つぶやきコミューン

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NewsPicks Magazine Autumn 2018 vol.2 [ニューエリートの必読書]

JUGEMテーマ:自分が読んだ本

 

 

幻冬舎より発行の『NewsPicks Magazine Autumn 2018 vol.2』は、「ニューエリートの必読書500」と題し、各界の著名人や専門家がセレクトした必読書の特集がメインとなっている。

 

創刊号のあまりの充実ぶりに、vol.2以降の息切れを心配したが、単に国内だけでなく、アメリカ圏を中心に世界をカバーする挑戦的なスタイルはいささかも失われていない。

 

NewsPicksというと、意識高い系のサロン的な世界で、自己啓発書が中心と思いがちである。基本的にノージャンルである前田裕二の項こそそうした読者へのサービス的な部分もあるが、『孫子』『韓非子』『論語』など中国の古典が並んでいるのが特に目を引く。

 

前田の性善説と性悪説の咀嚼の仕方が優れている。

 

―ー韓非子的ソリューションというのは、性悪説に基づいてルールを強化することですか。

 厳密に言うと、性悪説というよりは、性弱説ですね。

 性悪説を最初に唱えた荀子も、人間が本質的に悪なのではなくて、環境によって悪に善にも変わってしまう、つまり弱い生き物なんだと考えていたのだと思います。

 性善説は性悪説は両立し得ないのですが、僕は、性善説と性弱説は両立すると思っています。つまり、「人は善く弱い」と捉えているのです。p14

 

他の著者に関しては、ハイブロウな教養人対象のチョイスであり、特に文学の項を譚とした佐渡島庸平がNewsPicksの読者層に触れた部分が興味深い。

 

 NewsPicksの読者は、すぐわかるものを読みたがる。読むと仕事のやる気が出る本も好きですよね。でもそのやる気はたぶん一日で消えてしまう。要するにテンションを上げる本なんです。テンションを上げるだけなら音楽を聴いた方がいい。p85

 

そう述べた上で、語り得ぬものを物語の形式で語ろうとする小説の意義を伝えようとするのである。

 

テクノロジーの分野を落合陽一が、統計学の分野を『統計学は最強の学問である』の西内啓が、経営の分野を楠木健が、英語の分野を同時通訳として定評のある関谷英里子が、アートの分野を『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の山口周が、そしてSFの分野をHONZ代表の成毛眞が執筆し、それぞれの視点からなぜそれらの本が選ばれたかが語られる。

 

たとえば、近著『デジタル・ネイチャー』でも援用されるノーバ―ト・ウィーナーの『サイバネティックス』に関して、落合は

 

 なぜ現代においても、こんなに古い本を読む価値があるかというと、ウィーナーのように思考をまとめようとする哲学のスタイル自体が面白いからです。時代を超えた価値があるのです。p32

 

と語っている。

 

西内啓は、統計学の入門書として、アラン・ダブニーとグレディ・クラインの『この世で一番おもしろい統計学』をあげながら、

 

統計学の一番のキモは、目の前のデータを集計したり平均を取ったりすることではなく、データの背後に潜む仕組みや法則を推測すること。多くのビジネスパーソンがわかっていないこの点を、マンガ(日本人好みの絵柄ではないが)と図解を使ってわかりやすく解説する。p56

 

とその長所を強調する。

 

楠木健は、小倉昌男の『経営学』と馬場マコトと土屋洋の『江副浩正』を並べてあげながら、両者の比較の面白さに言及している。

 

何が面白いかというと、彼の人生は途中まで、ものすごく小倉さんと似ている。本当にロジカルに全体を俯瞰して、それまでの業界の思い込みにとらわれることなく、まったく新しいビジネスを組み立てた。

 ところが、ご存じのように江副さんは人生の後半でトチ狂ってしまう。リクルート事件はその氷山の一角で、本来のイノベーターとしての輝きを失い、割と筋が悪いことをどんどんやるようになるんです。p64

 

こうした江副の評価の仕方は信頼できるものであろう。

 

「日本経済史」担当の横山和輝は、伊藤修の『日本の経済』を簡潔にまとめながらこう評価している。

 

『日本の経済』は経済学の視点で20世紀から21世紀の日本経済を俯瞰した本です。マクロ経済学の枠組みを押さえたうえで、戦後の昭和を中心に、明治から平成に至る日本経済の歴史と現状の両方を一気に学べます。p70

 

これだけの位置づけをされた本が、ハンディな中公新書に含まれるとわかると思わず読んでみたくならないだろうか。

 

関谷英里子はNancy Duanteの『slide:ology』を

 

効果的なプレゼンとスライドの作り方を指南した本。「文字が多くて読み切れない」など陥りがちなミスを排し、世界標準のプレゼン技術を身につけたい人にお薦め。p73

 

としているが、日本中のビジネスパーソンに読ませたい本だとわかる。

 

そして、成毛眞はシリコンバレーの起業家たちが好んで読むSFを読むことの価値を次のようにまとめている。

 

 恋愛小説は半径50cmぐらいの日常を描いているけれど、SFは半径5万劼阿蕕い寮こΔ鯢舛い討い襦そういう宇宙規模の物語を読んでいると、大きく考える力が養われる。それは大人になってから、発想力の差として表れます。p89

 

成毛のSFの選択は、『幼年期の終わり』『アルジャーノンに花束を』のように、古典的なものが多いが、グレッグ・イーガンの『順列都市』とオースン・スコット・ガードの『エンダ―のゲーム』を挙げているのが興味深い。

 

海外に関しても、ビル・ゲイツの120冊すべてがリストアップされる他、マーク・ザッカ―バーグウォーレン・パフェットバラク・オバマラリー・ペイジティム・クックイーロン・マスクジェフ・ベゾスピーター・ティールスティーブ・ジョブズとスーパースター揃いである。


海外篇に関しては分野による縛りがない分、それぞれの個性が顕著に現れていて、隣り合った人物の選書の違いから、発想の違いそのものがくっきりと浮かび上がるのである。

 

マーク・ザッカ―バーグの選んだ本には、モイゼス・ナイム『権力の終焉』ダニン・アセモグルとジェイムズ・ロビンソンの『国家はなぜ衰退するのか』があるのはいかにもリバタリアンだし、イーロン・マスクの選書にはトールキンの『指輪物語』や、アイザック・アシモフの『ファウンデーション――銀河帝国衰亡史』が含まれるのはいかにも夢見る少年である。

 

それに対して、ジェフ・ベスのリストに『ビジョナリーカンパニー』『イノベーションのジレンマ』『ブラック・スワン』『日の名残り』などオーソドックスなラインナップが並んでいる。

 

そしてビル・ゲイツの120冊に至っては、ジャンルや好みを超越したオールラウンダーのイメージがある。そのゲイツとバフェットが揃って絶賛している本と言われると、ジョン・ブルックスの『人と企業はどこで間違えるのか?成功と失敗の本質を探る「10の物語」』も思わず手に取ってみたくなる。

 

とは言え、500冊の読んでないものを片端から読もうとするのは賢明でないだろう。その半ばは洋書であるし、入手にとんでもないお金や時間がかかり、厚めの本が多いため相当のスペースを食い、相当な重さになる。

 

だから、解説を流し読みする中で、自分のアンテナにひっかかったものをピックアップしてゆくのが第一のやり方だ。

 

もう一つのやり方は今興味ある分野に重点を置いて、その中でも興味をひく二、三冊をピックアップして読んでゆくやり方だ。そこで興味が深まれば、その分野の他の本に手を伸ばしてもよいし、ここで触れられていない別の本に向かってもよい。

 

さらに、海外篇に限らず、英語の原書のブックガイドが充実しているのが、本書の特徴だ。

 

落合陽一が薦めるJohn Maedaの『THE LAW OF SINPLICITY』は読むと考えが整理され、アイデアが次々に浮かびそうだし、西内啓が薦めるKaren Glanz、Barbara K.RimerK.Viswanathの『Health Behavior』は「健康のために人々の生活習慣をいかに変えるかを科学的に論じた医療者向けの本」というだけに、役に立つ知識満載の観がある。Walter Isaacsonの『Leonardo da Vinci』なんていかにも、ヤマザキマリがそのうち漫画化しそうではないか?

 

それに加えて、全米トップ10大学の課題図書ベスト10は、プラトンの『国家』、アリストテレスの『倫理学』、『政治学』、ホッブスの『リヴァイアサン』、マキャベリの『君主論』などきわめてオーソドックスな古典が並び、こうした本も捨てたものでないなと思い直す。

 

その他の特集記事「ニューエリートの思考法」は基本的に仕事法の紹介、「ニューエリートの習慣」は学習法の紹介で、本文の内容とも関連しているものが多い。たとえば千葉雅也「社会人が変身する勉強術」は、そのままこの雑誌で紹介された本の消化の仕方に応用できるものだろう。

 

  学問を学ぶときは、まずその分野の良質な入門書を見つけて読み、次はその入門書で紹介されている、より本格的な本を読んでいくのが正攻法です。

  その専門領域で、信頼されている本を読むことが大事です。いうなれば、「ソフトな権威主義」ですね(笑)。

  翻って、突然成功したような、よくわからない人の体験談などは、勉強になりません。ぽっと出の人に限って、自分の体験に頼り切って「これが絶対法則だ」とか言いきったりします。とても信頼できるものではない。p170

 

『News Picks Magazine Autumn 2018 vol.2』は、見直すたびに新しい発見があり、次の読書行動に駆り立て、個人の読書の境界線を大きく変えてしまう可能性を持つ最強の読書雑誌である。

 

  Kindle版

 

関連ページ:

NewsPicks Magazine Summer 2018 vol.1

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