つぶやきコミューン

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宮田珠己『ニッポン47都道府県 正直観光案内』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略                      ver.1.01

 

 

日本国内観光というと、各都道府県ごとのイメージは決まっていて、多くの人はそれをなぞるように、どうしても旅をしてしまう。一般の旅行ガイドにある観光名所を訪れても、まったくすごいとも思わないし、感動もしない。

 

宮田珠己『ニッポン47都道府県 正直観光案内』(本の雑誌社)は、そんな人のための国内旅行案内である。同時に、著者がこれまでに『日本全国津々うりゃうりゃ』や『東京近郊スペクタクルさんぽ』など多くの著書で紹介してきた旅行スポットの総集編ともいうべき内容になっている。

 

群馬や埼玉がダサいのは、ただっぴろい関東平野のせいであり、その意味では一番ダサいのは実は東京。

 

 常に他県を見下してきた東京都も平板さからいえば埼玉県をむしろ上回り、観光スポットという点では関東一ダサかったと気づかざるを得ないのです。山手線の崖を高低差と持ち上げ、なんとか面目を保とうとする気持はわかりますが、他県にはそんなのはいっぱいあるのでした。

 東京、破れたり。

 真にダサいのは、実は東京だった。

 

だから、東京でスペクタクルを見つけようとすれば、海へ、島へ行かねばならない。

 

 もはや命運尽き、ディープな路地裏か微小な高低差方面に活路を見出す以外ないかに見える東京観光ですが、実はある存在に気づけば一気に、それこそ一気に関東随一、いや全国屈指の観光県(都)へと変貌します。

 ある存在……それは、

 そうだ、東京には島があった。

 

次から次へと、都道府県の観光をちゃぶ台返しされてゆく。そのことの痛快さ、そして軽快なカルチャーショック。

 

滋賀県に魅力が不足しているのは、単に観光のラスボス京都のすぐそばにあるせいだけではない。

 

退屈な琵琶湖がその面積の多くを占めているからだ。いっそのこと、ほぼ同じ面積の淡路島で蓋をしてしまった方がよいとまで言い切る。

 

 そんな観光的には微妙な巨大湖が、県のまんなかにどーんと横たわっているのですから、県外の観光客に無意識のうちにこう判断されている可能性があります。

 湖=退屈

 琵琶湖=日本最大の湖

 よって、滋賀県=日本最大に退屈

 実に明快な三段論法です。

 

こんな風に、宮田珠己は、誰もが薄々感じながらも、口にしなかったタブーを言い切りながら、日本中を歩き回り、乗り回り、潜回った自らの経験より、既成概念に代わるスポットを置き換えてゆくのである。

 

たとえば、金沢の見どころと言えば、兼六園でも、 二十一世紀美術館でもなく、なんと言っても、忍者寺の異名を持つ妙立寺である。

 

  では、金沢といえば何でしょうか。

  当然、忍者寺ということになります。というか忍者寺以外ありません。兼六園はどうした、金沢城があるだろ、最近は二  十一世紀美術館が人気のはず、などいろんな意見があると思いますが、忍者寺の前では何ほどのものでしょうか。すべて誤差の範囲内です。

 

こういうと無理推しの印象も免れないが、さらに先を読んでゆくとなるほどと思わせる記述が語られる。

 

  当時は三階建て以上の建物が許されなかったので、二階に見せてはいますが、内部は四階建て七層に及び、前田家が徳川幕府の侵攻に備えて、ひそかに築いた出城だったといわれています。

 

退屈な名所旧跡は相手にせず、巨大仏や昭和レトロテーマパークなどB級の建築物、超絶絶景スポット、山奥の秘境温泉、まともな遊歩道のない鍾乳洞、人知れず走り続けるマイナーな交通機関、断崖絶壁にそそり立つ岩場、川や湖などのラフティングやボートスポット、青く透明な海のダイビングスポットまで、幅広くカバーしているのである。

 

軽妙洒脱なその文章の中には、多くの発見がある。本書には一切写真がない。あるのは、著者自身による大ざっぱなモノクロのイラストだけである。一都道府県あたり一律6ページ。その中に一ダースくらいの太字スポットがあり、その一つ一つを思画像検索でググってみると、その瞬間世界が変わるのである。

 

 静岡県の天窓洞、熊本県の御輿記来海岸、千葉県君津市の濃溝の滝のような、インスタ映えする絶景スポットもある。

 

  宮崎県の高千穂峡は、自らボートを漕ぎながら体験できる超絶絶景スポットだ。

 

それはアドベンチャー、永遠の勇者たち。ボートを借りたら、ひたすら川を遡ってください。最初に狭き門のような峡谷の入口を抜けると、真名井の滝という有名な滝が岸壁から流れ落ちていますが、そこで満足せずどんどん漕いでいくと、その先にインディ・ジョーンズばりの大冒険が待っています。

 

 B級スポットなら、たとえば岐阜県の養老天命反転地。

 

どうしてこんな場所に? と言いたくなるような田舎の町に突如、奇怪なオブジェとような庭があって、何をする場所かよくわかりません。入ってみればコンクリートでできた狭いい暗闇に隠れたりでき、思わず鬼ごっこしてみたくなりますが、実際に鬼ごっこすると傾いた地面で転んで怪我をするので注意が必要です。

 

 秘境というなら、たとえば熊本県の杖立温泉。

 

 その先には有名な黒川温泉があり、さらに北の杖立温泉まで行くと、どこのダンジョンかと見紛うような迷路街に出くわします。漫画家つげ義春の『貧困旅行記』の舞台にもなっていたその風景は、鄙びたとか、うらぶれたとか、昭和レトロとか、もはやそういうレベルを通り越し、異世界RPGの領域に近づいている気がします。

 

 鍾乳洞も秋芳洞や龍河洞など普通の鍾乳洞では食い足りない。著者が求めるのは、福島県の入水鍾乳洞のようなもっとワイルドな鍾乳洞である。

 

 鍾乳洞?

 照明のついた遊歩道をただぐるっと歩くだけだろ、と思ったら大間違いです。

 たしかに鍾乳洞なんてどこもそんな感じで似たり寄ったりですが、入水鍾乳洞は違います。自分で照明を持って冷たい水の中を歩かなければならないのです。暗いし、狭いし、濡れる。いきなりハードです。

 私は個人的に、同じように川の中を歩く福岡県の千仏鍾乳洞、超絶に狭い徳島県の穴禅定と合わせて、裏の日本三大鍾乳洞に認定したいと考えます。

 

  きわめつけは、壮大な夜の祭りの絶景だ。

 

 ねぶたというと、青森市を思い浮かべるが、同じ青森県の五所川原市には、さらに巨大なねぶたがあることを多くの人は知らない。

 

 五所川原市に立佞武多という祭りがあります。青森市のねぶた同様、光る巨大な張子が街を練り歩きますが、電線のせいで高さに制限のあるねぶたに対し、こちらは電線を地下埋設することによって高さ二十三メートルもの縦長の立佞武多を実現しています。

 

ディズ二−ランドのエレクトリカルパレードをしのぐスケールの夜のパレードが行われるのは青森だけではない。佐賀県唐津市の浜崎祇園山笠は、博多祇園山笠をしのぐ。

 

  博多の場合は、舁き山笠と飾り山笠があり、人々が担いで走る舁き山笠は、せいぜい高さ五メートルぐらいです。飾り山笠は十〜十五メートルぐらいありますが、固定して飾っておくのが基本。それに対し浜崎の祇園山笠は高さ十五メートル、それが電線の間を縫って町を練り歩きます。

  何より素晴らしいのが山笠の造形です。城や御殿や橋や滝などがひとつの大きな風景を形作って圧巻です。まるで竜宮城みたいな巨大ジオラマ世界。夕暮れになれば灯が入り、エレクトリカル祇園山笠となって、その幻想度はますますアップします。

 

『ニッポン47都道府県 正直観光案内』は、旅行代理店や旅行案内によってつくられた観光の固定的イメージ、ヒエラルキーを転覆させる挑発的かつ体験的な観光案内だ。それは、言い換えるなら、ルーティーンとしての国内旅行を、心躍る冒険へと変える読む変換装置なのである。

 

関連ページ:

宮田珠己『東京近郊スペクタクルさんぽ』

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