つぶやきコミューン

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柳美里『ねこのおうち』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

 

 

柳美里『ねこのおうち』(河出書房新社)は、ある町での、猫と人間とのかかわりを描いた小説である。

 

「ニーコのおうち」「スワンのおうち」「アルミとサンタのおうち」「ゲンゴロウとラテとニーコのおうち」の四つの部分からなっているが、狭い町での出来事なので、それぞれの物語は完全に独立しているわけではなく、共通の人物が登場することで、物語も有機的につながっている。

 

おばあさんのもとで飼われていた一匹のメス猫がいた。メス猫には子どもができるが、そのころにはおばあさんの身にある異変が置き、外で六匹の子猫を生む。その後、六匹の子猫はどうなったのだろうか。

 

そんな風に物語は展開してゆく。

 

生まれたばかりの子猫には、野良猫には名前がない。猫が名前を獲得するのは、誰かに飼われることによってなのである。誰に飼われるかによって、猫の運命は大きく変わる。

 

小学3年生の少女、母子家庭の少年、27歳のライター、末期癌患者である女性とその夫。そして…

 

人は猫を飼い、住まいや食べ物を与え、病気のときには病院に連れてゆくことによって、猫の生命を守り続ける。

 

物語の舞台となっている光町のような殺処分が待っている町で、人から離れて猫が生き延びるのは、とても困難だ。野良猫に餌を与えようとする人もいれば、野良猫を家に近づけまいとする人、殺処分を促すように保健所に連絡する人もいる。

 

猫は、愛情をもって飼う人に、光を安らぎと幸せを与える。

 

しかし、それを嫌う人との間に、争いをももたらす。見つけた猫が誰のものかをめぐって、子どもの間にも争いが生じる場合だってある。

 

拾われたり、保護先からもらわれたりした六匹の子猫の行方を追いかけることで、一人一人の飼い主の家庭の事情が、町の人間関係が浮き彫りになる。その手法は実に見事で、ほとんど魔法のように、私たち読者を魅了してやまない。最後の物語のエンディングで、それは極致に達する。

 

『ねこのおうち』は様々な読み方が可能である。まずある猫の一家のルーツの話として。そして猫をパラメーターとしたある町の人間関係の絵巻として(それはとりもなおさず日本社会そのものの縮図でもあるかもしれない)。そして、猫と人間との共生を訴える物語として。

 

『ねこのおうち』は、そうした多様な読み方を許容する傑作小説である。

 

 

 

 

 

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