つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
<< August 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
 
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
@kamiyamasahiko
MOBILE
qrcode
PROFILE
無料ブログ作成サービス JUGEM
 
那須川天心『覚醒』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略  ver.1.01

 

 

キックボクシングで、そしてMMA(総合格闘技)で、プロデビュー以来連戦連勝、圧倒的な強さを見せる高校生ファイター那須川天心『覚醒』(クラーケン)は那須川が物心つくかつかぬかのころからスタートした格闘技人生を語った初の著書である。

 

『覚醒』は、三種類のコンテンツで構成されている。第一は、那須川自身の手記、第二は両親や友人、ジムの会長やトレーナーなど周囲の人物の証言、そして第三は2017年10月15日の藤田大和との対戦に至るまでのリング上の戦いの那須川自身による解説である。なぜ十代にして、ムエタイ最高峰のルンピニースタジアム現役王者ワンチャローンら錚々たるチャンピオンクラスの対戦相手を1、2ラウンドKOできるのか、信じられなかった人も、納得できる材料が並んでいる。

 

第一は、那須川が5歳のころから格闘技漬けの毎日だったことだ。幼いころから姉妹ともども父親に空手を叩きこまれ、小学校のころから極真空手の試合に出場し、ついには世界大会でも優勝している。キックボクシングに転向後アマチュアでの戦績は、なんと105戦99勝5敗1分。つまり、リングに上がる以前に豊富な試合経験と実績を積み上げてきたということなのだ。

 

だから、那須川は、自分の自分の呼称である「神童」や「天才」を否定する。投げ出さずに継続してきたゆえに、現在の自分があることを誰よりもよく知っているのだ。

 

 今の僕はキックボクサーとして「神童」「天才」などと呼ばれることがあるが、自分では全くそう思っていない(そもそも神童の意味がよくわかっていなかった)。現実は、小さい頃から毎日練習をしているだけだ。空手やキックボクシングに限らず、どんなスポーツや仕事でも、正しい方法で何年も休まず努力をしていたら、いつか結果はついてくるのではないだろうか。

 もし僕にすごいと言ってもらえるところがあるとしたら、14年間練習をずっと継続していることだろう。p16

 

第二に、空手の修業を通じて、豊富な技のバリエーションを身につけていることである。那須川の蹴り技は、キックボクシングの蹴りに加えて、三日月蹴りやバックスピンキック、胴回し回転蹴りなど空手の蹴りが加わって、変幻自在である。オーソドックスなキックのハイ、ミドル、ローの回し蹴りや膝蹴りとボクシングでも通用するパンチに加えて、それらの蹴りが加味されるので、予測不可能な怖さがあるのだ。

 

そして、これら二つの要素が混然一体となって融合され、那須川独自のスタイルを生み出している。

 

さらに小学5年よりキックの練習をスタートしたことも大きい。一発に力を込める空手とスピード重視のキックとでは、パンチも蹴りもまるで異なるからだ。

 

 今から分析すると、キックボクシングに転向したのが早かったのが良かったのかもしれない。中学・高校と空手に専念した上で18歳から転向していたとしたら、クセを直すのが大変だっただろう。p28

 

第三は、プロに転じて以降、徹底してピンポイントで急所を狙った攻撃へと転じたことである。もともと空手をやっていたころより急所狙いの習慣があり、父親からも「ずる賢い」と言われていたが、さらにプロに入ってからは、ポイントを稼ぐためダメージは少ないが優勢に見える手数の多い攻撃でなく、一発で相手が倒れるパンチやキックに磨きをかけるスタイルを築き上げてきたのである。

 

 僕は最初から「プロでやるなら、倒せる技がないといけない」と思っていた。

 アマチュアの大会でも相手をKOすることはあったけど、「効かせた」というよりは、タイミングで倒したものが多かった。

 だから、トレーニングで「倒す技」を磨くことが、目下のテーマだった。

 

 プロ練では、伊藤会長がプロのパンチの打ち方を教えてくれた。殺傷能力の高い打ち方だ。

 アマチュアでは、相手の額にジャブを当てると顔が跳ね上がり、ポイントになる。だけど、プロでは急所のアゴにナックル(拳の先端。人差し指と中指の付け根)を打ち込み、ダメージを与えなければ倒せる選手にはなれない。pp37-38

 

第四は、格闘技だけでなく、より広い動きをカバーするフィジカルトレーニングを積んでいることである。驚異的なジャンプ力や、柔軟無比な動きが常に可能である。

 

 プロになってから、自分の意思でフィジカルトレーニングに通い始めたが(特に外国人選手が相手だと、フィジカル負けしてしまう日本人選手は少なくない)、ボディアクシスの千田真矢さんも、まさに僕にぴったりのトレーナーだ。p39

 

そして、第五は意外にも那須川がお化け屋敷も大の苦手であるなど、ビビり屋であることだ。、不用意に相手のパンチやキックを受けたら倒れるのではないか、つねに恐れるがゆえに、徹底して攻撃を受けず、早いラウンドで勝負を賭けるスタイルが身についているのである。

 

 だけど、格闘技をやっていると「ビビり屋で良かった」と思うこともある。相手の攻撃はもらいたくないので避けるしい、先に当てるようになる。

 もちろん、時にはリスクを負って相打ち覚悟で行くべきだが、当てさせないで当てるのが僕の理想形だ。

 実際、格闘技にはビビり屋のほうが向いているという説があるらしい。ビビり屋だからこそ自分の弱点を把握して、克服しようと本気で練習するからだろう。殴り合うからといって、怖いもの知らずに向いているスポーツというわけではないのだ。p185

 

以上5つの要素、特に最初の三つは那須川の驚異的な強さの秘密の根源である。だが、それらは必要条件であっても、十分条件ではない。

 

強豪のファイターともなれば、誰もが強くなるために努力する。しかし、那須川は努力の人だけでなく、理解の人でもある。

 

 僕は、技術の習得が早いとよく言われる。それはたぶん、僕は人から何かを教わると、まずは自分の頭でその意味を理解しようとするからだ。そして、少しでも疑問点があれば、すぐに質問するようにしている。p38

 

様々な技のバリエーションや、卓越した基礎体力があっても、惰性でトレーニングする限り、頭打ちになる。同じ程度のトレーニングを積み、体力のある相手とは五分五分の戦いとなり、群を抜くことができない。最後に決め手となるのは、格闘技的知性の存在だ。相手によって攻撃のパターンを使い分ける柔軟性。これらは空手時代に、より大きな相手と戦うために、身についたものだ。

 

フルコンタクト空手ではハンディとなる身体が小ささが、逆にオールラウンドな攻撃スタイルを生み出したのである。その核にあるのは、優れた格闘技的知性であり、ロジックである。

 

若くして周囲からはその格闘技のセンスを高く評価されながらも、那須川は中卒で格闘技界入りすることなく、高校進学の道を選んだ。試合やトレーニングとぶつからないようにと、四年制の定時制高校を選び、試合やトレーニングの傍ら通い続けたのである。

 

 高校に通いながらプロ練に参加する方法を調べているうちに、今、通っている松戸南高校を見つけた。

 松戸南高校は3部制。いわゆる定時制高校だが、通う時間が午前・午後・夜間で選べるようになっていた。家から自転車で30分の距離で、午前部なら昼前に授業が終わるから、プロ練にも間に合う。

 ただ、午前中のみで通う場合は4年制だった。つまり、同級生たちより1年多く、高校に通わなくてはならない。僕にとっては大きな決断だった。p34

 

どれほど強力なパンチやキックがあっても、どれほど技が豊富であっても、その時々の相手に合わせてそれらを組み立てるのは身体の動きと一体になったインテリジェンスであり、ロジックである。

 

キックボクシングの動きに関しては、ほとんど死角のない那須川だが、MMAでのグラウンドの動きに関してはまだ上がいることは確かだ。しかしこの身体のインテリジェンスがある限り、どのようなルールの試合であろうと、那須川天心は進化し強くなり続けるこ

とだろう。

 

 だから、僕は自分でもまだまだ強くなれるのがわかっている。体は未完成だし、取り入れてみたい技術は山ほどあるので、理論上も伸びしろがあるのは間違いない。

 この本のタイトルになぞらえて言うなら、僕はまだ、覚醒していないということだ。p40

 

来たるべき格闘王、那須川天心の「覚醒」はまだこれからなのだ。

 

コメント
コメントする









 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://mkamiya.jugem.jp/trackback/866
 

(C) 2018 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.