つぶやきコミューン

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速水健朗『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略  ver.1.01

かつて東京の土地のランク付けは下町よりも山手が優位に立つ「西高東低」のランク付けが行われていた。その背景にあったのは、「閑静な住宅街」というイデオロギーであり、都心より離れた西側の郊外のベッドタウンから都心へと通勤するというモデルが優勢であった。しかし、人口の増減や住みたい街の人気ランキングを見ると、こうしたかつてのモデルは崩壊し、別のトレンドが浮上しているように見える。簡略に言えば、それは都心への回帰であり、さらには東京の西側から東側のエリアへと人気が移っていることである。

こうした人々の東京観に生じた新たなトレンドを取り上げたのが、『ラーメンと愛国』、『1995年』『フード左翼とフード右翼』の著者として知られるライター速水健朗『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』(朝日新書)である。

速水は、「西高東低」の土地評価が定着するまでの歴史的プロセスを時間軸を遡りながらとらえる一方で、他方では現在の地理軸の上に生じた変化を、トレンドの店のオーナーの声や、担当編集者から自らの両親まで含めた移住者の声を取り上げることによって、具体的に可視化させようとする。その中からくっきりと浮かび上がってくる、東高西低へのシフトは、少なからぬ読者を驚かせることだろう。人気の街であると思われた中央線沿線の荻窪、阿佐ヶ谷、高円寺、中野でさえ、その「選民意識」ゆえに敬遠される傾向にあり、住みたい街として浮上するのは中目黒や恵比寿ではなく、蔵前や人形町、北千住といったかつての下町エリアである。
 
 横丁ブームもまた、繁華街から住宅地へという、飲む場所の変化の一形態だろう。住む場所として注目すべき横丁のある街は、北千住である。「西高東低」の傾向が強かったこれまでの住みたい街ランキングの類いでは、まず名前の出てくることのない場所が北千住だが、最近はその魅力、住みやすさについて「注目の街」という扱いを受ける機会も増えてきている。p83

生じつつある意識の変化とは、商業地区から切り離された「閑静な住宅街」から周囲においしい飲食店が多く存在する「騒々しい住宅街」への嗜好の変化である。バルブームや横丁ブームも拍車をかける要因になっているが、その背景にあるのはどのような社会事情の変化なのだろうか。

さらに、このトレンドは都市部への集中ではなく、東京への一極集中であることに速水は着目する。大阪圏も名古屋圏も、実際には転出超過地域なのである。地方再生や、地方へのUターンが大きく取り上げられているが、そのメディアの扱いは過大であると速水は考える。
 
 地方移住者増加の数字は、東京への転入数と比べると、ごくわずかだ。地方移住ブームは、傾向としては増えているが、実数には見えてくるようなレベルにはない。それがブームのように見えているのは、メディアが大きくこれを取り上げているからだ。
 これは、地方移住のPRマネーがメディアを潤しているという現状を意味している。
(…)これらの願望を煽ることと、実際に起こっていることの間には、大きな乖離がある。pp124-125

それだけ必死に地域が宣伝に金をかけていることによる認知バイアスのゆがみがあり、移住者の実数以上の変化があるかのように人々が錯覚しているだけなのだ。地方への分散ではなく、人口の集積しかないという結論に逆行する現在の状況を、速水は否定的にとらえているのである。

おそらく、多くの読者は速水の見方を東京の過大評価が含まれるものであると考えるかもしれない。なぜなら、東京圏に住むことができる読者は、統計的に言って全人口の一割強にすぎず、他の読者は多かれ少なかれ地方や、東京以外の都市圏に生活せざるをえないのだから。各人にはそれぞれの居住地域を選んだもっともな理由があるし、それとの間に軋轢が生じることは避けられないだろう。しかし、やはり東京が多くの点で世界一のインフラと環境のよさを備えた都市であることは、堀江貴文の『君はどこにでも行ける』と共通の認識でもある。何よりも、本書の結論である人々が東京を志向する最大の理由は、そこに多くの他の人々がいることであるという認識はきわめて重要で、無視できないものであるだろう。IT企業中心に一時期在宅勤務に向かった勤務形態のトレンドも、現在は逆転し、Yahoo!のようにテレワークを禁止する方向に向かっている。
 
  Yahoo!が社員に向けた説明にはこうある。
「在宅勤務により、スピードと品質が犠牲になります。私達はYahoo!として一つになるために顔を合わせる必要があるのです」
 どれくらいこれが本音なのかはわからないが、企業が在宅勤務を避ける傾向に向かっているのは、従業員が自宅作業ではまじめに仕事に打ち込まないと考えているからではない。現代の知識集約型産業における中心的な業務は遠隔化できないということをYahoo!は認識しているのだ。彼らが重視するものは、人と人の距離の近さによって生まれている。だからこそ、遠隔地での個別の作業は、最小限に留める必要があることを認識しているのだ。
p165

本書は、時間的に空間的にマクロな視点から、東京に対する意識の変化をとらえようとするものである。反面、個々の街のプロファイリングに関しては、いささか物足りない部分がある。ここに住みたいと思わせるデータが不足しているのだ。それゆえ、速水の視点に興味を持った人は、速水の近著『東京β 更新され続ける都市の物語』を併読することで、より立体的に東京という街のトータルなイメージを、最新のものへとアップデートできるのではないだろうか。

 


関連ページ:
速水健朗『フード左翼とフード右翼』
速水健朗『1995年』

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