つぶやきコミューン

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関根虎洸 『遊郭に泊まる』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

 

60年前の赤線禁止令でこの世から姿を消し、金沢の茶屋街や、飛田新地でかろうじて生きながらえていると思われた遊郭。その遊郭に泊まるというのはどういうことだろうか。実は遊郭建築の中には、そのまま旅館へ転業し、今日まで往時の姿をとどめているものも少なくない。このような宿を、転業旅館という。

 

関根虎洸『遊郭に泊まる』(新潮社)は、北は青森から南や山口まで全国に点在するこのような転業旅館を巡り歩き、宿泊する中で、その内外の姿や歴史をまとめた一冊である。

 

本書では3年の間に訪ねた14か所の転業旅館と、番外編として、遊郭から転業した飲食店や中国に残る転業旅館など、計20か所の元遊郭を収録している。p8

 

かつては遊郭であったという建物の出自を封印することも多かったが、今日では建築愛好家や外国人観光客などの固定客も増え、1〜2ヶ月先まで予約が埋まるほど転業旅館は人気が高くなっているため、ここで紹介された宿は堂々と利用することができる。

 

中でも圧巻は、番外として紹介されている、国指定登録有形文化財の飛田新地「鯛よし百番」の、安土桃山風の絢爛豪華な外観と内装である。京都太秦の映画村の遊郭街がいかにもみすぼらしく見えてしまう。このような建物が今日もそのままの姿をとどめているのは、奇跡としか言いようがない。

 

テレビで何度か扱われた、伊勢市の「麻吉旅館」の懸崖造りの五階建ての建築も素晴らしい。大きな高低差ある石段を二つの建物ではさみながら、渡り廊下でつないでいる。必要以上に手の込んだ木造建築の細部の質感が圧倒的なのである。緑青屋根の破風が重厚な京都五条の「宿や平岩」や、「本家三友」も訪ねてみたい建物の一つだ。

 

遊郭建築が魅力的なのは、それがかつて栄えた時代の記憶をとどめ、想像力の中でその歴史を解凍することができるからである。そして街の成り立ちを知る有力な手がかりとなる。経済人類学者栗本慎一郎の「光の都市、闇の都市」の理論で語ったように、遊郭は寺社仏閣とともに、いわば一種の異界として、闇の都市の側に位置していた。そして、官庁や商業地のある光の都市との間には、しばしば境となる川や水路が存在したのである。

 

大谷川に面して立つ京都府八幡市の「多津美旅館」や、生駒山宝山寺参道の旅館、水路沿いにある山口県萩市の「芳和荘」などは、建物だけでなく、そのロケーションによって、多くのことを語らずにはおかないだろう。

 

一連の遊郭建築の概観が目に焼きつくと、歩きながら、街を読みとく感覚が鋭くなる。本書で紹介されたよりもずっと多く、旅館へと転業せず、住宅や飲食店などとして街中にひっそりと生きながらえているかつての赤線、青線の建物が、まだまだ存在するのである。

 

観光目的の旅行なら、いたずらに高級で豪華なホテルや、旅館よりも、それ自体が歴史的文化財であるような旅館の方がずっと面白い。本書は、旅に新たなスタイルを加える一冊でもある。

 

関連ページ:

井上理津子『さいごの色街 飛田』

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