つぶやきコミューン

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小川さやか『「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

 

 

私たちは計画的に経済を進めることに慣れきってしまっている。そして、その日暮らしの生活をダメな生き方のサンプルとみなしがちである。けれども、同時にそうした怠惰な生き方に対するひそかな憧れもある。世界にはその日暮らしの生き方を当然のごとく続けている人びとも多くおり、それなりに理にかなった行動となっている。タンザニアなどの国々に目を向けると浮かび上がってくるのは、伝統的なその日暮らしの生き方であり、さらには独自の進化を遂げたインフォーマルな資本主義のあり方である。

 

  この経済の推進者は資本主義経済を嫌ってはおらず、ここにはラディカルな革命家も反グローバル運動家もいない。それどころか、国家や企業によるあらゆる規制を回避し、騙しや詐欺も含めた自由な市場の取引を好む彼らは、「より徹底的な新自由主義化」した経済秩序を形成しつつある。しかし、この経済はより人間的な自由主義の論理で動いており、主流派の経済システムに抵抗するよりも、それが生み出している問題や不公正を解決する場となっている。p28

 

コピー商品や偽造品の交易にかかわるインフォーマルな資本主義は、新自由主義の一つの流れでありながら、より徹底した自由への志向を持ち、資本主義のさまざまな弊害を埋め合わせるはたらきを持っているのである。

 

『「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済』(光文社新書)の中で、立命館大学大学院先端総合研究科の人類学者小川さやかは、時間観念を持たないアマゾン奥地の少数民族ビダハンや、最小限の努力で生計を営もうとするタンザニアのトングウェ人の生活様式や、生計を多様化することでリスク分散をはかるタンザニアの行商人マチンガ、香港で活動する東アフリカの交易人の経済活動などを分析しながら、その日暮らしの生活様式の特異な形態や、もう一つの資本主義とされるインフォーマル資主義の実態を描き出す。また、山寨(さんさい)と呼ばれる中国製の模造品と、タンザニア製の模造製品のタンザニア人による捉え方の違いなど、消費に対する意識の違いをも紹介する。そこでは必ずしも法的な善悪が、道義的な善悪とは一致しない。

 

それによって、私たちの内部に巣食っている経済的価値観や時間概念の相対性も同時に浮かび上がってくるのである。

 

私たちは、コピー商品を悪と見なす日本企業の側の価値観で、世界の経済を見ようとする。そうすることで、それらに対して侵犯的であるインフォーマルな資本主義の実態を見誤ったり、その重要性を過小評価する傾向がある。けれども、フォーマルな資本主義の周辺に存在し、共存し、補完し、「下からのグローバル化」の役割を果たす、この経済圏の実態を捉えない限り、正しい世界経済の姿は見えてこないであろう。

 

学問の大きな力の一つは、いったん善悪の価値判断を停止しながら、その彼岸に真実をとらえるということである。本書を読むことは、フォーマルな資本主義による洗脳より抜け出す端緒を見つけることであり、より自由に考えることへの一里塚である。それは、私たちの営む日々の経済的生活のあり方そのものを見直すことにほかならない。

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