つぶやきコミューン

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三宅乱丈『イムリ』 1〜19

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

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三宅乱丈『イムリ』(ビームコミックス)は、古代戦争で凍結した星ルーンと、その支配民族カーマが移住した隣星マージを舞台に、カーマとルーンの先住民の戦いを描く壮大なファンタジーコミックである。

 


すべてが、現在の地球文明とはかかわりのない別世界の設定で、知らない設定、未知の単語が次々に出てくるので、はじめての読者は戸惑うことだろう。

『新世紀エヴァンゲリオン』のATフィールドのように、人の心を取り巻くエネルギーの世界を融け合わせ、相手を支配するカーマの呪術、侵犯術と、古代戦争で使われたという13の武器によって、金、水、土、木といった自然界のエネルギーを操ろうとするイムリの術による戦い、一種の超能力合戦が最大の見どころである。

主人公は、呪術系寄宿学校の新入生のデュルク。指導者であるラルドのもと、術師としての将来を嘱望されていたデュルクだが、彼には夢の中で出会うミューバと いう女性がいた。その顔はデュルクにうりふたつ。双子の間で、夢によって心を通じ合う能力は、実はルーンの先住民イムリ特有の能力だった。ルーンを訪れることで、次第にデュルクは自らの出生の秘密に気づくようになる。離れて育てられたミューバと出会ったのもつかのま、虐げられたイムリの世界に共感を寄せるデュルクは、やがてカーマの世界でのし上がったミューバとは別の道を歩み、最大の敵となって対決することとなるのだった。

カーマの世界は、侵犯術により、相手の優位に立ち出し抜こうとする権謀術数の渦巻く権力闘争の世界である。その中にいる者にとっては、どんな権力者も心の休まる暇はない。ルールを犯したことが知れれば、たちまち侵犯術で心を支配され奴隷にされてしまう。だが、正当な手続きだけでは相手の優位に立つことはできない。だから、みな表の顔と裏の顔を持つようになり、ミューバもその例外ではなかった。

他方、イムリの世界は、素朴でやさしい心を持った人々の共同体によって機能し、カーマに対する不信感はあっても、原則として自然との融和と相互の信頼の上に成り立っていた。そんなイムリの世界にひかれるデュルク。だが、わずかに伝承として伝わっているものの、その武器使用の技術は失われていた。武器についての知識を持ったデュルクが入ることで、たちまちイムリの世界が変わり始める。被支配民として甘んじることなしに、カーマと戦おうとするのである。しかし、デュルクの知識は不完全だったため、身体の一部は獣のようになってしまう。デュルクに限らず武器使用の試行錯誤は、異形になる可能性をともなう、ロシアンルーレット的なあやういものであったのだ。

デュルクとミューバに限らず、イムリ出身の双子の間では、夢見の術によって、相互の秘密がダダ漏れになってしまう。カーマの呪術も、イムリの武器もその例外ではなかった。すべての超能力は、いわば諸刃の剣であったのだ。

『イムリ』の世界には、さまざまな要素が紛れ込んでいる。冒頭は、あたかもハリーポッターの世界のようであるが、やがて伝説の勇者の実現や文明に対抗する自然との融和という『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』的な世界へと変わる。また、旅の仲間を増やし、強大な悪と戦うという点では『ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)』を想起させる。文明の中におさまりきらない異端児が、いつか先住民にひかれ、その仲間となるという点では、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』のようでもある。侵犯術のヒントとなっているのは、オーラや気を自在に扱いエネルギーをコントロールするヨガや気功法だろう。そして、イムリの術は、神道における十種神宝(とくさのかむだから)と、木火土金水の五行説を折衷したもののように見える。

こうした複雑でマニアックな設定からして、まさにファンタジーの王道をゆく『イムリ』だが、現在発売中の19巻まで来てもまだ終わらない。カーマ対イムリの争いに、さらにカーマによって奴隷化された最下層民イコルの蜂起を加え、宮崎駿ゆずりの三つ巴のバトルの世界へと変容しながら、まさにクライマックスに突入してゆくのである。
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