つぶやきコミューン

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田中圭一『Gのサムライ』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

「このマンガがゲスい」3年連続1位に輝いた田中圭一『Gのサムライ』(リイド社)、ところで「このマンガがゲスい」で惜しくも二位に輝いた作品は何で、どの出版社から出された賞なのか、調べてみてもさっぱり情報が得られません。まあ、そういう野暮なツッコミはさておいて、『Gのサムライ』はゲスい漫画にはちがいありません。では、そのゲスさの秘密はどこにあるのでしょうか?

『Gのサムライ』は全編下ネタ満載の漫画ですが、単にエロいからゲスいわけではありません。『ルパン三世』の峰不二子だってエロイでしょうし、『島耕作』だってエロい作品です。でも、『Gのサムライ』はそれらとは隔絶した世界です。

第一の特徴は不毛さです。島流しの刑にあった武士の品場諸朝(しなばもろとも)と貴族の腹上院魔手麻呂(ふくじょういんましゅまろ)は、性的快楽を得るために、ありとあらゆる手段を講じます。子孫を残すことにつながらなくても、とにかく快楽さえ得られればよいのです。ときには、島に本物の女性が近づくこともありますが、その接近遭遇も果たせず不毛に終わります。すべては、自慰行為の延長に終わってしまうのです。GのサムライのGの第一の意味は、自慰のGです。

第二の特徴は、その非人間性です。つまり女陰の快楽が得られるなら動物であっても構わないということです。まさに動物化するポストモダン。そういうわけで、さまざまな動物が、魚が、登場してきます。そうした動物の何らかの部分が、同じような刺激を与えることができれば、相手は人間でなくてもよいのです。早い話がコックリさんだろうと泉の精であろうと、女神でさえあれば何でもよいということになります。畜生道に堕ちることも、神仏を穢すことも厭わない、女陰の形をした砂でも何でもよい、つまり人間性を完全に放棄しているわけです。

第三の特徴は、変身と逆襲性です。それを食べると、一時的に身体の全体もしくは一部を女性化することができる薬や果実が出てきます。諸朝の考えも魔手麻呂の考えも同じです。相手を女性に変身させ、自分が男性としての快楽を得られるなら、それが誰であろうと構わないのです。しかし、その考えは成功しません。変身するときには、必ず二人一緒であり、その場に居合わせた第三者の男性によって二人のにわか処女は犠牲になる運命にあります。快楽の対象にしようとした動物にもメスとオスがあり、メスではなくオスによって逆襲を受けるのです。

基本的には、『Gのサムライ』は、男性の性的快楽を、自然界のモノや動物界、神霊界の異性、他人の女性への変身といった手段によって満たそうとし、絶えず裏切られる話です。しかし、その裏切られ方は千変万化。あっさりとカニやアリの動きによって、いかされたり、動物のオスに逆襲されたり、女性に変身した暁には島に上陸した男たちに貞操を奪われたり、はずみによって男同士がつながってしまうという悲劇的な結末に至ったりします。

GのサムライのGの第二の意味は、不本意な偶発的なゲイの世界であり、二人がノンケであるにもかかわらず、不本意なゲイ状態は誤爆によって常に起こりうるのです。そして、その相手が人間とは限らないというところに究極のゲスさがあります。

『性の歴史』という大著を著したフランスの哲学者ミシェル・フーコーが、もし存命であり、『Gのサムライ』を読むようなことがあれば、絶賛することはまちがいないでしょう。きっと彼は、第2巻のサブタイトルにしてキーワードであった「自己への配慮」というテーマをそこに見出しつつも、あたかもボルヘスの「支那の百科事典」の分類項目のような性的技法の多様性を思考することは不可能であると爆笑し、『言葉と物』の序文の中で予言したごとく、21世紀この東洋の島国ではすでに、人間というものが、波打ち際の砂に描かれた模様のごとく、消え去ってしまったことを確信し、高らかに「人間の死」を宣言するにちがいのです。

Kindle版

『Gのサムライ』の多くのページはこちらで読むことができます
トーチWeb Gのサムライ

関連ページ:
田中圭一『神罰 1.1』 
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