではなく、「小四病」ということになる。

会いたい人にはいつでも会えるから、いま会いたい人は誰でもいい、自分が主人公で他の人間はみな脇役という世界。そんな「小四病」の方が「中二病」よりも精神年齢が低い分エネルギーは高い。少年は挫折を経て大人になるけれど、小四病の堀江氏は、挫折しても跳ね返してしまうので鬱屈した青年にもならないし、それゆえ大人にもならない。こんな人ばかりだと社会は迷惑だが、百万人に一人くらいはいた方がいい。これが岡田氏の見た堀江氏評である。

評価経済とexシステム

宇宙とアニメというテーマは、この対談を通して、通奏低音のように鳴り響いているが、最大のテーマは、岡田氏が日頃提唱している評価経済である。

評価経済とは、貨幣の代わりに、評価が流通する社会のことである。岡田氏は、現在の貨幣経済が人を幸せにするシステムだとは思えないため、この考えを思いついた。

岡田氏は、オタキングex(のちにFREEex)というシステムをつくり、そこの社長として生計を立てている。通常の会社とは逆に、このexシステムは社員が毎月1万円社長に払いながら、様々な活動をともにするというシステムである。その代わりに、岡田氏は外での仕事に関して、謝礼や印税もとっていない。金の与えることによって、人を支配する社会のあり方に対し、別のやり方を身をもって提案し、現実に活動しているのである。

こうした評価経済は、貨幣経済と完全に対立しあうものではなく、相互に補完しながら、次第に社会の中に浸透していく途上にある。堀江氏のメルマガにしても、個人への評価を、金に変えているが、それはやりたいことを経費を堀江氏が負担しているからであって(exシステムではレベル2に相当)、ただでもやりたい人が集まればそんな金も要らなくなり、メルマガも金をとらなくなる(これがexシステムのレベル3)というのが岡田氏の発想である。

そして、そのやり方でみんなの力を結集させ、アニメを作ってはどうかという方向へと、話は発展していくのである。

二人に共通し、本書全体を貫くメッセージは、金がないからやりたいことができないのではなく、やりたいことがあるなら金にこだわらずやり続けろ、そのための新しいさまざまなやり方が与えられている時代なのだからということになるだろう。

本書は、成功する方法を説いたものではなく、あくまで自分が人生の中心となる考え方を説いたものである。ダイエット・ジプシーという言葉があるように、「〜のように成功したい、金儲けしたい」と考える人は、永遠のカモに終わる。

好きなことだけやり続けるーそんな贅沢は堀江貴文だから、岡田
斗司夫だからできたのだという人に対する答えも本書には含まれている。まずは読むべし。

関連ページ:
岡田 斗司夫の本
岡田 斗司夫『「風立ちぬ」を語る』
小飼弾・岡田岡田 斗司夫『未来改造のススメ』(小飼弾との共著)

堀江貴文の本
堀江貴文『刑務所わず。』
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書評 | 21:00 | comments(0) | - | - |

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