つぶやきコミューン

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堀江貴文『面白い生き方をしたかったので仕方なくマンガを1000冊読んで考えた』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称一部略 ver.1.2

 

 

堀江貴文の新刊は、例によって超長いタイトルである。正確には、『面白い生き方をしたかったので仕方なくマンガを1000冊読んで考えた そしたら人生観変わった』(KADOKAWA)。

 

ここで紹介してある数多くの漫画は、主として情報収集の観点が選ばれたビジネスに役立つ漫画だ。だから『ONE PIECE』や『NARUTO』のような王道バトル物も、格闘技や(『グラゼニ』を除く)スポーツ漫画も、少女漫画の主流であるラブコメ(東村アキコを除く)もほとんど出てこない。情報収集ツールの漫画と言っても、単に活字の本を漫画化したようなものだけではなく、活字化されていないようなもの、これから世のトレンドとなりそうなものをいち早くキャッチし、卓越したリサーチ力で肉付けしながら、作品として仕上げたような漫画こそ、この本の中で取り上げられている漫画なのだ。そのキーワードを「想像的知識」と堀江氏は呼んでいる。

 

 今、「想像的知識」の時代が到来している。

 私の造語だが、言いかえると、今はまだ存在していない想像上の知識が次々に仕事を生み出し、未来をつくってゆく時代だということだ。今はまだ遊びの中にある想像的知識の中から新しく仕事を生み出していく人が、これからの時代で活躍してゆくのだろうと感じることが最近明らかに増えた。p1

 

たとえば、30年前にはまだ遊びの域を出なかったPCとインターネットに関する産業は、私たちの生活を完全に変え、今やソフト、ハード、プラットホームの各面で21世紀を支配する産業を生み出す結果となっている。

 

優れた漫画家には、まだ混沌として形にならない未来を予見するビジョンがある。彼らは想像的知識を先取りし、編集することができるのだ。本書で取り上げられているのは、いわば「ビジョナリー・コミックス」ということになるだろう。

 

その例として、堀江氏は小山宙哉の『宇宙兄弟』を挙げている。

 

 作中で描かれる「宇宙飛行士候補者選抜試験」は、JAXAが実際に行っているものと同様であり、正確に描写されている。しかしこれらはJAXAの職員が手取り足取り小山さんに教えたものではない。

 小山さんは宇宙飛行士について書かれた本を片っ端から読み漁り、「自分がJAXAの職員だったらどうやって試験するだろう?」と考え抜いたそうだ。小山さんは宇宙飛行士にとって重要な能力を見極めるために、想像の中でJAXA職員になりきったのだ。そうして自分で選抜試験を考え、描いたところ、実際の宇宙飛行士候補者選抜試験に肉迫するリアリティを持った試験問題になったのだという。pp4-5

 

資料を集めながら想像力をめぐらせるという点では小説家やノンフィクション作家も同じではないかと思いがちだが、言語と絵とを複合させた表現形式の漫画には文字だけの作家の文章にはないリアリティが宿る。それを、長年編集者として多くの名作を送り出し、現在作家エージェントの「コルク」代表をつとめる佐渡島庸平は、漫画作品の価値を支えているのは、漫画家の意思決定の多さと要約している。つまり小説の映画化を考えた場合、監督や演出家、時代考証、美術と何人も、時には何十人もかかって分業でやる作業を、漫画家は一人でやらねばならないのだ。

 

 画というのはわりと「さらっと描けるものだ」と思われてたりするんですけど、作家は自分で理解できていないものは描けないんです。「なんとなく」で画は描けない。たとえばキャラクターが着る服装がそうです。仮に舞台設定が1970年代だったとしても、なんとなく「1970年代っぽい」だけでは画にならない。キャラクターの性格によって身につける服装が変わらなければ世界観が構築できないからです。リアルなキャラクターというのは、頭の先から靴の先まで、全ての細部にわたる気配りが生み出すんです。これらひとりの意思決定の集積が、マンガ作品独特の話の濃さ、描写の濃さを生み出しているのだと思います。p190

 

漫画家が1ページに宿らせる情報量をそのまま小説に置き換えようとするとその何倍ものページが必要だが、それだけの描写をページにあてると今度は展開のスピード感が損なわれてしまう。しかし、漫画はスピード感をそこなうなしに可能であり、読者の読解力による情報伝達度の差もきわめて少ない。

 

本書は、このように優れた情報伝達ツールとしての漫画を、テーマで仕分けるかたちで構成されている。

 

CHAPTER1 「仕事はセンス」と教えてくれるマンガ では河合単『ラーメン発見伝』や森高夕次『グラゼニ』など、業界の擬似体験を通じて、わかりにくいセンスの世界へと道案内してくれる作品群。

CHAPTER2 想像力は観察力だ。では『宇宙兄弟』の伊藤せりかに重ねた堀江氏の涙から、三田紀房『インベスターZ』、松田奈緒子『重版出来!(じゅうはんしゅったい)』、真鍋昌平『闇金ウシジマくん』のディープな取材力まで、業界の知られざる裏側まで明らかにする漫画への熱い思い入れを吐露する。

CHAPTER3 人は情報を食べて生きている では、まもなく終了する雁屋哲、花咲アキラ『美味しんぼ』にこめた万感の思いから、阿部潤『忘却のサチコ』までグルメ漫画、酒利き漫画の数々を紹介する。

CHAPTER4 鉄文という生き方 意外な鉄道好き、鉄道の旅好きのため「鉄文」とさえ言われる堀江氏が、池田邦彦『カレチ』や菊池直恵『鉄子の旅』、森田信吾『駅前の歩き方』など好きな鉄道漫画のこだわり披歴する。

CHAPTER5 栄光なき天才たちが社会を動かす。ここで紹介されるのは伊藤智義作・森田信吾画の『栄光なき天才たち』という作品一本。『儲けたいなら科学なんじゃないの?』の共著者らしい科学についてのディープな蘊蓄も披歴される。

CHAPTER6 著者で読むマンガ ここで紹介されるとっておきの作家は、思わず納得の久住昌之+谷口ジロー、東村アキコ、そして『ぼくは麻理のなか』の押見修造。

CHAPTER7 “読書家”に負けない知識がつく、実用マンガでは、細野不二彦『電波の城』、浦沢直樹『MASTERキートン』といった古典的作品から最新のルポルタージュ漫画中村淳彦原作、桜壱バーゲン画の『漫画ルポ 中年童貞』まで、業界のリアルに肉薄する漫画の慧眼性に注目する。

CHAPTER8 いろんな「if」で扱われるのは、久保ミツロウ『アゲイン!!』や村上もとか『JIN ∸仁ー』、三田紀房『アルキメデスの大戦』など、タイムスリップものを中心とした一種の思考実験としての漫画だ。

CHAPTER9 忘れられないトラウマ・マンガでは、山上たつひこ原作いがらしみきお画のダークな作品『羊の木』や、手塚治虫の未完作『グリンゴ』、日野日出志『毒虫小僧』など、心にトラウマが残ったり、ひっかかったり、うなされたりする漫画の数々である。堀江氏は、意外にこわがりで、ホラーが苦手なのだ。

 

  しかしついつい熱中してしまって後悔するジャンルがホラー系だ。『うしろの百太郎』なんて読んでしまった日には家に帰って夜一人で寝られない事態になってしまうこともしばしばだ。表紙を見ただけでも怖いので、見ないようにしていたりとか、連載している雑誌の該当ページを読み飛ばすのも目次を見て慎重に……といった具合だ。p180

 

さらにCROSS TALK 堀江貴文×佐渡島庸平と題して、先に引用した対談で本書を総括しながら、ネット社会における漫画のあり方や科学技術が日進月歩の時代におけるSF漫画の難しさなどを展望する。

 

最後の堀江貴文「マンガ」リストも、本書にとりあげたもの以外の作品も収録しさらなる漫画の世界へと読者を案内してくれるだろう。

 

いい漫画、面白い漫画は、自分で読み漁りながら広げてゆくにこしたことはないが、個人の好みのバイアスに縛られすぎると、食わず嫌いの優れた作品も、その視野の外に増えてしまう。その点、本書はいわゆる「鉄板」的な作品から、様々な職業のディープな世界を取り上げたリアリティあふれる漫画や、読者が敬遠しがちなエグイ漫画まで、幅広い作品を取り上げていて、ページをめくるたびに新しい発見がある。幅広い漫画を消化できる強い胃袋を持つと思われる堀江氏でさえ、あまりに下手な絵の漫画家や、キャラクターのデフォルメがきつい漫画家は苦手で、長年スルーしてきた漫画があることが本文中でも語られる。

 

ふつうに漫画が好きな人が読んでもとても楽しいが、ディープな漫画ファンはこの本を飛び石にしてさまざまな名作にたどりつき、もっともっと楽しめるにちがいない奥の深い漫画案内、それが『面白い生き方をしたかったので仕方なくマンガを1000冊読んで考えた そしたら人生変わった』なのである。

 

関連ページ:

堀江貴文『面白い生き方をしたかったので仕方なくマンガを1000冊読んで考えた』

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