つぶやきコミューン

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大童澄瞳『映像研には手を出すな!3』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

 

 

大童澄瞳『映像研には手を出すな!』待望の3巻の発売である。これほど、発売が待たれた作品はない。

 

通常の漫画であれば、ストーリー展開を楽しんだのち、あそこの場面は台詞がよかったとか、あの場面の構図は凄かったとか、ときどき印象的なシーンを読みかえす程度である。

 

しかし、『映像研には手を出すな!』の場合、一通り読み通したところがスタート地点である。ページのあちこちに隠された、無数のアイテムを発見しながら、一つのダンジョンとなっている本の探検が始まる。

 

たとえば、吹き出しの中の台詞が実に効果的に使われている。平面の奥行きを出すだけでなく、俯瞰の構図でも、下ほど小さくなる文字が、単に立体性を強調するだけでなく、読者に情動までも伝えてくる。要するに、エモいのである。

 

しかし、パースのついた文字は、いつでもどこでも始まるわけではない。日常的な空間が曲折し、ダンジョン化するシーンにおいて、その水平や、垂直の奥行きを強調するために、要所要所で効果的に用いられるのである。

 

橋の脇から階段を下り、暗渠の中を電撃三人娘が進む。探検ごっこが始まる場面でのパースつき文字は特に効果的だ。狭さや危険、恐怖感までも読者に伝えている。

(『映像研には手を出すな!3』p9)

 

あるいはちび森氏(幼少期の金森さやか)の回想が始まるとき。親戚が営む酒屋はまず俯瞰の構図で上からとらえ、次に店の奥から三人が入ってきた入り口方面を透視するかたちで用いられる。

(『映像研には手を出すな!3』p100)

 

最初時間的距離があるが、視点が登場人物と同化するや、たとえ俯瞰の構図であっても、パースつき文字は使われなくなる。次に使われるのは、映像研部室の吹き抜けスペースの中に、外部からの闖入者をとらえる時である。

 

『映像研には手を出すな!』の魅力の第二は、リアルな場面が、浅草みどりや水崎つばめが妄想し始めるや否や、SFアニメ世界の絵へと変化することである。暗渠の先の水没した都市の遺構は、多島海国家群、大アトランティス連合となり、その設定図が見開きで展開される。しかし、浅草みどりが転倒することで、最強の妄想世界は中断され、現実の空間へと引き戻される展開も秀逸だ。

 

『映像研には手を出すな!』の第三の魅力は、「電撃三人娘」のキャラ立ちした個性だ。通には、浅草みどりから「金の亡者」と呼ばれるリアリスト金森さやかのキャラクターが受けているが、個人的には断然浅草みどりである。というのも、丸に点を二つと、眉を表す直線二本、口を表す直線一本で顔を描くことのできる浅草みどりの千変万化の表情を、著者は描きわけているからだ。浅草みどりの表情は、そのまま内弁慶なヲタククリエイターの内面を、映し出す。

 

最強の世界を体現する場面での、少年漫画の主人公のようなどや顔、しかし、人前では一転して不安になる。ピンチには弱く、すぐにテンパって冷や汗を流す。だが、ひらめいたり好奇心の対象を発見すると突然に復活する。ときには仮性包茎的に自分の衣服の中に引きこもることもある。ときには、目の前が黒くタヌキになったり、額に三角巾をつけたり、芸が細かい。ドラえもん並のシンプルな造作で、これほど多様な感情表現を行った例は、見つけるのが困難だ。作者が浅草の表情を楽しんで描いているのがよくわかるのである。それに比べると、金森さやかも、水崎ツバメも表情のレパートリーがずっと少ない。

 

(『映像研には手を出すな!3』p130の浅草みどりの表情変化、懐古的な一枚目のみ鼻が現れ目もリアルに寄せている)

 

さて、この3巻では、第四のキャラクターが登場する。生徒会の依頼で、部室の退去を迫った音響研のたった一人の住人、百目鬼(どうめき)氏である。この出会いによって、新たなケミストリーが生じ、映像研はさらなるパワーアップを遂げることだろう。

 

第3巻は、(ビッグサイトでのコミケを連想させる)COMET-A538という外部イベントに、映像研が参加を決めるところから始まる。しかし、外部での金銭授受をよしとしない学校当局との間に対立が生じる。金森氏の弁舌をもってしてもなかなか手強いのである。さらに、DVD焼きを依頼した業者の問題も発覚するなど前途多難だ。この難局を、映像研はいかに乗り切るのか。さらに、業務提携した音響研の百目鬼氏との出会いによって、何が変わるのか。そしてコメットAの成否は。

 

第3巻では、さらに浅草みどりと金森さやかとのなれそめの場面や、幼い金森氏がいかにして現在の金銭感覚を身につけたかといった昔話や、芝浜高校の対岸の風景も初公開される。てっきり海だと思っていたあの場所が実は…

 

そんなわけで、着実に進化しながら、前に進み続ける映像研三人娘の活躍から目が離せない。第三巻のカバーも、「映像研部室ない備品配置は定期的に変化しているので用観察」だの、「芝浜高校にそびえる大きな円筒状の建物は図書館である」だの作者による

数々のトリビアが解説されているので、要チェックである。

関連ページ:

大童澄瞳『映像研には手を出すな!』1,2

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