つぶやきコミューン

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冲方丁『冲方丁のこち留 こちら渋谷警察署留置所』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

 

作家冲方丁が逮捕されたのは、2015年8月22日夜のことだった。翌日の新聞では、妻に対するDVの疑いで逮捕と大々的に報じられ、読者を驚かせた。一体、冲方家に何があったのか。その9日後には、冲方丁は釈放されるが、不起訴が確定したのは10月になってからのことだった。『冲方丁のこち留 こちら渋谷警察署留置所』(集英社インターナショナル)は、その実録体験記である。

 

ことの発端は、冲方サミットの後「奥さんのことでお話が」と渋谷警察署員による聴取を受けたことに始まる。しかし、容疑がはっきり明かされないままにいつのまにか逮捕され、留置所に入れられるというカフカ的な世界に突入する。

 

警察署員は、そして検事はどのようにふるまい、冲方丁はどのように対応したのか。さらにどのようにして釈放され、不起訴になったのか。

 

ここに記載された刑事や検事の振る舞いは、あまりに想像通りで拍子抜けするほどである。つまり、あくまで最初に描いたストーリーの中に容疑者の証言を何がなんでもはめ込め、成立させようとするのである。

 

しかし、冲方丁の場合、訴えた側の言い分自体が曖昧である。

 

どうやら第三者のサジェストによって、冲方の奥さんが訴え、離婚なり慰謝料なりの金銭的な解決をはかる上で有利にことを運ぼうとしたのだが、本人が望まぬ方向に事態が進んでしまったらしいという様子が想像される。不起訴に終わったため、情報開示を求めて確認しようにも確認できないのである。

 

 私を訴えることで、いったい何を得たいのか?私の経済活動を破綻させたいのか、第三者が巧みに妻を誘導したのか、あるいは警察が勝手に暴走した結果なのか……。

 どうやら、あらゆる要因がからみあってこの理不尽な状況を作り上げているようだ、というのが、このときの面会の結論でした。

 というのも、とりわけ不可解であったのが、妻に付いた弁護士が送ってきた書類で、

「私は夫を訴えていません」

 という一文から始まっているのです。p71

 

また、一般人を冲方丁と区別するのは、警察が有名人である冲方を逮捕することを大きな手柄と考えていたことであり、不起訴に終わると今度は逆に、警察も検察も、個人的な責任逃れに終始しするという醜態が描かれてる部分である。

 

本書で書かれたことは、誰の身にも起こりうることである。99.9%という高い有罪率の中の2割は冤罪であるらしいが、それに巻き込まれないために私たちが取りうる手段が現在の封建的な司法制度ではいかに制限されているかという事実が、あらためて確認されるのである。

 

巻末には、痴漢冤罪を描いた映画『それでもボクはやっていない』の周防正行監督の対談を収録されている。周防も、この中で次のように語っている。

 

この冲方さんの一件を通じて、僕がひとつ言えるのは。裁判所というのはもはや人権を守る最後の砦ではなく、「国家権力を守る最後の砦」だということ。だから、現状のシステムがまかりとおっているうちは、冤罪に巻きこまれてしまっても、まず勝てないですよ。p215

 

ただし、読み物としては、『天地明察』や『光圀伝』などの冲方丁のフィクションほど面白くはない。フィクションでは、何百年も前の歴史上の人物の言動が臨場感をもって克明に描かれているのに、警察に新たなる材料を与えないための配慮とは言え、本書では事件以前の冲方家の毎日がどのようであったのか、直前の夫婦の会話や、別居を強いられている子どもとのやりとりなど、家族の肖像に関する情報が全く語られていず、事件の謎を解く手がかり、情報が圧倒的に不足しているからである。この種の本としては、堀江貴文の『刑務所なう。』や『刑務所わず。』があり、そこで留置場や刑務所での理不尽な扱いなどが洗いざらい語られている。堀江の方がはるかに長い期間戦いを強いられ、あらゆる手段をもって抗戦している。それに比べると冲方丁の身に起こったことは、有益なケーススタディではあるが、情報量が少ない上、事件全体に対する透明度に欠けるのである。

 

関連ページ:
冲方丁『はなとゆめ』

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