つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
<< May 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
 
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
@kamiyamasahiko
MOBILE
qrcode
PROFILE
無料ブログ作成サービス JUGEM
 
久住昌之×谷口シロー『孤独のグルメ 2』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

 

 

 

『孤独のグルメ2』は、久住昌之原作、谷口ジロー作画による『孤独のグルメ』シリーズ第二作で、静岡市、信濃町、東大井、下連雀、下北沢、鳥取市、駒沢公園、東京大学、有楽町、松濤、大手町、日暮里繊維街、パリと13の場所の大衆的な店が扱われている。そこで紹介される料理は、ピザあり、おでんあり、定食あり、韓国料理あり、ラーメンあり、冷やし中華あり、ハンバーグありと多種多様。このシリーズが出版されるのはなんと18年ぶりであるという。

 

久住昌之のグルメ作品は数が多いが、特に谷口ジローによる絵には別格の味わいがある。まず、場所と店の内部の描写が精緻をきわめること。東大井の飲食街にせよ、有楽町のガード下にせよ、下北沢の路地にせよ、東京大学安田講堂前の地下食堂にせよ、一度訪れた場所は、そこでの体験の数々が鮮やかに蘇るし、そうでない場所も見ているうちにいつのまにかなじんでしまい、ひょっとしてこの場所は行ったことがあるのではないかとの既視感さえ覚えてしまうほどである。

 

店の内部はただ単に、正確に再現できればよいといのではない。正しい空間を把握した上で、アングルを変えたコマによって、その空間をわかりやすく提示する。大なり小なり簡素化された背景の漫画も多い中で、谷口ジローの絵は一切の手抜きがなく、その場所に訪れている以上の解像度を提示してくれるのである(なぜなら普通人はそこまで細かく店の内部を観察したり、記憶したりしないからだ)。

 

そして、料理の皿の描写も卓越している。静止した料理の描写自体は、写真をトレースすればそれほど難しいものではないのかもしれないが、料理を箸でとり、少しずつ減ってゆく様までがこまめに描かれてゆく。料理は人物の箸の動きとともに変容してゆく皿の上の風景として描かれるのである。

 

そして、描かれる人物にも哀愁が漂う。主人公の井之頭五郎は、自営業だが、外食するのに背広とネクタイを欠かさないサラリーマンの分身のような等身大の人物であり、私たちが知らない料理屋ののれんをくぐる時と同じ小さな冒険を毎回経験するのである。

 

五郎は、はじめに情報を調べ尽くし、理想のメニューを選ぶわけではない。あっちの店にしようか、いやこっちの店にしようかと逡巡したあげくに選ぶのは、ほとんどその場のはずみ、偶然である。いったんのれんをくぐった後にも、メニューに好奇心を刺激され、他の客の注文の品を見ては気持ちがゆらぐ。同じ種類の料理を注文しすぎたり、一品の当たりだった後に気をよくして注文したものは外れだったり、食い切れず食べ残したりすることもある。さらには、他の客の態度に憤り、武勇伝さえ繰り広げてしまうのである。他の食べる人や食べ物へのリスペクトを欠いた行為ほど許しがたいものはないのだ。

 

自らの目と舌だけを頼りに発掘する身近なグルメの開拓は、庶民の終わることのない冒険である。そのための勇気と知恵を『孤独のグルメ』は私たちに与え続けてくれるのである。

コメント
コメントする









 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://mkamiya.jugem.jp/trackback/688
 

(C) 2017 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.