つぶやきコミューン

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みうらじゅん『「ない仕事」の作り方』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

漫画家、イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャンとして知られるみうらじゅんの活動範囲は、常人の想像をはるかに超えて多岐にわたっている。

あるときは「ゆるキャラ」の名づけ親であり、自らもいろいろなキャラクターを考案し世に送る。同じようにして「いやげ物」「らくがお」を流行らせたりもした。

あるときはボブ・ディランのベストアルバムを自ら企画し、オマージュの漫画「アイデン&ティティ」を描き、やがてそれは映画化され、ついにはアルバムもディラン自身の許諾を得るに至る。

あるときは小学校以来の仏像愛が嵩じて、仏像本を作り、いとうせいこうとの共著「見仏記」を出版、最初はあちこちの寺から苦情が寄せられたものの、ついには「仏像大使」に任命されるに至る。
 
 阿修羅展以降、いとうさんと二人で「仏像大使」に任命されるということが、三度ありました。2013年の「国宝興福寺仏頭展」、2014年の「奈良・国宝 室生寺の仏たち」、2015年の「特別展 コルカタ・インド博物館所蔵 インドの仏 仏教美術の源流」です。

みうらじゅんとはいったい何者か?
 
 ボブ・ディランに初めてお会いした際、通訳の人が「私が何者でどんな仕事をしている人物なのか」を詳しく紹介してくれたとき、ディランはじっと黙って聞いて最後に一言「定職はないのか?」とおっしゃり、私は大爆笑しました。

『「ない仕事」の作り方』(文藝春秋)は、みうらじゅんのこれまでの多様な活動を可能にした発想と行動のノウハウを自ら解説したビジネス書だ。

いかにして、みうらじゅんは様々なブームを世の中に巻き起こしてきたか。そのエッセンスを隠すことなくオープンにしているが、類似の書よりも一歩も二歩も抜きんでている部分がこの本にはある。それは、みうらじゅんのスタイルが小学校より50年間にわたり一貫していることであり、それはスクラップブックにも現れている。
 
 いちばん最初は、小学校1年のときに始めた「怪獣スクラップ」でした。当時から今に至るまで50年以上ずっと同じ「コクヨ ラ-40」というスクラップ帖を使っています。

さて「ない仕事」はどこから生まれるのか?あるぼんやりした違和感がそのスタート地点である。
 
まず、名称もジャンルもないものを見つける。そして、それが気になったら、そこに名称とジャンルを与えるのです。

しかし、名前をつけるだけではいけない。自分を捨てて、対象にほれ込み、没頭することが必要なのだ。
 
 あらゆる「ない仕事」に共通することですが、なかったものに名前をつけた後は、「自分を洗脳」して「無駄な努力」をしなければなりません。

エンドレスな無駄な努力を重ねるほどの熱狂がなければ、それに他人を感染させることは不可能である。
 
 人に興味を持ってもらうためには、まず自分が、「絶対にゆるキャラのブームがくる」と強く思い込まなければなりません。「これだけ面白いものが、流行らないわけがない」と、自分を洗脳していくのです。

無駄な努力は、「ゆるキャラ」の場合には、大量に集めることだった。それまでにないものを作る場合、合理主義的な考え方で成功しようとしても、多くの人はこうした「無駄な努力」ができないから、成功にまで至らないのだ。
 
 人は「大量なもの」に弱いということが、長年の経験でわかってきました。大量に集まったものを目の前に出されると、こちらのエレクトしている気分が伝わって、「すごい!」と錯覚するのです。

しかし、ここまでで止まっている人は結構多い。趣味で終わらず、仕事にするためには、全く別の努力が必要である。
 
 なかったジャンルのものに名前をつけ、それが好きだと自分に思い込ませ、大量に集めたら、次にすることは「発表」です。収集しただけではただのコレクターです。それを書籍やイベントに昇華させて、初めて「仕事」になります。
私はまず、雑誌に企画を持ち込みました。
私のやっていることは、ほとんどが「ない仕事」なので、先方から依頼がくることはほぼありません。

みうらじゅん程度の知名度があっても、それだけでこちらが望む新しい企画を、編集者が気を回して、持ってくるなんてことはないのである。単なる持ち込みなら、気の利いた人はみなやるだろう。だが、ものにできる確率は低い。その確率を数段高める方法がある。これこそが、奇跡の継続力と並んで、みうらじゅんの方法を普遍的なものにしていると言っても過言ではない。

それは何かというと、接待、よりわかりやすくいえば逆接待である。
 
 ここで必要なのが「接待」です。皆さんは出版社やテレビ局が作家やタレントを接待していると思われているかもしれません。確かにそれがほとんどでしょう。しかし私の場合は、逆接待を行います。
編集者を酒の席に招き、ごちそうをし、酔っていい調子になられた頃を見計らってプレゼンをするのです。
まえがきに書いたとおり、私の仕事は「一人電通;です。企画を立てるのも自分、集めるのも自分、ネタを考えるのも自分、発表の場所や方法を考えるのも自分、そのために接待するのも自分なのです。

『「ない仕事」の作り方』では、冒頭でこの「一人電通」の方法論の概要を伝え、残りの部分は個々のケーススタディで、いかに最初は逆風にぶつかり変人扱いされたものが、しだいに社会に受け入れられるようになるかのプロセスが語られている。

その最初にあるのは、自分の中の抵抗感、途中の懐疑的な気持ちを打ち砕く、自己洗脳のプロセスだ。この部分は、あらゆるモノづくりをする人に共通の心理だけに、とても勇気づけられる。
 
 人はよくわからないものに対して、すぐに「つまらない」と反応しがちです。しかしそれでは「普通」じゃないですか。「ない仕事」を世に送り出すには、「普通」では成立しません。「つまらないかもな」と思ったら「つま……」くらいのタイミングで、「そこがいいんじゃない!」と全肯定し、「普通」な自分を否定していく。そうすることで、より面白く感じられ、自信が湧いてくるのです。

さてブームが来る前の転換点というものが存在する。それはどこかというと「誤解」され始めた時であるとみうらじゅんは言う。
ブームは「勝手に独自の意見を言い出す人」が増えたときに生まれるのだ。そのためには、あらかじめゆるキャラはこういうものであるという理論づけを行わず、解釈の「余白」が大事なのだ。

『「ない仕事」の作り方』は、泥くささを避けることがない。だから他のノウハウ書のような嘘くささがない。ここまでやれば成功しないではおかないだろうという本音の努力の姿が書かれている。だから、愚直に右へ倣えすれば、たぶん読者も成功することができるだろう。問題は、愚直に右へ倣えすることが、人によってはとても困難であることだ。

そうしてそうした夢を抱かない人にとっては、この本はおバカな夢を一歩一歩かたちにし、人に広げてゆくプロセスが書かれた上質のエンタメ本として、あれこれのブームの裏側を知りながら思いきり楽しむことができるだろう。


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