つぶやきコミューン

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東野圭吾『魔力の胎動』

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東野圭吾『魔力の胎動』(角川書店)は、『ラプラスの魔女』の主人公羽浦円華を主人公とした連作集で、異なるエピソードを扱った5つの章からなっている。

 

最初に登場する円華は、十代半ばの小柄な女性として描かれている。幼い頃、竜巻で母親を失い、科学者の父親を持つ彼女は、特殊な能力の持ち主。複雑極まりない流体の動きを予測できてしまうのである。

 

「第一章 あの風に向かって飛べ」では、スキーのジャンプで成績が伸び悩む選手、坂屋幸広の前に現れる円華。彼女は、ジャンパーの成否をその姿勢とタイミングだけで、予測してしまうが、それでも周囲は選手にアドバイスしようとする彼女の主張をにわかにはうのみにできないでいる。しかし、にはどうしても今回の大会で成功させたい理由があった。大きく変わる風の変化のなかでの最適なタイミングを読みうるなら、ジャンプを成功させることも可能だと言うのである。はたして、彼女の言葉は本当に実現するのだろうか。

 

さらに、「第二章 この手で魔球を」では変化球投手とキャッチャー、「第三章 その流れの行方は」では、川の事故で息子を溺れさせた教師、「第四章 どの道で迷っていようと」では山の事故でパートナーを失った目の不自由なピアニストの前に円華は現れる。どの場合でも、空気の流れや水の流れが関わっているが、その何を予測し、彼女は解決しようというのか。

 

羽浦円華の活躍をメインテーマとしながらも、『魔力の胎動』では、鍼灸師の青年工藤ナユタが、副主人公的に登場する。その謎めいた過去は、『ラプラスの魔女』のストーリーにも直結している。彼がかつてある映画に出演したことがあるというのは本当だろうか。彼の甘粕才生、そして水城義郎との関係は?

 

『魔力の胎動』では、『ラプラスの魔女』では控えめであった円華の能力がはっきりと、これでもかとばかりに描かれる。彼女のキャラクターが明確になった後、『ラプラスの魔女』を読み返すと、出来事の推移を読みながら、カタストロフを未然に阻止しようとする探偵役としての羽浦円華の姿が鮮やかに浮かび上がり、まるで違った物語に見えてくる。見落としていたストーリーの細部までもが意味を帯びて浮かび上がるのだ。

 

『魔力の胎動』で、ミステリとしてのスリルが今一つと思う人は、もう一度『ラプラスの魔女』を読み返してみるとよいだろう。『ラプラスの魔女』全体がジェットコースターの上り坂部分として機能し、以前の三倍ストーリーが楽しめるにちがいない。

 

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