つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
<< May 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
 
RECENT COMMENT
RECENT TRACKBACK
@kamiyamasahiko
MOBILE
qrcode
PROFILE
無料ブログ作成サービス JUGEM
 
A・アインシュタイン×S・フロイト『ひとはなぜ戦争をするのか』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略 ver.1.1

 

 

アルバート・アインシュタインジグムンド・フロイト『ひとはなぜ戦争をするのか』(講談社学術文庫、浅見昇吾訳)は、1932年に国際連盟の要請により、両者で交わされた書簡をまとめたものである。

 

今日、戦争の是非を語ることはきわめて難しい。必ず何らかの国家の立場、主義の立場から、よい戦争と悪い戦争を区別し、一方を擁護し、他方を糾弾するような差別化のバイアスがはたらくからである。そのような屁理屈以前に、戦争は悪である。そして、人類がなぜ戦争してしまうのか、どうすれば戦争をなくすことができるのか、幼児のような純粋さをもって、20世紀最大の物理学者アルバート・アインシュタインは問いかけるのである。

 

 あなたに手紙を差し上げ、私の選んだ大切な問題について議論できるのを、たいへん嬉しく思います。国際連盟の国際知的協力機関から提案があり、誰でも好きな方を選び、いまの文明でもっとも大切と思える問いについて意見を交換できることになりました。このようなまたとない機会に恵まれ、嬉しいかぎりです。

 「人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか?」

 これが私の選んだテーマです。pp9-10

 

1932年7月30日付でアインシュタインが問いかけた相手は、精神分析の祖であり、マルクス、マックス・ウェーバーとともに、人文・社会科学の分野において大きな潮流を形成し、今日まで影響を及ぼし続けているジグムンド・フロイトである。

 

まずアインシュタインは、戦争をなくすためには、すべての国家が集まり、権力を持った司法機関を設立することが必要であると主張する。

 

 国際的な平和を実現しようとすれば、各国が主権の一部を完全に放棄し、自らの活動に一定の枠をはめなければならない。p13

 

戦争が絶えることがないその奥には、人間の欲求が潜んでいることをアインシュタインは見逃さない。

 

 人間の心自体に問題があるのだ。人間の心のなかに、平和への努力に抗う種々の力が働いているのだ。p13

 

その悪しき力の一つは権力欲である。だが人々は容易に一部の人の利益にしかならない戦争へと加担する。教育やメディアによるプロパガンダによって、人が易々と戦争に駆り立てられる背景にあるのは一体何なのか?その底には、破壊への衝動があるのではないか?

 

このようなアインシュタインの真摯な問いかけに、フロイトは、その問いかけが単なる物理学者のものではなく、一人の人間のものであると考え、同じ平和を愛する一人の人間として、1932年9月付の手紙で正面から答えようするのである。

 

フロイトによれば、人類の歴史は暴力による支配から法による支配へと移行してゆくそのプロセスにある。そこで、暴力的な方法で支配を確立したとしても、それによって永遠の平和がもたらされるわけではない。

 

だから、アインシュタインの最初の提案、みなの合議により権力を集中させた機関によるしか、戦争を廃絶する道はないとフロイトは語る。そこでの困難は二つ、まずそのような機関が存在すること、そして自らの裁定を押し通す力を持つことの二つである(後者がいかに困難であるかは、国連の安全保障理事会が拒否権によって機能不全に陥っていることからも明らかであるだろう)。

 

さらに人間の衝動を統一と保持へと向かう生の欲動(エロス)と破壊や殺戮へと向かう死の欲動(タナトス)に分けながら、その二つの衝動の結びつきによって、人間の行動が駆り立てられ、そのまま国家間の戦争さえももたらすさまを語ろうとする。

 

とすれば、死の欲動ではなく、生の欲動を呼び覚ますことで、戦争を回避し、平和をもたらすことができるのではないか。

 

ある意味、フロイトもきわめて無邪気な答えをアインシュタインに対して送っているのである。

 

さらに、フロイトはなぜ自分たち平和主義者が、戦争に対し強い憤りを覚えるのか、その理由を問いかける。その部分は、フロイトの書簡の中で、最も感動的な部分であるだろう。

 

 なぜなら、どのような人間でも自分の生命を守る権利を持っているから。

 なぜなら、戦争は一人の人間の希望に満ちた人生を打ち砕くから。

 なぜなら、戦争は人間の尊厳を失わせるから。

 なぜなら、戦争は望んでもいない人の手を血で汚すから。

 なぜなら、戦争は人間が苦労して築き上げてきた貴重なもの、貴重な成果を台無しにするから。

 それだけではありません。いま戦争に勝利しても、かつてのように英雄になれるわけではないのです。破壊兵器がこれほどの発達を見た以上、これからの戦争では、当事者のどちらかが完全に地球上から姿を消すことになるのです。場合によっては、双方がこの世から消えてしまうかもしれません。pp50-51

 

平和主義者が、戦争に反対するのは、単なる感情や知性のレベルではなく、身体と心が反対するからであるとフロイトは言う。そして、それをもたらしたのは文化の発展によるものであるとフロイトは主張するのである。

 

 文化の発展を促せば、戦争の終焉へ向けて歩み出すことができる!p55

 

平和運動家としてのアインシュタインの足跡は広く知られているが、ここににはヒューマニストフロイトの肖像がある。その純粋で強烈なメッセージは、アインシュタインのメッセージとともに、全世界で文化がないがしろにされ、好戦的な傾向が加速する21世紀の世界を十分照らすことのできるものであるだろう。

 

PS  本書には、脳科学者養老孟司と精神分析家斎藤環によるそれぞれの立場からの解説が収められているが、その中でもIS(イスラム国)以降の世界に触れた養老の言葉は特に重要であると思う。養老は、現代社会をアルゴリズム支配の世界としてとらえ、それへの抵抗として、ISなどのテロをとらえようとするのである。

 

   新しいシステムが成立しつつあるとき、それに参加しなければなにか不利益を被る。以前通り生きているのに、外部の都合でなぜか不利益を被ってしまう。あるいは不利益を被るという感じがする。ではそれに反抗する方策があるか。新しいシステムが包括的、普遍的であればあるほど、抜け道がない。だからテロになるのであろう。

  そう思えば、現代のテロとは、新しい社会システムに対するレジスタンス、抵抗とみなすこともできる。テロがアルゴリズム的社会に対する抵抗だとすると、これは簡単にはなくならない。p74

 

コメント
コメントする









 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://mkamiya.jugem.jp/trackback/633
 

(C) 2017 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.