つぶやきコミューン

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タモリ『新訂版 タモリのTOKYO坂道美学入門』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略



昔から坂道が好きだった。

上り坂には、見えない先への期待と不安がある。

下り坂には、見通しへの爽快感や優越感がある。

どちらも人生に通じる何かを、暗喩として教えてくれる存在だ。

重力に逆らう上り坂、重力に従う下り坂、自転車で走ろうとすると、よりその存在感を意識する。

坂道と言っても、山奥の坂道ではない。

それはあまりに多く、自然でありすぎるからだ。

家並みに接し、塀があり、その向こうに樹木が生い茂るような坂道がいい。

坂と言いながらも、実際には石段であり、勾配のついた斜面のないような坂道もいい。

坂道には物語がある。今は変わり果てて、失われてしまった場所の記憶が、唯一坂の名前に残っていたりもする。

それは場所の歴史をひもとくためのインデックスなのだ。

東京は、坂の街だ。もともと高台とその間を縫うような湿地や海を埋め立ててつくられた町である。そして、東西に流れる神田川が谷となり、両岸に高低差が生まれる。高低差のあるところに、坂道はできる。

土地に建てられた家は移り変わるが、高低差はなくならない。だから、多くの坂道が江戸時代のままに残り、明治・大正・昭和・平成という歴史を堆積してきたのが、東京という街の特徴だ。

『新訂版 タモリのTOKYO坂道美学入門』(講談社)は、街歩きの達人であり、日本坂道学会副会長でもあるタモリによる、東京の坂道を紹介した本である。

初版は2004年に出版されたが、取り上げた場所の様変わりに合わせ、2011年にリニューアルしたのが新訂版である。

ほぼ全ページが著者本人によるカラー写真で飾られ、さまざまな場所へと誘ってくれる。

赤坂TBS近くの三分坂(pp16-17)、方向感覚を失うような元麻布の暗闇坂(pp44-45)、急な坂道とY字路の融合した目白台の日無坂(pp82-83)、椿山荘近くの胸突坂(pp94-95)、谷中から富士を望むことができた富士見坂(pp170-171)、ホテルニューオータニ脇の紀尾井坂(pp178-179)…

ああ、あの坂ねと思い出すような坂もあれば、確かこのへん歩いたけれど、こんな名前があったのかという坂もある。青葉台のように、私にとってはまるで未踏の坂道密集地もある。

読者は、意外に有名な坂が取り上げられていないことに気づくかもしれない。たとえば、湯島天神下の男坂、女坂。

著者にとっての、坂はやはり傾斜、勾配加減の妙にあるのかもしれない。

「初版の前書き」で、タモリはこう書いている。

ちなみに私の坂道観賞ポイントをあげると、
 仝配の具合
◆]儷覆里靴た
 まわりに江戸の風情をかもしだすものがある
ぁ〔樵阿僕獲茵⇒浬錣ある
となる。ちなみにこの事を過去、人に話をして、興味を持ってくれたのは、たった一人だった。

(pp5-6)

私の周囲には、そんな「たった一人」が少なからずいる。『新訂版 タモリのTOKYO坂道美学入門』は、そんな大勢の「たった一人」のための本である。

    (Kindle版)


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