つぶやきコミューン

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速水健朗『東京β 更新され続ける都市の物語』

JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

 

 

『東京β 更新され続ける都市の物語(筑摩書房)は速水健朗の東京を主題とした都市論的著作である。

 

都市の変化をいかにとらえるべきか。

都市の変化は、単に都市計画や建築物の歴史によってだけではとらえることができない。

都市の変化は、人々がそれぞれのエリアに対して抱くイメージ、そしてそこで生活する人々のライフスタイルと不可分であるからだ。

人々のイメージも、ライフスタイルも時間とともにどんどんと変化し、元の形をとどめることがない。

 

そこで何らかの文化的化石、時代の痕跡をとどめたもの、メディアのアーカイブを援用する必要が出てくる。

 

   震災、戦禍、高度経済成長、バブル経済。消失と乱開発を繰り返してきた東京。東京ほどかつての姿を後世に残していない都市は世界にも例がない。

  だが、かつての東京がどんな場所だったか、そこにどんな生活や文化が存在していたかを振り返る手段はある。さいわいなことに東京を舞台とした映画やドラマ、さらには小説やマンガは数多く存在している。これらの中には、かつての東京がそのまま封じ込められているのだ。p9

 

絶えず更新を続け、一つの完成形を示すことは決してない都市東京の、時間的な、地域的な変化を、速水健朗は、東京という都市を舞台につくられてきた様々なジャンルのフィクションー映画、テレビドラマ、漫画、アニメ、歌謡曲―の中に込められた物語によってとらえようとする。カルチャー、サブカルチャーを問わず、様々なジャンルの物語を召喚することで、現在とは異なる位置づけであった時代によるそれぞれのエリアの特徴も鮮やかに浮かび上がってくるのである。

 

「第一章 東京湾岸の日常」では、戦後の核家族化に輪をかけるような晴海団地に建設された高層アパートを舞台とした映画『しとやかな獣』(1962)、東雲を舞台とした森田芳光監督映画『家族ゲーム』(1983)、さらには清洲橋周辺の高層マンションの住人を主人公とするテレビドラマ『男女7人夏物語』(1986)、千住周辺のタワーマンションを舞台とした宮部みゆきのミステリー『理由』(1998)と、有明を舞台とした黒澤清監督の映画『叫』(2007)へとたどる中で、家族の解体のプロセスと、都市が抱える不安の変質をとらえようとする。さらに豊洲のタワーマンションを舞台とした桐野夏生の小説『ハピネス』(2007連載開始)や羽海野チカのコミック『3月のライオン』(2007-) では、いったん解体された家族の再生や、その後に来るものの希望が語られる。

 

 月島・佃といった地域を主とした「古い下町の匂いの残る場所」としての東京と、「新しい開発後」の東京が混在した「新しい東京」という舞台で、羽海野チカは、新しい時代の都市的な「家族像」が生まれるストーリーを紡いだのだ。p95

 

「第二章 副都心の系譜」では、発展途上の西新宿を舞台として描いた『太陽にほえろ!』(1972スタート)と、都市博の中止で、当時はまだぺんぺん草の生える空き地が目立ったお台場を舞台とした『踊る大走査線』(1997スタート)を対比しながら、それぞれの街の発展の過程をライブ感覚でとらえようとする。

 

 二つのドラマの間には、二五年の歳月がある。権力や暴力を行使する存在である刑事の描かれ方も、民主的になった。また、社会の有り様も変化した。

 だが、ここで注目するのは、刑事たちが活躍する背景として描かれる街の変化である。この刑事ドラマの舞台は、新宿、お台場というどちらも制作当時「副都心」として発展が期待された場所なのだ。p99

 

「第三章 東京のランドマーク変遷史」では、1890年に完成した浅草12階までさかのぼりながら、千住にあった「お化け煙突」(1926-1962)を経て、ランドマークが東京タワーから東京スカイツリーへとバトンタッチされる過程を、電化時代、電波時代の趨勢の中でとらえようとするのである。

 

 過去の栄光である東京タワーと未知の時代の入り口に立つツリーが並存する光景とは、まだ過去を切断できずにいる日本の現状の風景かもしれない。pp169-170

 

「第四章 水運都市・東京」では、島田荘司のミステリー『火刑都市』(1986)、さらには劇場版アニメの『機動警察パトレイバ―』(1989)や映画『釣りバカ日誌』第一作(1988)の中にみられる、高速道路の下に埋もれてしまった水の都江戸を美化するノスタルジックな視点をとりあげる。

 

「第五章 接続点としての新橋」では、文明開化の時期に帝都の玄関口として脚光を浴びた新橋の、戦前は花街、戦後は闇市の街としてのそれからと、一大メディア都市として発展した「汐留シオサイト」を一つのパースペクティブのもとにとらえようとする。

 

「第六章 空の玄関・羽田空港の今昔」では、1931年の開港から、戦後米軍による接収と、1951年の国内線、2010年の国際線の再開に至る過程を、石原裕次郎主演の映画『紅の翼』(1958)や加山雄三の『若大将シリーズ』(1961-)にみられる羽田の過去のイメージをたどりながらとらえ、さらに海から上陸する『ゴジラ』(1954)から空から現れる『ガメラ』(1965)への変化の中に、東京の発展を読み取ってゆく。

 

私たちの心の中の東京は、実は単に東京で過ごした経験に基づいたものではなく、それを舞台とした多くのフィクションの層、さらにそこで起きた多くの事件や出来事のニュースの層によってかたちづくられている。それゆえ、『東京β』は、中心のない聖地巡礼の書物とも言えるだろう。本書は、東京を舞台とした過去の作品を通して、過去の東京のすがたに迫ろうとする試みであるが、同時に東京という街を入り口として、映画やテレビ、小説やコミックやアニメなどのさまざまな作品案内にもなるという二重の楽しみに満ちた書物なのだ。

 

関連ページ:

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