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國分功一郎「100分de名著 スピノザ 『エチカ』」

 文中敬称略

 

 

「100分で名著 スピノザ 『エチカ』」(NHK出版)は、NHK(Eテレ)のテレビ番組「100分で名著」のテキストですが、「哲子の部屋」の単行本のような対話の収録形式ではなく、講師である國分功一郎の書き下ろしのかたちをとった哲学書となっています。

 

放送を見る、見ないにかかわらず、単独で読み、スピノザの主著である『エチカ』とスピノザの生涯を理解できる構成となっているのです。

 

哲学を一般向けにわかりやすく解説する場合、実は語りやすい哲学者とそうでない哲学者があります。

 

たとえばニーチェやサルトルなど実存主義の哲学は、人生論的に理解できるので、理解しやすい哲学でしょう。

プラトンも、対話の中で、具体例をたっぷりに、真や美など基本的な価値について議論しているわかりやすい哲学に入るでしょう。

ルソーのような社会哲学も、教育にせよ、土地所有の話にせよ、具体的な場面が思い浮かぶ中で賛否が争われる、わかりやすい哲学です。

 

その中で、わかりにくい、あるいは説明しにくい哲学者の一人として、スピノザがあげられます。

 

同時代のデカルトが、ゴギト・エルゴ・スム(われ思うゆえにわれあり)というとても記憶しやすい物語とともに紹介され、わかりやすい哲学の一人とされているのに対し、スピノザは、難解な哲学と扱われがちです。

 

スピノザの哲学は、デカルトと同じいくつもの言葉を使っていても、まったく異なった用法で、用いているのです。

 

 スピノザは近代哲学の成果を十分に吸収しつつも、その後近代が向かっていった別の方向を向きながら思索していたからです。やや象徴的に、スピノザの哲学は、「ありえたかもしれない、もうひとつの近代」を示す哲学であると言うことができます。

 そのようにとらえる時、スピノザを読むことは、いま私たちが当たり前だと思っている物事や考え方が、決して当たり前ではないこと、別のあり方や考え方も充分にありうることを知る大きなきっかけとなるはずです。

p6

 

デカルトの主体の概念は、「近代」の基礎となった概念ですが、スピノザは意志に行動が従属するようなものとして、主体を考えませんでした。力の有無によって、能動と受動がわかれるような場として主体を考えたのです。また、神についても、スピノザが抱いたのは、わたしたち人間を含めて、世界全体に遍在するシステムとしての神の概念でした。

 

デカルトと互換可能な哲学ではなく、同時代でありながら、一種パラレルワールドをかたちづくっていたのがスピノザの哲学なのです。

 

それを國分功一郎は、OSの違いにたとえます。

 

ーーーたくさんの哲学者がいて、たくさんの哲学がある。それらをそれぞれ、スマホやパソコンのアプリ(アプリケーション)として考えることができる。ある哲学を勉強して理解すれば、すなわち、そのアプリにあなたたちの頭の中に入れれば、それが動いていろいろなことを教えてくれる。ところが、スピノザ哲学の場合はうまくそうならない。なぜかというと、スピノザの場合、OS(オペレーション・システム)が違うからだ。頭の中でスピノザ哲学を茶道させるためには、思考のOS自体を入れ替えなければならない…。

「ありえたかもしれない、もう一つの近代」と言う時、私が思い描いているのは、このようなアプリの違いではない、OSの違いです。スピノザを理解するには、考えを変えるのではなくて、考え方を変える必要があるのです。p7

 

もっとわかりやすく言いかえるなら、デカルト哲学がWindowsであるとすれば、スピノザはThink differentを可能にするAppleのOSです。

 

スピノザは、一切の欺瞞なく、透徹した知性によって、人間の内と外、宇宙を、自然を、世界を、一つの原理によって説明しようとした天才でした。その神の概念を、自然や宇宙に置き換えてみれば、今日でも何の違和感をなく、自分の内外の出来事を説明できるように書かれています。その先進性ゆえに、彼は教会から破門され、テロリストによって襲撃されたり、死後出版された著書も禁書になったりとさまざまな迫害を受けてきたのでした。

 

このテキストの中で、國分功一郎は、善悪、本質、自由、真理の四つの基本概念を説明することで、スピノザの哲学の概要を紹介してゆきます。ベント―(ポルトガル語)・バールーフ(ヘブライ語)・ベネディクトゥス(ラテン語)という三つのファーストネームのそれぞれの中に、スピノザの人生の異なる面を見出すつかみも最高です。

 

スピノザを読んだことのない人は、その世界の新鮮さに驚くはずです。そして、すでにスピノザの著書に接したことがある人は、長年の疑問が解消したり、半分わかったように思っていた概念の誤解に気がついたりすることでしょう。そして、それまでばらばらだった知識が、一つのまとまった絵となって浮かび上がってくるのを感じるはずです。

 

「100分 de 名著 スピノザ エチカ」は、(著者の近著『中動態の世界』の成果まで踏まえた)現代的な視点で、中学生にもわかる平易な言葉で、スピノザの哲学の核心部分を100ページほどでわかりやすく語った小さな名著なのです。

 

  Kindle版

 

関連ページ:

國分功一郎『中動態の世界 意志と責任の考古学』
國分功一郎『民主主義を直感するために』
・國分功一郎監修『ジル・ドゥルーズの「アベセデール」 2(A〜F)
國分功一郎『近代政治哲学』
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國分功一郎『暇と退屈の倫理学』(1) (2)
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