JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略
■立花投馬は、上杉達也の夢を見るか?
あだち充『MIX 11』は、いわば一種の間奏曲である。前巻の『MIX 10』が明青学園対東秀高校の東東京大会の準決勝戦にまるまる一巻が費やされたのに対し、この巻ではまったく名青学園の試合は描かれない。その間にも、半年ばかりの時間が経過する。東秀対勢南の東東京大会の決勝、そして甲子園へと進出した代表校の活躍。…そして、いつしか時は流れ、11月へ、さらに3月になっていた。
果たして、明青学園は選抜に出場することができたのか?
試合のあるシーズンのドラマは、力ある漫画家なら皆迫力あるシーンを描くことができるが、シーズンオフのドラマを描く力において、あだち充の力は傑出している。一見、無関係な日常を描く中で、読者に重要な情報を伝えながら、さりげなく次の展開に必要な
ピースを揃えてゆくのである。
立花投馬のピッチングフォームは、どこから生まれたのか。走一郎のフォームを盗んだのだと、走一郎は主張する。だが、克明にそれをノートにメモし、伝えようとしたのは妹の音美であった。
だが、明青学園野球部OBの投馬の父が、再婚する以前に、夜な夜なかけるビデオがあった。
それこそは、甲子園優勝を果たした明青学園の決勝戦の試合であったのだ。
そのピッチャーのフォームは、いつしか投馬の幼い心に刷り込まれたのだろうか。
立花兄弟のバッテリーは、傑出しているとはいえ、野球は九人のレギュラーメンバーが必要だ。そして、まだ戦力になるのはキャプテンの今川正、投馬の喧嘩相手の駒耕作、監督の大山吾郎を(実は娘の春夏を)追いかけて転校してきた南郷四郎を加えてせいぜい五人。中等部から上がる夏野一番を加えても、六人とまともに野球ができるメンバーがまだ揃っていない。選手の強化がなければ、到底東秀や勢南、健丈といった強豪校がひしめく東東京大会で勝ち抜き、甲子園出場をはたすことは不可能だろう。
さらなる有力メンバー候補が一人浮上する。
1年生の錦研二。だが、生傷の絶えない彼は不良グループから抜け出そうとして抜けられずにいた。
中等部時代監督に対する暴力事件を起こし、野球部を辞めることになった錦に野球部復活はあるのだろうか?
もう一人、野球に対する複雑な思いを抱いている男がいた。
赤井遼だ。健丈高校野球部に在籍する兄赤井智仁が急にスター選手として脚光を浴びるのを苦々しく思っていた彼は、中等部でサッカー部に在籍しながらも、いつしか兄の存在を意識することになる。はたして彼の野球への転向はあるのか?
4月が来れば、妹の音美も、夏野も、赤井も高等部にあがってくる。役者が高等部に勢ぞろいするとき、新たなゲームがスタートする。
『MIX 11』では、それまで文字だけの存在であった上杉達也が、ピッチャーとして、それも甲子園での雄姿が描かれることとなる。それだけでも読者のテンションは上がらずにはおかないが、果たして上杉達也、そして浅倉南の現在が描かれることはあるだろうか?
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