つぶやきコミューン

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東野圭吾『恋のゴンドラ』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

 

東野圭吾『恋のゴンドラ』(実業之日本社)は奇妙な小説である。里沢スキー場を舞台とした小説で、『疾風ロンド』や『白銀ジャック』とシリーズをなしているように見える。しかし、今か今かと期待しながら読み進めても、『恋のゴンドラ』には殺人事件は出てこないし、警察も探偵も出てこない。それでいておそろしく読みやすく、スリリングな展開で、あっという間に引き込まれ最後まで読み切ってしまう。そして、読者はようやく気づくのだ。これはミステリーではなかったなと。

 

一体、どういう小説なのか。

 

冒頭を飾るのは、スキー場のゴンドラに乗った若者たちの会話である。リフォーム会社に勤める広太は、恋人の桃実と里沢スキー場にやってきた。しかし、同じゴンドラの中にはなんと彼が同棲していて、互いの親にまで紹介した美雪が乗っていたのだった。スキーウェアとゴーグルに身を包んでいるため、彼女は広太のことに気づかないのだろうか、友人たちの前で、美雪は恋人の自慢を始める。その言葉尻には、広太がその場にいるのに気づいているかのような様子もうかがわれ、広太は気が気でない。許してもらうには、この場で告白して、懺悔するしかないのか。ゴンドラが終点に近づく。しかし、広太を待っていたのは最悪の事態だった。一体何が起こったのか?

 

次の場面は、同じスキー場のスクワッドリフト(四人乗りリフト)での会話である。ここに登場するのは、同じ職場に勤務している日田栄介月村春紀水城直也木本秋菜という四人の男女で、スノーボードをするためにこのスキー場にやって来た。あとから土屋麻穂という女性も合流することになっている。水城はなぜか、麻穂の悪口を言い始める。水城は秋菜と交際しているのに、悪口を言うのは、麻穂にも気がある証拠と秋菜はいぶかるのだった。

 

こんな風に、次々に登場人物の恋のさや当てが始まる。表面上では仲良くしながら別の異性に接近しようとする男、普通にカップルとして成立する男女、そんな中で、気のある女性にふられ続け、あぶれるのが日田栄介だ。周囲は気の毒に思い、彼を意中の女性と結びつけるセッティングをするのだったが、なぜか計算通りに物事は進まない。

 

はたして、日田が笑う日が来るのか。さらに、破局に至ったかに見える光太と美雪のカップルはどうなるのか?

 

新たな人物を加えながら、『恋のゴンドラ』は、「ゴンドラ」「リフト」「プロポーズ大作戦」「ゲレコン」「スキー一家」「プロポーズ大作戦 リベンジ」「ゴンドラ リプレイ」と7編の連作からなる群像劇を構成する。

 

東野圭吾が『恋のゴンドラ』で描くのは、シェイクスピアの喜劇やモリエール『スカパンの悪だくみ』、モーツァルトのオペラの原作ともなったボーマルシェ『フィガロの結婚』のような、男女の恋の謀り事が渦巻く恋愛喜劇の世界であり、それを盛り上げるのに一役買っているのが、分厚いスキーウェアとゴーグルをつけると、正体不明になるというスキー場の仮面舞踏会的要素である。『恋のゴンドラ』は、東野圭吾が一切の殺人や犯罪を登場させることなしでも、読者を楽しませることに関しては一流のエンターテイナーであることを証明した新機軸のラブコメ小説である。

 

PS やはり東野作品は、殺人事件や刑事が出てくるミステリーでないとという人には、11月29日発売の『雪煙チェイス』の方がお勧め。作品紹介には「殺人の容疑をかけられた大学生の竜実。彼のアリバイを証明できるのはスキー場で出会った美人スノーボーダーただ一人。竜実は彼女を見つけ出し、無実を証明できるのか?」とある。

 

関連ページ:

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書評 | 11:14 | comments(1) | - | - |
コメント
from: 藍色   2018/01/16 11:28 AM
やっぱりさすが。
内容も面白くて、すごく読みやすい作品。
安定の出来という印象です。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。
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