つぶやきコミューン

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苫野一徳『子どもの頃から哲学者 世界一おもしろい、哲学を使った「絶望からの脱出」!』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

 

世界の謎に突き当たり、それについて考えようとするという点において、誰しも哲学者になる可能性を秘めている。

 

 自分にとってどうしても解かなきゃいけないモンダイを、とことん考え抜いて解く、それが哲学者の仕事だ。p2

 

しかし、多くの人は世界についてとこんとん考えなくとも生きてゆくのに不自由しないことを知り、いつしか日々の習慣やルーティンワークの中に埋もれながら生きてゆくようになる。

 

いわゆる「中二病」患者とは、成長してもこのような問いを忘れることのない人、さらには一層深く世界への問いへととりつかれた人なのかもしれない。

 

世界への際限のない問いかけという点において、哲学者も一種の「中二病」患者である。しかし、この「中二病」患者は一種類ではない。人は成長するにつれ、様々な考えにとりつかれ、その志向や世界観も大きく異なる。生物の進化同様、個体進化は系統進化を繰り返すのである。

 

苫野一徳『子どもの頃から哲学者 世界一おもしろい、哲学を使った「絶望からの脱出」!(大和書房)は、著者自身の「中二病」遍歴と、哲学との遭遇による世界観の変遷をたどるなかで、哲学とは何か、その今日における役割は何かを明らかにするいわば私小説的な哲学の入門書である。

 

はじめにあったのは、ファミコンはやらない、手塚治虫以外読まないで、友達もつくらず「便所飯」をするような、唯我独尊的な態度であった。しかし、それでは世界との接点がなく孤立したままであると気づき、人類愛にめざめるようになる。そうして日本の子どもたちが外国人留学生と当たり前のように交流できるような学生サークル、「早稲田ドーナッツ」を組織する。さらにそれは「人類愛教」へと発展してゆくのである。

 

僕は世界のすべてを愛し、そして世界のすべてから愛されていると、あの時本当に感じていたのだ。p33

けれどもそれが思い上がりであることを、哲学に接することで思い知らされる。それまでの考え方ががらりと崩れるのを感じるのだった。

 

著者の「中二病」は人類愛にとどまるものではなかった。ミュージシャンとなる野心も、小説家となる野心も捨てられないまま、大学院に進もうとしたのである。

 

そのような野心といかに決別したのか、そこまでのドラマチックな遍歴はとてつもなく面白い。しかし、どこかしらほろ苦さを感じずにはいられない。というのも、多かれ少なかれ、ひとは十代から二十代にかけて、似たような大それた夢を抱き続けるからである。

 

著者の哲学遍歴はまた、現代における哲学の問題点をも明らかにする。

 

とりわけ著者に衝撃を与えたのは、竹田青嗣の『人間的自由の条件』という本だった。その中のポストモダン思想の批判が著者の心に突き刺さった。ポストモダン思想は、あらゆるものを相対化しつくした。しかし、その一方で新たな価値を「真理」と呼ぶことなしに密輸入しているというのである。

 

 「絶対なんてない」「真理なんてない」と言い続けるだけでは、「じゃあ、僕たちはいったいどうやって生きてゆけばいいのかいいの?」「どんな社会を作っていけばいいの?」という問いに、答えることができなくなってしまうからだ。そしてまた、「どんな社会を作ったところで、それは結局、僕たちをコントロールする権力的な社会であるほかない」ということになってしまうからだ。

 そこでポストモダン思想は、いつしか新しい「絶対の価値」をーーーそれを巧みに「真理」と呼ぶことなくーー一掲げることになった。

 それが「絶対的他者」「共感」そして「人類愛」といった、一見とても崇高で、否定するのがむずかしそうな価値である。P61

 

このようなかたちで「人類愛」もまた徹底的に粉砕されてしまったあとで、哲学にいったい何が可能なのか、その出口をも本書は示してくれるのである。

 

本書は、通りいっぺんの哲学入門書が掲げる哲学の建前ではなく、哲学と哲学者の本音に迫る一冊である。それは哲学が決して私たちからかけ離れたものではなく、私たちの「中二病」のすぐそばにある身近なものとして感じさせてくれるにちがいない。本書は全くの初心者だけでなく、大学時代ポストモダン思想や実存主義をかじり影響を受けながらも、その現実への適応の道を見いだすことができなかった人に向けた哲学再入門にもベストの一冊であると言えよう。

 

 

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