つぶやきコミューン

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伊坂幸太郎「フーガはユーガ』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

 

 

伊坂幸太郎の最新小説『フーガはユーガ』が、仙台を舞台とする、双子を主人公とした物語だ。

 

物語の語り手となるのは、常盤優我。彼は仙台のファミレスで、双子の兄弟である常盤風我について語る。いなくなった母親、そして父親からは虐待を受けたこと。さらには、風雅と自分が共有する特殊な能力「アレ」について。

 

冒頭の設定を見ると、三部けいの『夢で見たあの子のために』にとてもよく似ている。

 

では、二人はテレパシーのように意識を共有することができるのかというとそうでもないらしい。

 

「アレ」は、突然に起こり、意識によってコントロールすることはできない。奥俊哉の『GANTZ』のようでもあるし、三部けいの『僕だけがいない街』にも似ているかもしれない。そして新開誠の『君の名は。』にも。

 

もしも、『君の名は。』が双子の話、それも一卵性双生児の話だったなら…

 

そう、『フーガはユーガ』は、全く不思議なことが起こらない通常の小説ではなく、SFやファンタジーの世界に属しているのである。

 

実は、「アレ」はいつでも起こるわけではなく、年に一日だけ起こることに、二人は気づく。そして、それを使って「悪」に対するリベンジを果たすことがテーマになっている。

 

学校の同級生から、いじめに遭っていたワタボコリことワタヤホコル。それを見るに見かねた優雅と風雅は、「あれ」を使って、を救出しようとするのである。

 

二人は落ちていたシロクマのぬいぐるみを拾い、それを少女にプレゼントするが、少女は交通事故で死んでしまう。その人形は呪いの人形だったのだろうか。だが、やがて知る真相はさらにおそろしいものだった。

 

さらに「アレ」が起こっている最中に、風雅がナンパした女の子、小玉との出会いによって物語は大きく動き出すことになる。

 

『フーガはユーガ』では、榴丘公園、歴史民俗資料館、クリスロード、広瀬川、愛子(あやし)駅など、仙台市内の実在の地名が数多く登場するが、それにまじって、いくつものコミックへの言及も出てきてなかなか楽しい。

 

ある時ふいに風我を指差し、「フーが?」と言い、その後、僕を指差して、「ユーが」とぼそぼそ言ったこともあった。Whoが。Youが。それまでも僕たちの名前を用いた駄洒落や言葉遊びは、よくぶつけられた。音楽用語の「フーガ」と重ねる教師がいたり、昔のアニメに出てくる双子、二神風来拳の使い手の名前を挙げる者もいた。p39

 

ちなみに、二神風雷拳の使い手の名前は、ライガとフウガである。単なる話のネタとして消費しているのだろうか。それとも…。

 

僕と風我は何も言わず、その場を立ち、離れた場所で漫画本を読み始めた。拾ってきたものだから、巻数はばらばらの、おそらく『タッチ』か『ラフ』だったのではなかったか。僕たちの、苦痛と恐怖に満ちた日常と、あだち充の描く世界とはずいぶん差があって、それこそ、『指輪物語』じみたファンタジーのようなもので、逃げ込みたくなる場所の一つだった。p51

 

言うまでもなく『タッチ』は双子の話だ。あだち充に気をつけろ。

 

『フーガはユーガ』が、伊坂の過去のどの作品に似ているかと言えば、『重力ピエロ』だろう。『重力ピエロ』も、腹違いの兄弟ハルについての話であり、ハルは父親に対して敵意を抱いている。阿部和重との共作『キャプテンサンダーボルト』のヒーローへの変身や、『僕だけがいない街』や『君の名は。』のいくつかの要素をそれに重ねてゆくと、『フーガはユーガ』の世界になる。

 

だが、あちこちに張りめぐらされた伏線の鮮やかな回収、フレンドリーな語り口で、読者をいつのまにかその世界引き込んでしまうストーリーテリングの上手さは、伊坂幸太郎の独壇場だ。『フーガはユーガ』では、さらにキャラクター造形が円熟味を増して、脇役一人ひとりにもそれぞれの人生の重みが宿る。それだけに、彼らが傷つくとき、読者は胸をしめつけられるような痛みを感じずにはいられない。

 

物語の中で遭遇した悪のエネルギーは、物語の終りで完全に放出処理され、読者はカタルシスを感じるが、それは大きな犠牲をともなっている。それでいて、最後の一行に幸福感が宿るのは、物語の勝利というしかない。

 

『フーガはユーガ』は伊坂幸太郎の魅力が凝縮された傑作小説である。

 

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