つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
<< March 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
 
RECENT COMMENT
  • 万城目学『悟浄出立』
    石山智男 (02/14)
  • 伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』
    藍色 (09/23)
  • 森山高至『非常識な建築業界 「どや」建築という病』
    森山 (03/05)
  • 伊坂幸太郎『ジャイロスコープ』
    藍色 (12/11)
  • 坂口恭平『現実脱出論』
    佐藤 (04/22)
  • 増田俊也『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』
    mkamiya (03/18)
  • 増田俊也『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』
    ω (03/18)
  • 板垣恵介・宮谷拳豪『バキ外伝 拳刃 1』
    mkamiya (01/18)
  • 板垣恵介・宮谷拳豪『バキ外伝 拳刃 1』
    ゆーり・ぼいか (01/17)
  • 堀江貴文『ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく』
    mkamiya (11/01)
RECENT TRACKBACK
@kamiyamasahiko
MOBILE
qrcode
PROFILE
無料ブログ作成サービス JUGEM
 
中村文則『去年の冬、きみと別れ』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

 

中村文則『去年の冬、きみと別れ』は(幻冬舎文庫)は、作品の隅々まで知的に構築された、純文学の文体で書かれたミステリーだ。

 

物語の冒頭で、「僕」は女性二人を殺し、死刑囚となった男性カメラマンの取材をしようとする。そうして事件の真相を明らかにしようとするのである。果たして、男は本当に、二人の女性を殺したのか。そのために本人と手紙をやりとりし、彼の姉にも話を聞き、次々に関係者とのコンタクトをとるというオーソドックスな物語の形式をとっているかのように見える。

 

けれども、スルーしてならないのは、順に並べられるのは、取材の過程で作成された資料であって、一人の登場人物による語りではないということだ。資料1、資料2と続く中で、イレギュラーが紛れ込むことに注意しよう。

 

それぞれに登場する語り手が誰なのか、必ずしもステータスが明示されているわけではない。読者は文脈から誰が誰のことを語っているかを見分けながら、情報を蓄積してゆくことになる。

 

しかし、芥川の『藪の中』同様、誰かが嘘をついている。あるいは、他人の嘘を真に受けて語っていいる。読者は、注意してそれぞれの主張に理があるのか、おかしい点がないか注意を払いながら読み進めなければならない。

 

文の中には、他の事柄を語りながら、実は事件の真相を語るような、自己言及的な表現も繰り返し用いられている。何がやりたいのか、鋭い読者ならこのへんで気がついてよいのではと、作者が目くばせするかのように。そう、この作品は、他の多くのミステリー同様、読者と作者の知能戦なのである。

 

最終的には、それまでに張り巡らせた伏線をきちんと回収し、事件の真相が明らかにされる。そうした後で、もう一度最初から読み直してみると、なるほどそういうことだったのかと腑に落ちて、すべてが別の様相で現れてくる、そんな風にできているのである。

 

ただ、この作品の中で、作者が、芸術にとりつかれた人間の狂気とか、死刑囚の人間の心情に本気で肉薄しようとしているのだと考え読み進めるなら、かっがりするかもしれない。それらはどこまでも素材にすぎず、『去年の冬、きみと別れ』は決してヒューマンな作品ではないからである。

 

コメント
コメントする









 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://mkamiya.jugem.jp/trackback/649
 

(C) 2017 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.