つぶやきコミューン

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ナカムラクニオ、道前宏子『村上春樹語辞典』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

 

『村上春樹語辞典』(誠文堂新光社)は、荻窪のブックカフェ「6次元」の店主であるナカムラクニオと編集者で「六次元」の経営者である道前宏子による村上春樹に関する用語辞典である。

 

『風の歌を聴け』でデビューして以来約45年、私たちは多くの村上作品を読んできた。長編小説こそ一年に一冊出るか出ないか程度のゆっくりしたペースであっても、間に短編集やエッセイ集、インタビュー、フィッツジェラルド、サリンジャー、チャンドラー、レイモンド・カーヴァ―、アシュラ・ラ・グインなど多くの翻訳が入るために、その総数は膨大な数になる。それらを完全にカバーしながら、かゆいところに手が届く村上春樹辞典になっているのである。

 

驚くのは、本書に収められた膨大な挿絵が、すべてナカムラクニオによって描かれていることだ。そのタッチや色調は、村上春樹の初期の作品が描かれた70−80年代のポップカルチャーのテイストを反映しながら、対象の特徴を、シンプルで素朴なタッチでまとめていて、嫌味がない。特に、食べ物や人物の肖像画の何枚かはとてもよく描けている。文字だけの解説よりも、はるかに容易に、村上春樹の世界にダイブするのに役に立つことだろう。

 

収録されているのはまず村上春樹の書名、作品名。そして登場人物。

 

たとえば『ノルウェイの森』なら、ワタナベトオル、直子、みどり…

『!Q84』なら天吾、青豆、ふかえり、牛河…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』なら、まず多崎つくる、そしてアオ、アカ、シロ、クロ。

 

そして、村上作品に登場する音楽。作曲家・アーティストや作品名。

 

クラシックはバッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、ロッシーニ、シューベルト、フランツ・リスト。

ジャズなら スタンゲッツ、ナット・キング・コール、デューク・エリントン、ジョン・コルトレーン。

そしてブルース・スプリングスティーンに、ボブ・ディラン。

 

作中にさりげなく登場する映画には、

「スター・ウォーズ」や、「アルファヴィル」

 

逆に、「風の歌を聴け」(1981)から「ハナレイ・ベイ」(2018)まで映画化された村上作品のコレクションもある。

 

また村上春樹による翻訳作品も、ことごとく紹介されている。

 

『僕が電話をかけている場所』や『ファイアズ』など、日本で知られていなかったレイモンド・カーヴァーを紹介し続けたのは村上春樹の功績だ。

スコット・フィッツジェラルドの『グレイトギャツビー』は、村上春樹にとってバイブル的な存在だ。

アーシュラ・K・ル=グインの『空飛び猫』のシリーズ4作はことごとく翻訳。

サリンジャーの有名な作品は『キャッチャー・イン・ザ・ライ』と改題。

それ以外にも、ポール・セロー、ティム・オブライエン『ニュークリア・エイジ』マッカラーズ『結婚式のメンバー』など多くの作品を村上春樹は翻訳している。

 

忘れてはならないのは、オールズバーグの絵本だ。河出書房新社とあすなら書房から1985年から2006年までの間に、実に12冊もの絵本が翻訳出版されているのである。

 

村上春樹は翻訳する人である一方、世界各国語に翻訳される人でもある。

 

本の表紙の中には、翻訳されたタイトルが読み取れて、『舞・舞・舞』(中国版の『ダンス・ダンス・ダンス』)のように、思わず微笑んでしまうものもある。

 

村上作品を翻訳し紹介した中でも特に、ジェイ・ルービン、アルフレッド・バーンバウム、フィリップ・ガブリエルの三人が重要だ。

 

さらに村上春樹作品に出てきた地名や、ゆかりの地名。

 

『海辺のカフカ』の田村カフカは中野区野方に住んでいた。『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』ではフィンランド、名古屋、新宿などの地名が登場する。

『ノルウェイの森』では、僕と直子は四ツ谷駅からスタートし、飯田橋から神保町、本郷を経て、駒込まで達するのだった。

大学時代を過ごした早稲田、ジャズ喫茶『ピーターキャット』を開いた国分寺、その移転先の千駄ケ谷、『1Q84』の舞台の一つ高円寺、村上春樹が育った芦屋、神戸。

 

もちろん、猫や羊、カンガルー、象などの動物も欠かせない。「羊」の項にはこんな説明がある。

 

『羊をめぐる冒険』(p134)の執筆時に北海道を旅してまわったという村上さんは、羊についてかなり詳しく調べている。そのとき取材を受けた緬羊研究の第一人者、平山秀介さんは、東京からやって来たヒッピー風の夫妻から熱心な質問を受けたため、てっきり羊飼いになりたいのだと思っていたら、その後、サイン入りの『羊をめぐる冒険』が送られてきたというエピソードを明かしている。p134

 

さらに村上作品の中に登場する料理の数々。コラムの村上食堂では、『ダンス・ダンス・ダンス』に出てくるまともなハンバーガーや、『騎士団長殺し』に登場する「完璧なオムレツ」などを紹介。

 

それから、カローラや、フォルクスワーゲン、クラウンといった車の数々。他にもプジョー、フィアットなどが登場する。

 

「春の熊」や などさまざまな比喩も紹介されているし、もちろん「やれやれ」という言葉も収録されている。

 

 村上作品のどこか冷めた主人公たちが、しばしば口に出すセリフ。この世界の不条理さとあきらめを表現している魔法の言葉。『1973年のピンボール』(p097)で「やれやれ」が登場して以来『騎士団長殺し』(p063)までたくさんの「やれやれ」が書かれている。p169

 

この解説だけでは物足らないようで、さらに2ページにわたってコラムで「やれやれ」について語られるのだ。

 

『村上春樹語辞典』を見れば、どの作品で、誰が、何が登場するかが、手に取るようにわかる。そして、どんな著名人と親しく、仕事をともにしたかも。そして、いつの間にか、頭の中に村上春樹ワールドのマップができてしまうのだ。

 

飛び飛びで思いつくままに拾い読みしてもよいし、前から順に通読してもよい。項目からつながりのない次の項目へと読み進めるのに飽きるころに、これまたイラスト満載のコラムがある。また、ナカムラクニオは村上春樹本の有数のコレクターであるため、得難い本が一堂に会した書影の列が壮観である。

 

多くの村上作品を読みながらも、なぜかストーリーはほとんど覚えていないが、いくつかのイメージのみが印象的に残っているのが村上春樹作品の特徴だ。何かを読もうというよりも、昔読んだかもしれない何かを読み直そうと思うことが多いのも村上春樹作品の特徴で、そのための最強の導きの糸となるのが、この『村上春樹語辞典』なのである。

 

関連ページ:

村上春樹『ラオスにいったい何があるというんですか?』
村上春樹『職業としての小説家』
村上春樹『村上さんのところ』
   PART2 (人名・作品名辞典)
村上春樹『女のいない男たち』(1) (2)
村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』 補遺

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