つぶやきコミューン

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石田衣良『西一番街ブラックバイト 池袋ウエストゲートパーク将供

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略 ver.1.01

 

 

石田衣良『西一番街ブラックバイト 池袋ウエストゲートパーク将供(文藝春秋)は、池袋ウエストゲートパーク(通称IWGP)シリーズ第十二作。例によって表題作の「西一番街ブラックバイト」に加え、「西池第二スクールギャラリー」「ユーチューバ―@芸術劇場」「西一番街ブラックバイト」の全四作からなる。

 

他の石田衣良の作品はというと必ずしも何が何でも読まねばという衝動にまで駆られることはないのに、なぜかIWGPシリーズに関しては、欠かさず読まずにはいられない。その魅力は何だろうか?

 

第一の魅力は、池袋の実在の場所を舞台に事件が展開するということである。それぞれのエピソードの舞台は、大体数十〜数百メートルのエリアであり、池袋周辺に生活するような人にとっては、日常的に訪れたり、通りかかるような場所である。ある場所は事件の依頼が行われる打ち合わせ場所であり、ある場所は活劇の舞台となるストリートであある。この『西一番街ブラックバイト』でも、待ち合わせ場所である池袋西口公園は言わずもがな、誠の地元である西一番街商店街が、西口公園に面する東京芸術劇場が、東口と西口を結ぶ地下道のウイロードが、立教通りが舞台となる。IWGPでは、池袋やその周辺のすべてが巡礼対象の聖地となるのである。

 

第二の魅力は、キャラクターである。語り手であり、主人公である真島誠、Gボーイズを率いるキングこと安藤崇(タカシ)。そして、八百屋を営む誠の母親。この三人を中心に多彩な人物が繰り広げるネットワークによって、池袋の事件が浮き彫りになるのである。かつては、電波マニアのラジオやハッカーのゼロワンように、真島誠周辺を固めるスペシャリストの軍団が活躍していたのだが、最近はほとんど姿を現さない。また、刑事の吉岡、ヤクザのサルといったキャラクターも安定の脇役を演じていたが、そうした顔ぶれも変化しながら、最終的に中心として残るのが誠とタカシと誠の母親の三人であることが「西一番街ブラックバイト」で改めて確認されることだろう。

 

第三の魅力は、第二の魅力と不可分だが、依頼者によってもたらされる事件が時代を表す人物や産業と不可分であるという点である。この『西一番街ブラックバイト』でも、廃校となった小学校をギャラリーとするアーティストの世界、ネット動画で荒稼ぎするユーチューバ―の世界、手術によって過剰なまでに美を追求する整形手術の世界、そして安い賃金で長時間酷使させながら、なおかつ社長の哲学によって従業員を洗脳支配しようとするブラックな飲食業界が扱われる。本が出たその時には、ごく自然な時代の風景であったものも、時代が移り変わり、読みなおしてみると懐かしい過去の風景になってしまっている。IWGPは、それゆえ常に失われつつある現在へのノスタルジアの世界でもあるのだ。

 

第四の魅力は、真島誠の読者に語りかけるあの語り口そのものにある。誠は、第三の魅力でクローズアップされるような時代のトレンドを、決して豊かではない零細自営業者の店番の視点から斜に語り、抗いがたい時代の流れに対する人々の思いを、また非モテ系の独身男性の思いをも代弁総括する。その時代を斬る語り口は、『方丈記』的な無常観に満ちた文明論のようでもある。さらに、その中にBGMとなって毎回割り込むのが、クラシック音楽の名曲で、特に孤高のピアニストグレン・グールド演奏のピアノ曲や、交響曲の世界が誠のお気に入りだ。『西一番街ブラックバイト』で聞かせてくれるのはどんな名曲だろう。

 

要するに、IWGPが体現するのは、リアルな場所に投影された、現在の東京、あるいは日本の縮図となるような時代のフォークロアであり、その時池袋は単なる東京の一エリアであることをやめ、オールインワンのテーマパークとなるのである。真島誠や タカシは、ミック―マウスやミニーマウス、ドナルドダック同様、その世界へと読者を導く水先案内人なのである。

 

「西池袋第二スクールギャラリー」は、誠の母校が廃校になった後、ギャラリーとして活用され、そこで展示されている作品をめぐるトラブルが語られる。

 

 最近、自分が卒業した小学校へいったことがあるかい?

 おれはある。まるで、ミニチュアの世界にでもはいりこんだみたいだった。バカみたいに広がった教室は手狭に感じるし、机も椅子もちいさくてオモチャみたい。校庭にはいまだに鉄棒や築島が残っているが、そこで遊んでいる子どもはゼロだ。

 なにせ、もうそこは小学校でさえないんだから。p9

 

「ユーチューバ―@芸術劇場」は、最近売り出し中のユーチューバ―周辺で起こる怪事件を扱う。やはりネットに端を発するトラブルが原因なのだろうか。

 

 ウェブ2.0はこの数年でようやく形になり、いよいよ全メディアを呑みこみ始めた。テレビ、映画、音楽、新聞、雑誌、書籍……その他すべて。オールマスコミが有料無料にかかわらず、ネットにくわれだしたのだ。

 恐竜時代の最後に出現した最初の哺乳類の名は、無料動画投稿サイト。

 動画投稿サイトが初めて出現したときは、哀れなネズミのようだった。そいつはほんの十年ばかり前の話だ。テレビや新聞や出版といった巨大な恐竜の足元で、ちょろちょろとうろつく泥だらけのネズミ。それが今では、滅びゆく放送や出版全メディアの天敵となろうとしている。おれがコラムを書いているストリートファッション誌も厚さが半分になった。原稿料は当然ずっと据えおきのままだ。pp67-68

 

「陸橋通り整形シンジケート」は、マスクに口から下を隠して見せようとしない女性の依頼を扱う。ストーカーに悩まされているというのだが、事件にはさらに深い裏がありそうだった。

 

 

 日本の美容整形市場は年間二千億円。

毎年何十万人の若かったり、そうでなかったりする女たちが、プチだったりメスやプロテーゼをつかうような本格的な整形手術を繰り返している。なかにはシリコンバッグをいれて胸をでかくしたり、グラインダーで骨を削ったりね。もう美容整形は特別なことじゃないんだ。平成女性の秘密のたしなみといってもいいだろう。

 もちろんプチなら、整形もお気楽かもしれない。だが、それがやめられない習慣になり、数百万円もかかる、手術というより工事に近いような事態に発展するとしたら、あんたはどうする。好きな女の顔が、数十万円の手術のたびに別人になっていく。現在芸能界やAVで流行中の見知らぬ平均的ハーフ顔に近づいていくのだ。

  そこで生まれてくるのは、単に顔の美醜という表面的な問題じゃない。

 おれたちの顔は、ほんとうは誰のものなんだろう。p126

 

「西一番街ブラックバイト」は、西一番街で急速に店舗数を増やしてきた飲食チェーン店をめぐる従業員トラブルを扱う。いつしか社員の自殺騒動にまで発展したブラック業界に、誠は、タカシはメスを入れることができるだろうか。

 

 日銀が洪水みたいに金をじゃぶじゃぶと流しても、結局はなにも変わらなかった。人やモノより金のほうが貴重になるデフレ経済の大勢に変化なし。働く人間がやせ細り、金をもつ人間がルールを捻じ曲げていく格差社会だ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が描いた夢の未来は、三十年たってスマホをもつ奴隷ワーカーがゾンビのようにうろつく煉獄となっちまった。黒い会社の正社員ゾンビに、非正規雇用のゾンビたち。ゾンビにならずに生き延びる確率は、コインの裏と表と同じ半々というホラー映画みたいな生存率だ。p180

 

リアルな社会では整形手術の失敗にせよ、ブラック企業の過酷な労働条件にせよ、こうした問題に直面しても、ほとんどの人はなすすべもなく、時流に流されるだけだろう。戦うには、とてつもないエネルギーとスキル、知恵を必要とする。これら時代の悪しきトレンドは、たとえ問題に直面しないとしても、欝々としたストレスとして私たちの心にのしかかってくる。IWGPは、物語の中で問題に風穴を開けてくれると同時に、リアルに直面する人にも問題に屈しない精神の光と力を与えてくれるかもしれない。

IWGPは、狂いかけた時代を、正気でサバイバルするための物語なのだ。

 

関連ページ;

石田衣良『逆島断雄と進駐軍養成高校の決闘』 
石田衣良『余命一年のスタリオン』  
石田衣良『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークⅪ』  
『IWGPコンプリートガイド』

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