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斎藤孝『だれでも書ける最高の読書感想文』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

 

斎藤孝『だれでも書ける最高の読書感想文』(角川文庫)は、小学生・中学生・高校生のための読書感想文の書き方をまとめた本である。

 

一見大人には関係なさそうに見えるが、本を読んで自分の意見や感想をまとめるという点では、書評に通じるものがある。実際読んでみると、十代の読者に対する教育的配慮として、段取り的な部分、説教めいた部分はあるが、本を読む行為とは何か、そしてそれについて書くことはどういう作業をともなうのかを、方法論的に明示してある。また読者にメッセージを伝えるためのさまざまな工夫についても書かれている。その意味で、大変役に立つ本である。

 

ズルはいけないとか、本は自分で買おう、書き込みしながら読もうといった若者向けの前置きの後で(剽窃は論外だが、図書館を多用する読書家も、本を一切汚さない読書家も多く知っているので、これが著者個人のこだわりであり絶対的解とは言えない)、一つの王道とでも言える方法を著者は明示する。

 

まずは、本を読んで自分が「グッときたところ」何かを強く感じたところについて書けばよい。しかし、それだけでは「最高の読書感想文」にはならない。

 

 大事なのは、そこにさらに「自分をかかわらせていくこと」。

 たとえばそのひとつが、ベスト3を選出する方法だ。

 自分が拾い出した「グッときたところ」から、とくにいいと思ったところを三つに絞りこむ。つまり、ベスト3を決める。

 そしてその言葉なり文章がなぜぐっときたのかを書いていく。

 そのときに、その三つのうちのどこかに自分自身の体験をまじえていく。

(…)

 さらにいえば、自分自身の体験と重ね合わせたエピソードにはきみの個性が出る。自分の感情を軸にした、まぎれもないきみにしか書けない感想文になります

 

これが読書感想文の王道である。後は、それをどう整合的にまとめるか、効果的に伝えるか、構成や修辞の問題になる。三つ以上のことを伝えようとしても、なかなか読者は受け入れることができない。言いたいことの数を増やせば増やすほど、個々の印象は薄くなり、かえって伝わりにくくなる。しかし、著者が特にこだわっているのは絞りこむことの重要性だ。

 

 感想文を書くことは、「ものごとを決断する」力の訓練でもある。自分で判断して選びとっていく訓練。

「エイヤッ」という気持ちで一つひとつ決断していく。そのときにみんなの心によぎるのは「不安」だ。自分が決断したのではないほうが正しいのかもしれない、まちがったほうを進んでしまうかもしれないという心配をする。

 でも大丈夫。ノープロブレム(問題なし)だ!

 感想文は正確というものがないからね。そこでどっちの判断をしたってまちがいではない。「どっちもあり」なんです。

 

次は、メモをとりながら読み進めるというものだ。これも、大人の場合、人によりけりだと思う。本当に大事なものは心が覚えているから、忘れてしまったことはどうでもいいものだという主張は文化人の発言でもよく見かける。メモの内容が多すぎると、重要なものが選べなくなり、かえって「木を見て森を見ず」の状態になるという人もいる。しかし、これらは何千冊、何万という本を読んだ人の話である。そうした人の脳には、重要事項をピックアップして自動保存する仕組みができあがっている。だから、必ずしもこうした段取り的努力は必要ないとも言えるだろう。

 

それでも、ある一点においてのみ、メモをとることは重要であると思う。それは、人間の記憶には印象の上書きがあるからだ。後に来るものほど、強い印象となって残りやすい。しかし、本当に強い印象や感動を覚えたのは前の方の文章かもしれない。時間的な前後関係に左右されない公平さを保つには、メモは必要ではなかろうか。

 

 でも、考えてみてほしい。ある部分を読んだ瞬間、「へえ、すごい」とか「なるほどね」とか、いろんなことをみんな感じている。それを何もしないでそのまま読み進めてしまうと、もっとおもしろかったり感動したりするところが出てくるんだよね。そうすると、ついさっき味わった新鮮な気持ちも流されて薄れていってしまう。ずっとその繰り返し、それって自分の感想のダダもれだと思いませんか?

 だから、読んだ瞬間の感情の揺れ動きを書き込んで、本の上に定着させておくわけだ。

 

また「面白かった」「いい話だった」などといった一言で感想が終わってしまうと、長い読書感想文は書けない。

 

 どうしてだかわかるかな?

 読んだ後に感じたことを言葉にしているだけだからだよ。後から考えるとこうなってしまいやすい。

 読んだ後に「どう思ったか」ではなく、読む前と読んだ後で「自分の心がどう動いたか」にポイントを置くと、ひとことしか書くことがない、なんていうことにならずにすむ。

 

ビフォーとアフター、「読む前」と「読んだ後」の間に現れるのは、ものの見方、感じ方の変化である。

 

 ものの見方が変わったり、広がったりすることは読書の大きな意味だ。

 そして、それを言葉で表現する、文章化できるようにすることは、感想文を書くひとつの目的だ。

 

インパクトのある書き出しにする、あらかじめ着地点を考える、「もしも自分なら…」で考える、他と比較する、など多くの役に立つテクニックもこの後紹介されているが、基本となる柱は大体上で紹介したような内容である。

 

小学生でも、中学生でも、高校生でも読んで実行できる本としてつくられているために、大人向けの本では割愛されがちな基本的な問いにも丁寧に答えてある。だが、この基本的な問いこそが大人でも最も頭を悩ませがちな部分であったりする。また読書感想文向きの本も数多く紹介されていてブックガイドとしても役に立つ。そして、その感想のまとめ方も秀逸だ。

 

 西原理恵子さんの『この世でいちばん大事な「カネ」の話』(角川文庫)は、一〇代のときに読んでおいて損のない本だ

と思う。

(…)

 この世でいちばん大事なものはお金なんだ、と言い切ってしまうのはむずかしい。

 そこを、人が何と言おうが、自分はお金がいちばん大事だと思うと、実体験から語っているのが、西原さんのこの本だ。タイトル自体がメッセージになっている。その「フツウじゃなさ」を受けとらないといけない。

 これを読んで、そうは言っても、やっぱりお金じゃなくて心が大事だと思います」と言う人は、メッセージを受け取れていないんだ。(…)

 お金をかせいでいい思いをしよう、得をしよう、という話ではないんだ。

 人間、お金をかせがないと生きていけない。働かないと自立できない。そのためには、自分は才能がないからどうだとか、こんな仕事やりたくないとかごちゃごちゃ言わずに、なんとしても仕事をする、とにかく働こうとすることが大事なんだということ。

 そういう気持ちで生きていくと強くなれる。

 

さらに多くの優秀な生徒、学生の読書感想文を見ることで、そのレベルの高さやさまざまなテクニックをすでに中学生、高校生が身につけて駆使していることに驚かされ、昔を振り返りながら、なるほどこんな風にあの本を料理すればよかったのかと、よい刺激になることだろう。

 

『だれでも書ける最高の読書感想文』は、まさに読書感想文を書かざるをえない十代の人々だけでなく、読書感想文とは無縁になった大人にも大変役に立つ文章読本だと思う。

 

関連ページ:

斎藤孝『語彙力こそが教養である』
斎藤孝『コメント力』
斎藤孝『偉人たちのブレイクスルー勉強術』
斎藤孝『15分あれば喫茶店に入りなさい。』

 

 

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