JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略
ハロルド作石の『RiN』(講談社)(14巻完結)は、漫画家志望の少年伏見紀人が漫画家デビューして活躍するまでを描いたコミックである。
漫画家志望の少年が、デビューして活躍するサクセスストーリーとしては、すでに大場つぐみ・小畑健の『バクマン。』がある。
『バクマン。』は原作と作画の二人組の話であり、集英社の実在の雑誌『少年ジャンプ』が主な舞台であるのに対し、『RiN』はシングルプレーヤーの話であり、講談社の架空の漫画雑誌『トーラス』を主戦場として描かれるが、それ自体は大きな差別化にはならない。
似たような時代設定で、同じ業界の同じような主人公の物語を描くとなると、島本和彦の『アオイホノオ』のように業界の著名人が出てくる自伝的なストーリーとしてまとめるとか、松田奈緒子の『重版出来!』のように主人公を編集者にしてしまうとかなら、別の世界を切り拓くことができるが、漫画少年のサクセスストーリーをフィクションとして描く限りは、業界の仕組みが同じであるために、誰が描いても似たようになってしまう。
この差別化こそが、漫画家の腕の見せ所となる。
タイトルが示すように、『RiN』を『バクマン。』と大きく区別するのは、ヒロインである少女石堂凛の存在である。
離れ島の出身である石堂凛は、冒頭ではアイドル志望の少女として紹介される。『バクマン。』のヒロイン、亜豆美保も声優志望の少女であるが、石堂凛には漫画のジャンルを変えてしまうほどの不思議な能力がある。人の未来がわかったり、死者が見えたりと言ったシャーマン的な能力の持ち主であるのだ。その決定的な一歩は第一巻の沢村叡智賞の授賞式で示されることになる。
そして、伏見紀人も石堂凛と同じような過去の時代の夢を見る。それは果たして二人の前世なのか。
一方ではリアルな漫画界の競争が描かれる一方で、他方ではあの世的なファンタジーの世界が描かれ、二つの世界が相互に絡みながら二重進行するところに、この作品の醍醐味がある。
この世的な女性を代表するように、石堂凛の対局に置かれるのは、伏見のクラスメート本多明日菜。陸上部に属する彼女はショートカットでのびやかな肢体を持った少女である。それに対して、しばしば霊のしわざで気分が悪くなる石堂凛は、長い髪を持った巫女的な存在の美少女である。
伏見紀人がしだいに漫画家として活躍するにつれ、明日菜も凛も彼に接近するようになり、紀人の心は二人の間で揺れ動くようになる。その揺れはまさに彼が描く少女の顔に現れてしまうのだ。
さまざまな漫画家のライバルも登場するが、その中でも特別な存在が、沢村叡智賞の大賞を得、紀人の一歩先を行くイケメンの天才瀧カイトである。彼もまた紀人や凛と不思議な運命で結ばれていたのだった。
中盤では、凛の故郷である島へと舞台が移り、ミステリー仕立てのスリリングな展開となり、凛に迫る男たちの魔の手にハラハラドキドキする。後半には編集者の望む路線に決別し、自らの足で歩き始めた伏見紀人の渾身の作品が、ページを大々的に占拠し、その熱気とスピード感は読者を圧倒する。さらに、それが紀人と凛の前世(?)へとリンクするというサスペンスに満ちた展開に。
『RiN』は、『BECK』において一切のファンタジー要素を排したハロルド作石が、パラレルワールド的なストーリー展開によって、新次元を開いた傑作である。