つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
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津田大介『情報戦争を生き抜け 武器としてのメディアリテラシー』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

 

かつて自由な言論空間、誰でもが自由に発信し、つながることができるコミュニケーションのユートピアと思われたインターネットやSNSは、ここ数年のうちに炎上やヘイトスピーチ、フェイクニュースが跋扈し、個人情報の流出や、国家を超えた選挙工作が日常化するようなディストピアの様相を呈し始めている。さらに新聞など紙メディア産業の衰退は、長期的で信頼のできる調査報道を可能にする土壌が失われつつあることを暗示している。世界レベルでの、このようなインターネットでの事件やメディア全般の問題を、幅広くほぼ網羅的にカバー、整理し、俯瞰的なパースペクティブを与えてくれるのが津田大介『情報戦争を生き抜く 武器としてのメディアリテラシー』(朝日新書)である。

 

日本で、そして海外で、ここ数年間に起こったネット上の事件や、メディアの問題点のことごとくが、テーマごとに分類され、整理されている。それらの事件は個別に見れば情報を得られたものも少なくないが、その情報は断片的であり、前後の十分なコンテキストも理解されないままにタイムラインを流れていったものである。そうした情報の空白部分を補い、まとまった数枚の絵として仕上げたところに、本書の価値はある。

 

全体の流れを大まかにまとめておこう。

 

「第1章 問われるプラットフォームの責任」ではフェイスブック、ツイッター、ユーチューブなど、プラットフォーム事業者が直面した問題を取り上げる。そこで課題となるのは、アルゴリズムによる記事や自動判定の妥当性であり、忘れられる権利の問題、複数アカウントからの同一投稿の禁止、不適切なサイトへの広告の出稿の問題などであった。いずれの場合も決定的な解はないが、しだいに対応は成熟へと向かっている。もはや、プラットフォーム事業者はただ投稿の場を与えるだけという言い訳は通用せず、社会的責任が求められるようになっている。

 

「第2章 情報汚染の正体」では、まずなぜ炎上は起こってしまうのか。そのメカニズムを考察する。根本にあるのは、抗議する側のリスクのなさと抗議される側がすべてのリスクを引き受けざるをえないという非対称性である。一部のノイジーマイノリティに社会全体が振り回されることが問題なのだ。多くの人はリンク先記事を読まず、SNSの投稿だけを見て拡散する。さらに個人のプライバシーを暴くゴシップ情報や、キュレーションメディアの虚偽情報の問題もある。長い間、運営母体は発信内容に責任がないという口実で、問題への取り組みを回避してきたが、その大元にあるのは利益第一主義である。しかし、Mery以外全てのサイトが閉鎖に追いこまれたDeMAの例のように、今やキュレーションといえども、メディア事業者としての責任が求められる時代に変わったのである。

 

「第3章 生き残りをかけた紙メディア、使命と倫理」ネットやスマホの普及で紙媒体が買われなくなった。新聞の発行部数の減少は世界的な現象である。新聞記者の数は激減。経費節減の結果取魅力的な記事が減る。これが負のスパイラルである。それに対して、ワシントンポストなどアメリカの大手メディアではどのように対応してるのか。ローカル報道と地方紙の衰退は、不祥事の多発や議員・首長の再選の増加といった結果をもたらすことも明らかになった。さらに、新聞からネットへの有力人材の流入も止まらない。新聞のマネタイズの手段として、Web広告やクラウドファンディングなどの寄付も導入される。そしてAIの導入による記事作成は、報道を大きく変えつつある。そんななか注目されるのはフェイクニュースに対抗し時間をかけて検証記事を作成する「スロージャーナリズム」とメディアのセンセーショナリズムや否定的バイアスに対抗する「建設的ジャーナリズム」の動きで、これらは数少ない明るい材料である。

 

「第4章 信頼と民主主義を蝕むフェイク」 では、根拠なしの情報で民意を動かし社会を揺るがすポストトゥルースの問題を取り上げる。キーワードは「フェイクニュース」と「オルタナティブファクト」。媒体が何であるかではなく、誰がシェアしたかだけが重視される世界。その背後には、大量のフォロワーや、いいね、否定的コメントをマネタイズする業者の存在がある。とりわけ顕著なのはロシアによる外国への世論工作である。アメリカ、フランス、ドイツ、イギリスでは、フェイクニュースに対しどのような対応が行われたのか。シンガポールやマレーシアではフェイクニュースを禁じる法規制も行われたが、そこには反対意見の封殺という大きな問題もある。さらに、他国ではなく、自国の政府によるSNSへの情報操作も多くの国で発覚している。フェイクニュースはボットよりもむしろ、新奇性、恐怖や嫌悪などの感情に動かされやすい人間によって、真実のニュースよりも速い速度で伝播するのである。

 

「第5章 ネットに蔓延するヘイトスピーチ」では世界的に増大しているヘイトスピーチへと、それに対する対応策が取り上げられる。移民や難民の増加とともにヘイトスピーチも増加したヨーロッパでは、欧州委員会がプラットフォーム企業対して24時間以内に削除する方針を定め。た。最初は不十分だった各社の取り組みも、次第に改善されてきた。ドイツのネット執行法は。一件数千万円の高額の罰金を科すことで事業者の責任を問おうとするが、時間的に無理があり基準もあいまいなため、大きな混乱を招く結果となった。そして、オーストラリアやアメリカでのヘイトへの対応はどのようなものか。また、日本におけるヘイトスピーチや、ヤフーニュースのコメント欄の問題を取り上げる。そうした中、一歩進んだ大阪市の対応では差別者の実名公表まで含めるも、法律の壁に阻まれる。不適切動画への広告配信も、世界的に問題になり、配信停止が相次ぐ。その背景にあるのは、複雑な広告の仕組みと配信先のチェックを怠る代理店の利益第一主義の問題がある。しかし、「ブランドセイフティ―」の機運の高まりの中、しだいにヘイトサイトが広告を載せることは困難になりつつある。

 

多くの国の、非常に多くの事例を集成した本書は、ここ数年のネット上の事件のデータベースとも言える存在で、さまざまな読者に薦められる。

 

第一は、ニュースを与えられ消費する側のユーザー一般である。しかし、今やインターネットやSNSの力により情報を発信したり、拡散したりする側に回り、容易に加害者の側にも、被害者の場合にも、回る可能性がある。そういう意味で、本書はメディア護身術として読まれるべき本である。

 

第二は、プロとしてマスメディアやインターネットメディアを運営し、情報を発信してゆく人間である。どのような情報を発信すれば、炎上などの問題を回避でき、メディアとして、生き延びることができるのか。そうしたケーススタディの本として大きな価値がある。

 

第三は、プログラマーや、エンジニアなど、IT技術者だ。炎上にせよ、ヘイトにせよ、フェイクニュースにせよ、その多くはテクノロジーによってある程度まで対応、解決できるものである。だが、人力に比べて、まだ限界がある。その限界を超えることがシンギュラリティに近づくAI時代のテクノロジーの大きな課題でもあるからだ。本書を読めば、ポストトゥルースの時代に、AIは何をなすべきかも明らかになるだろう。

 

第四は、グローバルな視野を持った投資家である。どのようなメディアが、さまざまな問題を正面から処理し、時代のニーズに誠実に応え、メディアとして生きのびてゆけそうか、つまり有望企業であるかも、本書を見れば浮き彫りになるだろう。

 

「終章 誰が情報戦争を終わらせるのか」で、著者は 峙蚕僉廰◆峽从兩裁」 H信者情報の開示請求の改善 ぁ嵎麁察廚了佑弔鬟侫Дぅニュースやポストトゥルースへの対抗策として挙げている。これらのどれ一つとして決定打になるものではないが、それなりの効果は挙げてきたことが本書の中で示されている。強い法的規制を求めれば、それは悪用され、言論の自由を大きく毀損する場合もある。自由と人権のバランスのはざまで、それぞれの置かれた環境での最適解を見つけ出す必要があるのだ。『情報戦争を生き抜く 武器としてのメディアリテラシー』は、その最良の手引きとなる良書である。

 

  Kindle版

 

関連ページ:

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