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宮崎正弘・石平・福島香織『中国バブル崩壊の全内幕』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

 

中国経済に陰りが出れば、日本のみならず世界が大きな影響を受ける。久しくささやかれる中国のバブル崩壊だが、どの程度に深刻でどの程度に差し迫っているかは、国内の能天気な報道ではまずわからない。さらに中国の対外政策は強硬で、特に南シナ海周辺では緊張を高めている。そして、対台湾や対香港の政策でも強行策が裏目に出ている。すべては習近平路線のなせるわざである。それがしかるべき勝算に基づくものなのか、単に習近平のセンスの悪さに基づくものなのか、にわかには判断しがたい。こうした疑問の数々を一気に解消してくれるのが、宮崎正弘石平福島香織という三人の中国通による『中国バブル崩壊の全内幕』(宝島社)である。それによれば2017年に中国国内で大きな変動がある。そして、その最もありそうなシナリオが習近平の失脚ということになる。

 

本書の構成は第1、2章を石平が、主として経済的側面から、いかに中国がバブル崩壊の危険水域に入っているかを分析する。第3、4章では日本企業が冒しているリスクと世界経済への影響、さらに中国バブルの実態に関してその悲惨な正体を宮崎正弘が暴き、続く第5、6章では福島が、ことごとく失敗に終わっている習近平の対外政策とその基本にある「中国の夢」の思想をとり上げ、すでに独裁体制に亀裂が生じている中国共産党内の権力闘争の現状を詳述する。最後に三氏の鼎談によって全体像を総括するという構成になっている。

 

「第1章 現在進行中の中国経済崩壊と今後」中国は表向き2014年で前年比7,4パーセントの経済成長率をうたっているが、これが偽りの数字であることは電力消費量の3.8パーセント増、鉄道の貨物輸送量の3.9パーセント減といった指標から容易に見てとれる。2015年の第一四半期を見ると中国の輸入額は前年同期比17.3パーセントの減、国有企業の利益総額は8パーセント減。首相の李克強が中国経済の指標として最も重視している電力消費量と鉄道貨物輸送量を2015年の上半期に関してみるとそれぞれ1.3パーセント増、10.1パーセント減だった。そこから結論できるのは

 

いわゆる「李克強指数」から見ると、2015年上半期の成長率は0%か、あるいはマイナス成長に陥っている可能性すらある。

P17

 

と中国経済の現状に鋭いメスをいれてゆくのである。2016年1月ジョージ・ソロスは中国経済のハードランディングが不可避であると唱え、中国政府はこれに強く反発したことはかえってその真実味が高いことを裏付けた。中国政府が仕掛けた株価バブルは大暴落という結果を招きその回復は絶望的である。さらに不動産バブルも弾け、中国全土は不動産の在庫の山となっている。その崩壊が進めば、鉄鋼などの基幹産業に悪影響を及ぼす。そして消費拡大へも大きな打撃を与え、地方政府の財政破綻という負の連鎖がその後に待ち構えているのである。最後に来るのはシャドーバンキングの破綻による金融恐慌である。その根本原因が、中国経済が安い労働力で安い製品を提供する「パンツ経済」を脱却することができなかったせいであると石平は説く。

 

「第2章経済崩壊の後、天下大乱に陥っていく中国」では2011年に起きた18万件もの暴動、争乱事件をとりあげながら、「農民工」(地方の農村出身の出稼ぎ労働者)が暴動の主力となっていることを強調する。農民工こそは中国の治安上の最大の火種であり、恵まれた都市の住民とは異なる悲惨な境遇と格差社会がその背景に存在する。地方政府は、農民から取り上げた土地を売り財源とし、公共事業や不動産事業によるバブルを生んだが、その労働力として農民は吸収されることとなった。こうして産み出された2億9千万人もの流民こそは将来的に中国をまっぷたつに分断し中国共産党の一党独裁体制を崩壊させかねない存在なのである。

 

「第3章 逃げ遅れた日本企業を待ち受ける地獄」中国のバブルが崩壊したとき、日本企業の受ける被害を次のように宮崎は評価する。

 

 日本企業が逃げ遅れた事由は指摘するまでもないが、これまでに直接投資としてトヨタ、日産をはじめ、およそ2万社近くが工場建設などに投じたカネは少なくとも1000億ドル(11兆円)である。円借款は3兆円強。日本政府がつきあいで保有する中国国債は6800億円。そして邦銀が中国企業(日本企業を含む)に貸し付けている残高が8兆4000億円。これだけの合計でも、2016年5月現在、23兆円強になる。p78

 

中国国内がダメでもインバウンド消費があるという甘い夢も、中国当局による高税率で水をさされた状態である。ジョージ・ソロスが警告した中国経済の近未来のカタストロフは現実のものとなりつつある。中国政府、地方政府、国有企業の債務だけで30兆ドルに上るといわれ、バブル崩壊のインパクトは日本の13倍とも試算される。そして不況の風はすでに鉄鋼は半値でダンピング、炭鉱は閉鎖され、大同市はゴーストタウンになるなど、不況の嵐は中国全土を吹き荒れている。一人っ子政策をやめても人口は増える気配は見えない。この政策下で生まれた戸籍がなく、学校にも通えず移動ができない人々(黒戸)への対応も遅れているし、若者は日本同様独身生活から抜けたがらない。こうした否定的な材料が山積する中国の未来はどのようなものだろうか。

 

「第4章 豊かになる前に成長期を終えた中国」では、中国の時代の到来が短命に終わった理由を分析する。ひとつは香港から言論の自由が失われつつあること。また地方に蔓延する腐敗は多くの不良建築物を生み出し、多大な犠牲者を生んだ。そして、団地もリゾートマンションもゴーストタウン化が進んでいる。中国の不動産、投資バブルは人為的に仕組まれたもので、内需にそったものではなかったのだ。他方、進むのは中国企業の海外企業の爆買いで、その意味するところは「中国脱出」である。さらに追い討ちをかける大気汚染と自然災害。また「パナマ文書」による中国要人の不正発覚も中国共産党にとっての脅威となっている。このように、経済的にも、政治的にもガタの来た中国へと日本企業が執着することは致命的になりかねない。中、米、EUと否定材料の並ぶなか、日本政府も正しい経済の活性化は見いだせていない。

 

「第5章 ‘‘中国の夢”が潰れる日」では、2010年のベストセラー『中国夢』と『C型包囲』に着眼しながら、中華グローバリズムをめざす習近平路線の発想を読み取ろうとする。中国が経済的ハードランディングを回避したいなら、本来政治改革に着手し、法治化を徹底するなど国際企業が安心できる環境の整備をはかるべきだが、習近平の路線はこれに逆行する共産党原理主義であり、小毛沢東の独裁志向であった。しかし、日本の孤立化をはかろうとする対米路線は逆にオバマに警戒心を植え付け、南シナ海における挑発行為をエスカレートさせ、キューバ危機まがいの事態を発生させている。台湾では傀儡化をはかろうとした馬英九政権を蔡英文政権へと交代させてしまうし、言論弾圧で香港の「一国二制度」を否定したことで、国際金融センターを失うなど失政が目立つ。ロシアでさえ足並みを揃えているかに見えて、プーチンの本音は親日路線にある。対外的にはアメリカ中心に中国の封じ込めが進むが、福島は真の崩壊の原因は内部にあるとする。

 

「第6章 共産党政権の終わりの始まり」オリンピック九年目に開催国の政治体制が崩壊するというジンクスがあるが、これによると中国では2017年がそれに当たる。中国共産党内の勢力争いに着眼しながら、習近平がそれまでに築き上げられた集団指導体制による共産党の秩序を破壊している。しかし、この現状にも陰りが生じている。2016年2月中国のトランプと言われる不動産王の任志強に対するバッシングを習近平は先導したが、任志強と仲のよい王岐山の反撃にあってわずか10日で中止。「10日文革」と呼ばれるこの事件はその後の王岐山による習近平の肩に手をかけた事件とならんで、習近平体制の陰りを印象づけることとなった。さらに公然と反旗を翻した書簡が公開された「無界新聞」事件などから習近平体制の崩壊のカウントダウンが始まっていると福島は考えるのである。

 

三人の著者の視点は、それぞれに微妙に異なり、力点も違うが、中国の習近平体制の崩壊が近いという点では一致している。しかも、習近平が改心しない方が速度が早まり、望ましい結果につながるという見立てである。本書のなかには、現在の中国に関するきわめて多くの経済的・政治的データが集約されている。それに関する判断は、読者により異なろうが、何よりも中国でのビジネス展開から足を洗う決断を一日伸ばしにしている経済人にこそ読んでもらいたい一冊であると思う。

 

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