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ポール・ウェイド『プリズナートレーニング 圧倒的な強さを手に入れる究極の自重筋トレ』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

 

 

ポール・ウェイド『プリズナートレーニング 圧倒的な強さを手に入れる究極の自重筋トレ』(CCCメディアハウス)は、バーベル、ダンベルや様々なマシン、プロテインなどに代表される筋トレの「近代」批判の書である。そして、キャリステニクス(Calithtenics) という自重トレーニングの集大成の本である。

 

キャリステニクスとは何か? 

 

キャリステニクスは、少なくとも19世紀から使われてきた英語だが、語源はとても古い。古代ギリシアの「美」を意味するkalosと「強さ」を意味するsthenosを組み合わせたものだ。p28

 

それは、「美容体操」や「徒手体操」など、さまざまに訳され、誤ったイメージを与えてきたが、本来のキャリステニクスは、古代ギリシアの時代以前より自重を利用した筋力トレーニングとして発達してきた。その最古の記録の一つは、ヘロドトスまで遡るものだと著者は言う。

 

 キャリステニクスのもっとも初期の記録のひとつに、歴史家ヘロドトスによるものがある。テルモピュライの戦い(紀元前480年)前夜の話だ。神の王クセルクセスが、レオニダス率いるスパルタ軍がいる谷に偵察隊を送った時のこと。戻ってきた偵察隊の報告がクセルクセスを驚かせることになる。スパルタの戦士たちがキャリステニクスで激しいトレーニングをしているという内容だったからだ。p29

 

自重トレーニングであるキャリステニクスで鍛えた300名の兵士は、ペルシア軍12万を、他のギリシア勢が合流するまで食い止め、後世までの語り草となった。

 

 ギリシア人には、キャリステニクスを使えば、体がもともと持っている潜在的な力が最大限に引き出されることがわかっていた。今日のボディビルダーのように醜くふくらませるのではなく、彼らが目指したのは、均整がとれた自然美だ。それを体そのものをウエイトにすることで実現していた。軽すぎもせず、重すぎもしないウエイトは、母なる自然が作り出す完璧な”抵抗”だ。ギリシア人はキャリステニクスが強さと運動能力だけでなく、優美な動作と、美しい体をもたらすことを理解していた。p30

 

しかし、キャリステニクスはやがてダンベルやバーベルなどを用いた近代的なトレーニングによって、とって代わられる。だが、それが伝承され、進化し続けた場所があった。監獄という、器具が手に入らない場所である。著者がキャリステニクスという技術と出会い、それによって自らの身体を鍛え上げ、それを集大成することとなったのも、まさにこの監獄においてであった。

 

 わたしの名はポール・ウェイド。悲しいことにわたしは鉄格子の後ろの人生について知っている。初めての犯罪。1979年のそれでサン・クエンティン州立刑務所に入り、その後の23年間のうちの19年間を、地獄のアルカトラズにとって代わったアンゴラ(別名ザ・ファーム)やマリオン(ザ・ヘルホール)など、アメリカでもっともタフな監獄の中で暮らしてきた。p21

 

弱肉強食の世界である監獄において、他の囚人の餌食にならない唯一の手段は、兵士、体操選手、武道家など周囲の様々なキャリアの持ち主より学びながら、短期間で屈強な身体をつくりあげることだった。いわば、キャリステニクスは、サバイバルの技術として習得され、練り上げられたものであった。

 

 その結果、6か月で大きな体とパワーをつくることができ、1年が経つと、ホールに集まる囚人の中で、もっとも身体能力がある一人になっていた。すべてキャリステニクスのおかげだった。キャリステニクスは監獄の外では死んでしまっていたが、監獄内では、世代を超えて受け継がれていた。監獄という環境でのみこの知識が生き残ったのは、トレーニングする上での選択肢が他にあまりないからだ。p23

 

キャリステニクスの技術を極限まで磨き上げ、身につけることができるなら、ボディビルダーやパワーリフターにも負けない強さを身につけることができると著者は一貫して主張する。しかし、プッシュアップ(腕立て伏せ)にしても、スクワット(膝の屈伸運動)にしても、いたずらに回数をこなすようなやり方ではそれは実現できない。重要なのは、持久力ではなく、強度であるからだ。そのため、著者がまとめ上げたキャリステニクスの総合メニューであるコンビクトコンディショニングでは、50回を上限として、負荷を段階的に高める仕組みとなっている。

 

コンビクトコンディショニングでは、ビッグ6と呼ばれる6種類の運動は、それぞれ10段階にわかれて、一段ずつステップアップする仕組みになっている。

 

ビッグ6とは何か。ザ・プッシュアップ(腕立て伏せ)、ザ・スクワット(膝の屈伸運動)、ザ・プルアップ(懸垂)、ザ・レッグレイズ(足上げによる腹筋運動)、ザ・ブリッジ(上体を後ろに反らし両腕と両足で支える)、ザ・ハンドスタンド・プッシュアップ(倒立腕立て伏せ)の6種類である。

 

特徴的なのは、誰でもメニューのスタートが可能なように、10段階の最初は非常に簡単な運動になっていることである。たとえば、ザ・プッシュアップでは、通常の腕立てであるフル・プッシュアップは10段階の5に位置し、それまではウォール・プッシュアップ(壁に向かっての腕立て)、インクライン・プッシュアップ(机に向かっての腕立て)、二―リング・プッシュアップ(膝をついての腕立て)、ハーフ・プッシュアップ(途中までの腕立て)と4つの負荷の低い運動が並んでいるので、初心者でも挫折を味わうことが少ない仕組みになっている。スクワットでも、通常のスクワットは10段階中の5段階、ザ・プルアップやザ・レッグレイズでも同様だ。

 

しかし、体重は体重を超える負荷をかけることはできない。それを補うのが、片手や片足での運動だ。ザ・プッシュアップでは、最後の10段階目がワンアームプッシュアップ(片手での腕立て)、ザ・スクワットでは10段階目にワンレッグ・スクワット(片足での屈伸運動)が来る。ザ・プルアップでは、9段階目が『ロッキー』の中でスタローンがやっていたアシステッド・ワン・アーム・プルアップ(もう一つの手で手首をつかんでの片手懸垂)で、10段階目がもう一方の手をそえない完全なワン・アーム・プルアップになる。さらに、最後を飾るザ・ハンドスタンド・プッシュアップでは、ハンドスタンド・プッシュアップ(両手による倒立腕立て)が5段階目で、10段階目にワンアーム・ハンドスタンド・プッシュアップ(片手による倒立腕立て)という常識外れの運動が来る(だが、一貫して壁から離れるレベルまで求められることはない)。

 

ビッグ6で、10段階目のマスターステップまで進むと『空手バカ一代』か、『プロレススーパースター列伝 タイガーマスク編』の世界、ブルース・リーの 截拳道(ジークンドー)の世界である。

 

しかし、一見超人的なステップである片手での腕立てや、懸垂、倒立腕立て、片足での屈伸運動なども、その前段階が細かく区切られているので、いきなり両手から片手にステップアップが求められるオール・オア・ナッシングの発想に陥らずに済む。たとえば倒立腕立てから、片手の倒立腕立てに至るまでに、クローズ・ハンドスタンド・プッシュアップ(腕の幅を狭める)、アンイーブン・ハンドスタンド・プッシュアップ(片手をバスケットボールにのせる)、ハーフ・ワンアーム・ハンドスタンド・プッシュアップ(半分だけ腕を曲げる)、レバー・ハンドスタンド・プッシュアップ(片手は前に出し床に触れる)の4段階があるので超人的な運動にもステップバイステップで肉迫できるのである(著者は、確実に前の段階をクリアした上で次に進むよう強調する)。

 

合理的なメソッドに従って、時間をかければ、誰でもゴールに到達できるというのが本書の売りなのだ。

 

それぞれの項目については一般的に行われている類似の運動の長短も述べられていて、参考になる。

 

CHAPTER5 ザ・プッシュアップの項では、手のひらを標準とし、拳を使うのは手首を痛めた人のみ、指先による腕立ては補助程度の位置づけ、それ以上指の数を減らすのは推奨しないスタンスをとっている。

 

 それではもの足りないと言う人もいるだろう。しかし、使う指を減らしたいという誘惑に乗ってはいけない。両手の指先を使ってステップを進み、そのまま指先だけのワンアーム・プッシュアップをマスターする。そのほうが安全だ。p69

 

CHAPTER6 ザ・スクワットの項では、バーベルスクワットの弊害について警告した後、ワンレッグ・スクワットに代えるメリットを訴えている。

 

 重いウエイトを背中の上部に置くと、脊柱にすさまじい圧力がかかる。脊椎を圧迫し、腰痛、筋肉の緊張、座骨神経痛、椎間板ヘルニアなどにつながっていく。p107

体を上下に動作させながらのワンレッグ・スクワットは、バランスを取るために、筋肉を協働的に動作させるエクササイズであり、バランス力を鍛える。ワンレッグ・スクワットは、機能的な脚をつくる上でもバーベル・スクワットにまさっている。自然に行うほとんどの動作(蹴る、何かにぴょんと跳び乗る、登るなど)には片脚になる瞬間が含まれている。そのため、外部荷重を使うバーベル・スクワットと比べて、片脚になるワンレッグ・スクワットは、はるかに自然に近い動作になり、セッション間の回復も速い。p108

 

CHAPTER9 ザ・ブリッジでは、「世界でもっとも大切な運動はブリッジ」とまで言い切っている。

 

 もし世界中でもっとも大切なエクササイズはなにかと問われたら、ブリッジだと答えるだろう。どんなエクササイズもブリッジには及ばない。p215

メッセージはシンプルだ。ブリッジは背中や腰の痛みをなくし、その人をより健康的に、より強く、より速く、より機敏にする。持久力も増やす。p220

 

本書の随所には、ジムでのバーベルやマシンを使ったトレーニングの問題点がこれでもかと指摘してあるので、ジム通いの人はうんざりするかもしれないが、最終的には著者もハイブリッドトレーニングを許容し、ウェイトリフターにとっても、キャリステニクスを行うメリットまで力説するに至るので、そのコンセプトを紹介しているPART1はとりあえずPART4のコンビクトコンディショニング以外をスキップして、(だが危険防止のために欠かすことができない)PART3 セルフコーチになるにはを読んでから、PART2のビッグ6実践編に移るのがよいだろう。
 

注意の基本は、必ずステップを経て段階的に進むこと、正しい姿勢で行うこと、弾みをつけないでゆっくり行うことの三つだ。

 

ビッグ6のうち、ザ・プルアップの最初の2つを除く8つの運動と、ザ・レッグレイズの後半5つの運動については、鉄棒のようにぶら下がる場所が必要だが、それ以外に関しては、どこでも可能で、しかもジムのようにお金がかからず、間違いなくトップアスリート並の筋力に近づけることができる方法であることは確かである。
 

腕立て、腹筋、スクワットに関しては、どのスポーツでも基礎トレーニングとして取り入れているところが多いが、懸垂や、倒立、ブリッジの三つはシンプルな割に、行われることが少ない運動だ。どんなスポーツに従事していようと、あるいはまったくスポーツから離れた生活を送っている人も、それぞれのニーズやレベルに合わせたトレーニングメニューを組む上で、大いに参考になる本である。

 

『プリズナートレーニング』は、どこでも、誰でも可能で、初心者からトップアスリートまで、信じられないほど幅広いレベルをカバーできる自重トレーニングのバイブルと言える名著である。

 

 Kindle版

 本書の構成:

まえがき

おことわり

PART1 準備

 CHAPTER1 イントロダクション

 CHAPTER2 いにしえのキャリステニクス

 CHAPTER3 監獄アスリートのマニフェスト

 CHAPTER4 コンビクト・コンディショニング

PART2 自重力で筋力をつくる

 CHAPTER5 ザ・プッシュアップ

 CHAPTER6 ザ・スクワット

 CHAPTER7 ザ・プルアップ

 CHAPTER8 ザ・レッグレイズ

 CHAPTER9 ザ・ブリッジ

 CHAPTER10 ザ・ハンドスタンド・プッシュアップ

PART3 セルフコーチになるには

 CHAPTER11 体を鍛える時の知恵

 CHAPTER12 ルーチン

謝辞

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