つぶやきコミューン

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吉田豪『吉田豪の空手バカ一代』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本

 文中敬称略

 

 

梶原一騎原作、つのだじろう漫画の『空手バカ一代』のヒットとシンクロするように一躍日本を席捲し、世界にも空手ブームを広げた大山倍達と極真空手。そしてそれに前後する形で、『巨人の星』『あしたのジョー』など数々の漫画のヒット作を世に送り出し続けた梶原一騎、さらに兄に寄り添うように自ら道場まで持って極真空手の伝道師であろうとした『ワル』の作家真樹日佐夫。大山の死後、極真空手はお家騒動となり、多くの流派に分裂。また梶原も晩年暴力事件からスキャンダルに包まれ、大バッシングに遭う。毀誉褒貶の飛び交う中で、大山倍達と梶原一騎の正当な評価は、そして真の人間像はいかなるものなのかを、17人の証言を通じて明らかにしようとするのが、プロインタビュアー吉田豪によるインタビュー集、『吉田豪の空手バカ一代 ”地上最強の人生”インタビュー(白夜書房)である。

 

この本の特徴は、様々な相手に対して、たった一人でインタビューを行っているという点にある。いわば「やる側」ではなく、「やらない側」によるインタビュー集なのだ。吉田は格闘技のキャリアを持たず、どこの道場にも籍を置かないがゆえに、逆にニュートラルな立場で、相互に仲のよくない相手や距離のある相手にも、自在にアプローチし、同じようなスタンスで、率直な証言を引き出すことができる。そして、誰かの発言を念頭に置きながら別の相手に真偽のほどを確かめるべく言質をとるということも可能である。

 

それゆえ、大山や梶原をはじめとして、これらのインタビューの中で語られる人物たちの姿も、巷の噂や評価によってつくられたイメージとは別次元の、ずっと人間らしいものとして、立体的に浮かび上がってくるのである。

 

インタビューされる相手も、多岐にわたる。大山道場時代に師範代を務めた渡邊一久添野義二蘆山初雄のような極真の創世記を担った猛者たち、それに続く東孝緑健児廣重毅らオープントーナメントで上位を飾った名選手たち、さらに空手からプロレスやK1のリングへと転身した小笠原和彦村上竜司ニコラス・ぺタスといった二足の草鞋を履いたサムライたち。日本におけるキックボクシングの頂点に君臨した藤原敏男、ブルース・リーが世界を席捲したころ、一躍日本におけるドラゴン俳優として有名になった風間健、土管割りで有名な格闘家であり、アントニオ猪木らのメディカルアドバイザーも務める倉本成春といった多彩な人物がそれぞれの格闘技人生と大山や梶原に始まる大きな潮流に対する自分の関わりを吐露するのである。また、石井和義の後を継いでK1のプロデューサーの大役を果たした谷川貞治、月刊『フルコンタクトKARATE』の編集長であった山田英司の、泥沼の渦中にありながらの岡目八目な証言も貴重だ。そして最後をしめくくるのは、今は亡き梶原の妻高森篤子、二人の息子高森城高森一誓の家族から見た証言である。

 

そこから次々に明るみに出る衝撃の事実の数々。

・大山倍達は、空手バカ一代の主役をとられて芦原英幸に嫉妬した。

・空手の型は複数の相手とケンカする時に役に立つ。

・長州力は今でもスクワット4千回やる。

・大山倍達は、話し合いでものごとを解決するのは空手家には無理な相談だから、先に殴ってしまえと言った。

・ぺタスはスパーリング2回でK1のリングに上がった。

・猪木ーウィリー戦で、両方のメンツを保たせた猪木のプロの凄さを蘆山は実感した

・大山と組手をやったら廣重はいきなり電光石火で目を突かれた。

・山本KID対魔娑斗戦をプロデュースしたのは風間健。

・藤原敏男は、佐山聡からプロレス技を教わり、場外乱闘やブランチャまでやろうとした。

・ケンカでは鼻っ柱を殴ると血が出て過剰防衛になるので喉を狙え。

・大山は死の40日前に高森城の結婚式に出席し30分スピーチした。

その他、ここでは書けないヤバい話、抱腹絶倒の話が盛りだくさん。

 

格闘家の宿阿として、自らの武勇伝や経験談を面白おかしく盛る部分は避けられないが、それでも複数の証言が共通して明らかにするのは、神格化され、後にその武勇伝の数々に疑問が呈せられた大山倍達も、超売れっ子作家から悪役イメージに染められた梶原一騎も、さらにはダンディズムゆえに強面で通した真樹日佐夫も、私達が考えるよりもずっと、人間的で、愛すべき人物であったということである。本書を読み進める中で、いくつもの謎が解き明かされると同時に、いくつもの謎が解かれぬままに現れる。やはり、格闘技の世界は、技の優劣や力の強弱を超えて、人間そのものが面白いのである。

 

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