JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略
『クローバー』の平川哲弘のコミック『ヒマワリ』(少年チャンピオンコミックス)は、広島の山奥の町の少年が、幼なじみの悪友がアイドルになったのにつられて上京、やがてアイドルユニットとしてデビューする物語である(7巻までの概略)。
日向蓮(ひなた れん)は、広島県北部の八重町に住む高校1年生。彼は、地元の神楽で一年上の胡清春と(えびす きよはる)ともに、地元の神楽で神(シン)を演じ、観客を魅了し、清春ともども祭りの看板的な存在だった。
だが、夜に蓮と話をした翌日、清春は姿を消し、二度と神楽を演じることはなかった。
まず驚かされるのは、その画力の高さだ。『クローバー』連載スタート時の平川の絵は際立ったものではなかったが、『ヒマワリ』は冒頭から完成された画力で読者を圧倒する。特に、蓮と清春が演じる神楽のシーンは、凛として美しく圧巻だ。精緻に描き込まれた衣装や装飾、そして二人の表情、ほとばしるような動きの描写、決めポーズの美しさ、その動と静のバランスが絶妙なのである。
そうして、その動きそのものは、GOLD、フウライ、そしてルミエールといったアイドルユニットの動きへとそのまま受け継がれる。
やがて、蓮も、ワイドシャロウの役員でスカウト担当の櫻田遼平の誘いに乗って、上京する。
その夜、彼を待ち受けていたのは、古びたアパート風の宿舎に住む4人の同世代の若者だった。
宮城県出身のメタボ気味の榊臣斗(さかき おみと)、京都府出身の隠れ漫画家志望右京龍生(うきょう りゅうせい)、千葉県出身のヤンキー具志堅多央(ぐしけんたお)、東京出身で父親が有名俳優の海老澤拓郎(えびさわたくろう)。
当初は、反目し合う蓮と四人だったが、ゴールドの前座を努めるオーディションを機に、しだいにユニットとして動かざるをえなくなる。だが、すぐにもゴールドに追いつけるという夢の甘さは、たちまち打ち砕かれる。そんな彼らに容赦ない言葉が投げつけられる。
オマエらは本気じゃねェんだよ
何で本気になれねェか
当ててやろうか
怖いんだろ
本気出して
必死にやって
それでもしダメ
だったら
アイドルの夢が終わってしまう
それが怖いんだろ
(『ヒマワリ 3』)
彼らに与えられたのはバックダンサーの仕事。だが、そこでも甘さを指摘されるなかで、しだいにルミエールの五人は結束し、周囲が目をひらくほどの変化が彼らに生じるのだった。
かっこいいよ、コイツら…
かなわないと思った…
こういうヤツらがトップアイドルになると思ったんだ
(『ヒマワリ 6』)
それぞれに異なる家庭や地域の事情を持った若者たちが、いがみあい、ぶつかり合ううちに、化学変化が生じ、いつしか魅力的なユニットが創造されてゆく。
だが、誰もが本心からアイドルになりたかったわけではない。
家庭環境への反発からとりあえずこの道を選んだものの、他の道への未練を断ち切れない者もいた。
デビュー直前、いくつもの不協和音が五人の間に生じる。
誰が残り、誰が去るのか、そして誰が加わるのか。
進化し続ける平川哲弘の画力は、井上雄彦の『リアル』を彷彿させる、リアルな劇画タッチで、一人一人の若者の魅力を内側から描き出すことに成功している。とりわけ、日向蓮や具志堅多央の目力の強さ。そして、榊臣斗のダイエットのBefore&After…そして、芸能界のリアルを映し出す離合集散のダイナミズム。
『ヒマワリ』は、作者が十八番とするヤンキーバトル漫画をベースにしているため、恋愛成分は異性同性を問わず希薄ながらも、スポ根芸能界ものの傑作コミックである。なんと言っても、五人というユニットのメンバー数は、そのままバスケットボールのチームのメンバー集めに通じるものだから。