つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
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マキヒロチ『吉祥寺だけ住みたい街ですか?』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

Kindle版

 

住みたい街ナンバーワンの吉祥寺、しかし吉祥寺に憧れる人のすべてが他のあれこれの街を歩き、比較した結果吉祥寺を選んでいるわけではない。ほとんどの人は、ただテレビや雑誌で流された情報を鵜呑みにして、なんとなく選んでいるだけなのだ。

 

マキヒロチ『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』は、そんな街に対する固定観念を覆し、地味で目立たない街の魅力を発掘し、紹介するなかで、住まいの意味を考えるという街めぐり不動産漫画、まるで速水健朗の『東京どこに住む?』をコミカライズしたような作品である。

 

主人公の重田都子重田富子は、メタボ気味の双子の姉妹。両親の後を継いで、現在吉祥寺で不動産業を営んでいる。店は古めかしくてあまりきれいでないが、他の新しくてきれいな店が混んでたりして迷い込む客は絶えない。

 

その多くは恋人との破局や転職など、人生の曲がり角にさしかかった女性であり、なんとなく吉祥寺がいいという幻想を抱いた人たちである。彼女たちの希望は判で押したようにほぼ同じ、吉祥寺駅徒歩10分、バス・トイレ別のワンルームで、家賃8万円とかなりわがままだ。とりあえず心当たりの物件を紹介してみるものの、条件が難しいため部屋が古かったり、手狭だったり、立地が悪かったりと満足できるものではない。

 

そこで飛び出す決め台詞が、「吉祥寺やめよっか」である。

 

いきなりタメ口で始め、店内でも出先でも食べ物をどんどん勧める二人の手口に最初は警戒心を抱く客たちだが、案内された別の街の物件は吉祥寺の物件よりも条件がよさそうだし、何よりも行った先の街やそこにある店の数々を素直に楽しむ二人のペースにいつのまにかはまってしまう。そして、その街のとっておきの魅力を発見し、そこで再スタートを切ろうとするのである。

 

1巻では、終始この黄金パターンが繰り返される。紹介される街は、雑司が谷、五反田、錦糸町といったっ吉祥寺ほど人気はないが、それなりに魅力のある個性的な街の数々である。2巻では、これに姉妹の住む老朽化した家のリノベーションをからめながら、経堂や秋葉原、蔵前といった街を同じペースで紹介する。

 

客の女性たちが新しい街に住もうとする場面では、たとえば夜のサンシャインシティを背景に走る都電荒川線や、夜の錦糸公園のバックにきらめくオリナスとスカイツリーのようなとっておきの決め構図、作者渾身の一枚が用意されている。

 

人物は女性も男性も特に美形のキャラクターをあえて登場させないようにしている。というのも、この客たちは、メディアのばらまく虚構の中を生きる存在ではなく、私たち読者の等身大のアバターに他ならないからである。

 

 

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