つぶやきコミューン

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ヤマザキマリ×とり・みき『プリニウス 此

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

 

 

これまで卓越した画力や描写対象のディテールに目を奪われがちであったヤマザキマリ×とり・みき『プリニウス』だが、この第六巻では、はっきりと光と闇のコントラストが浮かび上がる。

 

一種のブラックホールと化したローマと、そこから地中海へと逃れ逃走の線を引き続けるプリニウスの一行。

 

ネロの支配するローマの世界は、しだいに暗い闇の力に覆われ、不穏な空気が漂い始める。しかし、ネロが悪の権化というわけではない。ネロはただの権力を乱用する頭のおかしな、かわいそうな人である。では、その妻ポッパエアは?いったん皇后の地位を手に入れた後は、一人のかわいそうな女である。子供を授かったものの、後継ぎとなれる男子ではなかった。奢侈に走り、自堕落な生活に溺れながら、ポッパエアは自責し、絶望する。

 

悪意は、『オセロ』におけるイアゴーのような存在として、言葉巧みに取り入っては背後から彼らを操る。それが、護衛隊長のティゲリヌスである。ネロの治世の先が長くないことを知りながらも、ひそかににその力を手に入れ、さらに次なる策謀をめぐらせる。

 

哲学者キケロのような賢人でさえも、ティゲリヌスの甘い言葉にしだいに動かされてしまうのである。

 

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金利はどのくらいになるのだ…

 

やがて、その策謀はローマ全体を恐怖のどん底に落とすとも知らずに。

 

これとは対照的に、東京オリンピックの会場である海の森水上競技場を軽く凌駕する、巨大な港湾都市カルタゴを訪れるプリニウスの行く手はまだ明るい地中海の光に満ちている。書記のエウクレス、用心棒役のフェリクスに加えて、新たに加わった一人の子ども。

 

他の人物がリアルな劇画タッチで描かれているのに、この名前のない子どもだけは、まるでペコちゃんのように、あるいはポニョのように、プロポーションを無視した大きな目を持ったマンガチックなキャラクターとして描かれている。この巻ではその秘められた能力が次々に明かされるのだ。

 

もじゃもじゃ頭の子どもは動物と会話できるのみならず、動物の病気を治すことさえできる。

 

動物だけでなく、人の心もわかる。フェリクスがなぜ大量のタツノオトシゴを調理しようとしたかも、いったん抜け出そうとした砂漠のキャラバンに復帰したのかもまるっとお見通しなのである。

 

そして、子どもは一流のシェフであり、魚のさばき方さえも知っている。

 

その出自も、不幸な生い立ちもこの巻で明かされる。不思議な能力は、その受難の中で目覚めたのであろうか。それとも、子どもが祈りを捧げるバアル神の賜物なのだろうか。

 

この巻では、エイトマンのようなポーズで、駆け出す子どもの姿が何度も描かれる。

 

とりわけ、カラスのフテラと猫のガイアを連れてフェニキュアの海岸を駆け抜けるシーンは忘れることができない。

 

生きること、自由であること。それらを失いかけたことがあるがゆえに子どもはその価値を知っている。

 

あるときは水戸黄門となり、あるときはブレーメンの音楽隊となった『プリニウス』だが、この巻では作者はインディ・ジョーンズをイメージしたのだと言う。しかし、邪悪な心の持ち主と不思議な力を持った純真な子供の対比という意味で、ハリーポッターのようにも、スティーブン・キングの『シャイニング』のようにも見える。

 

ドロドロとした人間の欲望や陰謀の渦巻く魔都ローマに比べれば、火山の噴火さえもすがすがしささえ感じるものだろう。

 

どこまで、ローマの騒乱をよそに、プリニウスたちの冒険の旅は続くのか?

 

カルタゴからアレキサンドリアに向かうプリニウスたちの行く手にあるのは、ヤマザキマリがかつて住んだシリアの地。21世紀の戦乱で破壊されたばかりの古代の建築物も、往時の姿で蘇る日が待ち遠しい。

 

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