文中敬称略
あだち充『MIX 12』はなにかとぞわぞわする展開だ。
立花投馬、走一郎、高校二年の春。
まずは高校1年となった立花音美周辺に出没する不審者の存在。
東秀高校の元エース三田浩樹の妹亜里沙に誤って伝えられた花見の場所に出没した不審者は逮捕されたが、それでもまだ不審者出没の噂は消えない。それはひょっとすると 野球部の新メンバー錦が中等部時代殴ってしまった元監督の黒柳なのだろうか。
ギックリ腰で入院したキャプテンの今川を見舞いに来た中等部時代のエース二階堂の言葉も思わせぶりだ。
ー帰るのか?もうちょっと待てば立花兄弟が顔を出すぜ。
ーちょっと用事があるんだよ。
ー用事?
ーよろしく伝えといてくれ、最後の夏期待してるってな。
ーあいつらはまだ2年だよ。
ー ―――ああ、そうだったな。
かつて病気で野球をやめざるをえなかった二階堂にさらなる不運の影が立ち込めてきたかのようである。
ライバルの健丈高校の野球部員は監督のスカウト攻勢で充実するのに対し、明青学園のメンバーはまだまだ貧弱だ。そこで、取り沙汰されるのが、中等部時代サッカー部で、この春高等部に上がってきた赤井智仁の野球部入りだ。
バッティングセンターで、弟のバッティング練習を、立花投馬ともども見守る健丈高校の赤井遼は、二人のわだかまりの経緯を明らかにしながら投馬にこう言う。
ーおれを悪者にしてあいつをくどけ。才能はおれが保証する。
『MIX 12』は、冒頭からギャグマンガのような展開の連続で、真面目に野球漫画を描いているようには見えないが、これはカムフラージュである。その間に無数の伏線をしかけている。大山春夏が音美にチラシを配ろうとした廃部寸前新体操部の先行きも気になる。特に、不審者騒動は、新しいキャラクターの登場という形で決着する。
このおじさんの顔は、どこかで見覚えがある。かつて、『タッチ』で、上杉達也の周辺でいい味を出していたあの男だ。とすると、今は勢南高校で監督を務めている西村勇につぐ、旧世代キャラクターの登場?
そんな風に、一人また一人と『タッチ』の成人キャラクターを呼び出しながら、上杉達也や浅倉南に、にじりよってゆくのか、それとも最後まで思わせぶりにとどめるのかは、まだ作者と編集者以外誰も知らない。
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