つぶやきコミューン

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新川直司『四月は君の嘘』 1〜11

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

 

おそろしい漫画である。Kindle版で1巻が無料で試し読みできるので、夕食後読みだしたら止まらなくなり(大体コンサートの肝心な部分で次巻へ続くとかやられると弱い)、一巻また一巻とハシゴして結局11巻全部読み切ってしまった。20%ポイント還元とかあって若干安くなるものの、一晩で四千円近く使ったことになる。

 

新川直司『四月は君の嘘』は、クラシック音楽の世界を縦糸に、高校生たちの恋や夢を横糸にして紡ぎあげた青春群像劇のコミックである。メインとなるのは、天才ピアニストである有馬公生と個性派バイオリニストである宮園かをりとの友人以上、恋人未満の関係であり、かをりがスポーツ万能のサッカー少年渡亮太と、ソフトボール少女の澤部椿と公生三人の幼なじみグループへと割り込むことから始まる。

 

たちまちかをりにひかれる公生だが、最初からかをりは亮太が好きであると言う。そして公生を「弟」扱いしている椿はというと、彼がかをりに接近するとなぜかいらつき暴力的になるのであった。小学生のころ、楽譜通りの正確無比な演奏で、コンクールでも向かうところ敵なしの公生だったが、スパルタピアノ教師であった母親が死ぬとその呪縛から逃れられず、演奏途中で自分の音が聞こえなくなり、そこでピアニストへの道は断たれてしまうかのように思われた。そんな公生に立ち直りのきっかけを与えたのが、彼をコンクールの伴奏者に指名したかをりだったのだ。

 

だが、新しい自分の演奏に向かうたびに、再びあの悪夢がステージ上の公生に襲いかかる。彼をライバル視しその背中を追い続けていた相座武士井川絵美も、公生の不安定な演奏に絶望したり、興奮させられたりしながら、いつしか自分の演奏スタイルを変えてゆく。それほどまでに、公生の存在はクラシックをめざす少年少女の中で大きな存在だったのだ。そして、それは宮園かをりも同じだった。

 

新川のタッチは、最初はシリアスな純文学風のタッチで統一されている。しかし、巻を重ねるたびに、コミカルなシーンではデフォルメの大きくキャラクターの表情が記号化するギャグマンガのタッチを取り入れるようになる。そして同じようなコミュ障でオタク系天才メガネ男子桐山零を主人公にすえた羽海野チカの『3月のライオン』の深いモノローグの世界、タッチを変えたシリアスとコミックの往還の世界へと酷似してゆくのである。中には、『3月のライオン』の女性登場人物に表情が酷似してしまっているコマもあるし、意図的なオマージュなのかウミノグマを思わせるキャラクターさえも登場し、その影響を隠そうとはしない。そもそもタイトル自体が、三月の次は四月でしょというあからさまな告白のようにさえ見えてしまうのである。『四月は君の嘘』は、立ち上がりからすでに新川の画力は完成レベルにあるので本来いじる必要など感じさせないものだ。ただシリアスで写実的な絵柄で全体を統一した場合、テーマが重すぎ読者がつらくなりすぎると予想されたため、そのようにコミカルな手法との往還を取り入れることにしたのではなかろうか。

 

エキセントリックな女の子との出会いがスランプ中の音楽男子の才能を開花させるという音楽コミックの王道は、『のだめカンタービレ』と類似するが、ジュブナイルな世界は『ピアノの森』の少年編に近いものがある。しかし、作品全体に響く暗い通奏低音はやはり『3月のライオン』に一番近いのである。

 

『四月は君の嘘』は『のだめカンタービレ』や『ピアノの森』のように、一人前の演奏家に至る成長を描き切るほど長くはない。登場人物たちは、その若さもあって、自分の気持ちもそして相手の気持ちも、もどかしいまでに正しく知らない。そして本当の自分の気持ち、本当の相手の気持ちに気づくまでドラマは続く。その意味で、職業的なサクセスストーリーというよりも、コミュニケーションをテーマとした青春ドラマなのだと思う。

 

特に、素晴らしいのは公生が藍里凪と名のる中一の少女を指導する場面。二人の演奏が、かをりとの演奏以上に感動をもたらしてしまうのは、それぞれの演奏が別の人物に宛てたメッセージをはらんで二重化されている上、もともと凪が敵意を持って近づいたからなのだ。敵意はいつしか、雪解けし、敬意に変わる。その変化の中に作者の人間への信頼がある。

 

『四月は君の嘘』の要は、やはりタイトルそのものにある。何が嘘かは決して隠されてはいないが、登場人物たちには見えていない。その部分がとても切ない。それは絵の語るものと台詞の語るもののずれ、矛盾として現れる。最後まで読み切って涙腺が決壊した後は、もう一度最初に戻っていろいろな場面の台詞の本当の意味を読みなおしたくなる漫画である。ゆえに、一巻読んでは古本屋に売ってまた次の巻を買ってという読み方は向かない。紙であれ、電子書籍であれ、全巻手元に置いて読みきるしかないコミックである。  

 Kindle版

 

関連サイト:

TVアニメ「四月は君の嘘」公式サイト

映画「四月は君の嘘」公式サイト

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