『宇宙兄弟 心のノート 「メモしたくなる言葉たち」』は、今一番泣けるコミックと言われた小山宙也『宇宙兄弟』による名言集。
1〜16巻の中から、登場人物ごとに100の言葉からなっている。いわば泣かせどころの決め台詞を集めたもので、コミックを読んだことのある人は、前後のシチュエーションをリアルに思い浮かべながら、自分の心や今の状況にフィットしたものを心の中にとどめる、そんなコンセプトの本である。
特に気に入ったい言葉をいくつか抜き出してみよう。
027
俺の敵は
だいたい俺です
自分の"宇宙へ行きたい”っていう夢を
さんざん邪魔して
足を引っ張り続けたのは
結局俺でした
NASAでの南波六太の言葉である。自分の敵は自分という言葉はありふれているが、自分の夢の敵は自分ということ。夢を達成できないでいる人、ほとんどにあてはまる言葉ではないだろうか。
038
宇宙へゆくの
夢なんだろ
諦めんなよ
もし諦めきれるんなら
そんなもん夢じゃねえ
今度は弟、南波日々人の言葉である。自他を問わず、くじけかけている人に言ってみたい言葉だ。逆に言えば、簡単に夢を語りすぎるなということでもある。夢を実現させるには、長期にわたる覚悟が必要であるということだ。
050
音を出さなきゃ
音楽は始まらないのよ
南波兄弟にとって、科学の世界の母親役である金子シャロンの言葉。この人のキャラは好きである。簡単に情報が得られる今の時代には、さんざんシミュレーションをくり返した後、「脳内不戦敗」(小飼弾)になってしまう若者が多いものである。まず、現実のトライへと一歩踏み出すことが大事だ。
059
知りたいことのおおよそ半分は
ネットや本で調べればわかることだ
どこにも載っていない
「もう半分」を知るためには……
自分で考え出すか
経験するしかない
六太の親友であり、ライバルでもある真壁ケンジの言葉だが、これも050と同じである。本やネットでわかることは必要な情報の半分。そこで終わっている人が余りに多いということ。世界こそは、最大の書物であり、それを読むことが生きるということなのだ。
082
死ぬ覚悟なんて
いらねえぞ
必要なのは
"生きる覚悟”だ
死は安易な選択肢であり、最後の最後まであきらめずに生き抜こうとする困難な道こそ、宇宙飛行士にとって必要なものであるという、宇宙飛行士ブライアンの言葉である。死ぬ気で頑張れという世の中の傾向こそ警戒すべきである。
089
ネクタイを締めるのに
理由なんてのは1コしかねえ
仕事が無事終わった後に
"緩める"ためだ
宇宙船用のパラシュートの開発に携わるピコ・ノートンの言葉。堀江貴文氏同様ネクタイは嫌いでも、仕事上せざるを得ない人は少なくないだろう。仕事が終わった後、ふと友人を前に口にすると格好いい台詞である。
最後の締めは、次の言葉で。ここには、『宇宙兄弟』で作者がどのような関係に、南波六太と日々人を置こうとしているかが要約的に語られている。これも金子シャロンの言葉である。
053
あなたがいつも兄(ムッタ)の前にいて
先へ進み続けていれば
兄(ムッタ)はあなたに引っぱられて前進できるわ
もしもあなたが止まってしまったら
その時はきっと
後ろから
兄(ムッタ)があなたの背中を
押してくれる
あなたたちはきっと そんな
素敵な兄弟になる
『宇宙兄弟 心のノート 「メモしたくなる言葉たち」』には三桁の番号がふられています。コミック単行本も16巻を超えて、20巻まで出て、『モーニング』での連載が続いている。次の名言集が出るのは、この作品が完結した時なのだろうか。