つぶやきコミューン

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松井優征×佐藤オオキ『ひらめき教室 「弱者」のための仕事論』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略



『ひらめき教室 「弱者」のための仕事論』(集英社新書)は、NHK Eテレ「SWITCHインタビュー達人たち」で放送された内容をベースにした漫画家松井優征とデザイナー佐藤オオキとの対談をまとめたものだ。

ほとんどの読者は、おそらく累計二千万部を突破した『暗殺教室』の作者の話を読みたいと思ってこの本を手に取ったにちがいないく、『プロフェッショナルの流儀』のファンでもない限り、佐藤オオキの名前を知らないかもしれない。だが、佐藤オオキはプロダクトから建築まで手がける世界的に評価されているデザイナーである。

会ってすぐに意気投合したという松井と佐藤だが、多くの読者が本書で知りたいと思う内容は松井優征の創作術であるにちがいない。そして、波長の合うクリエイターにして『暗殺教室』のファンである佐藤は聞き役として適役である。極めてシンプルでわかりやすく松井はそれを表現している。最初にあるのは一場面のひらめきだけ、それをいかに肉づけするか。そこでのロジックの追求こそが、『暗殺教室』の原点である。
 

松井 最初はひらめきだけですね。ページをめくったら、起立した生徒が一斉に銃を構えて先生を狙っている。「それおもしろくない?」って。
佐藤 その一枚の絵から着想を?
松井 そうなんです。それから、その絵を連載漫画として成立させるにはどうしたらいいかを考えました。次の瞬間、先生が生徒に殺されてしまったら続かないので、攻撃をずっと避け続ける必要がある。そうしたら先生はすごいスピードで動いているか、圧倒的な超能力を駆使するか、どちらしかない。でも超スピードで避け続けていたら、隣のクラスは授業にならないし、あっという間に校内に噂が広まって大問題になりますよね。じゃあそのクラスだけ、離れの校舎にすればいい。さらに離れの校舎にするためには、落ちこぼれの集まるクラスにすればいい……。そうやって最初の絵さえできれば、後がつながっていくんです。
p28-29


この発想の連鎖をロジック(論理)と呼んでいいのか、想像力と呼ぶべきなのか、とにかく最初のひらめきの力がぶっ飛んでいる。

しかし、松井優征が連載中考え続けているのは、いかに終わらせるかの方である。そこには熾烈なサバイバルゲームが繰り広げられる少年誌ならではの特殊事情がある。
 

松井 自分の場合、物語を始めることよりも、むしろ終わらすことを一番考えているんですね。
佐藤 それってまさか第一話から思うわけでは……。
松井 第一話からです。
佐藤 そうなんですか!
松井 『ネウロ』もそうでしたね。少年誌の連載って長く続いていても、人気が急下降したらそこで一気に終わるんですよ。結果、話が中途半端に終わってしまうことが少なくない。それはしょうがないことなんですけど、ずっと読んだり、単行本を買ってきたお客さんに対して、ぷっつり切れるのは非常に申し訳ない気持ちがあって。
pp61-62


だから最後まで見通したストーリー展開を常に現在との関連で考えないではいられないというのである。

そのようにして、この時点では完結間際であった『暗殺教室』も最後まで進行がきっちり決まっていて、そのタイムテーブルに沿って淡々と埋めてゆくという作業工程なのだ。
 

松井 線で言うと、目の高さから時間軸と平行に太い線が伸びていまして、そこから週ごとの締め切りに対して垂直に線が下りている感じです。最初からやることが完全に決まっている。
佐藤 えっ、そんな感じなんですか。衝撃です。頭の中で「ガーン!」と鳴っています。
松井 『暗殺教室』は最終回の時期が見えているので、どこの週で何をやるかが、ほぼ固まりつつありますね。
p60


なんとなく作者も殺せんせーみたいな大胆不敵で、人を食ったようなキャラクターという先入観を抱いていたのだが、実はマイナス思考の持ち主で、小心者の完璧主義者であるようだ。それゆえに、細かく先の先まで設定を考えずにはいられない。その執念が、一クラスの生徒一人ひとりのプロファイリングを完璧に行い、それぞれに見せ場をつくるように動かしながらキャラクターを動かす『暗殺教室』3年E組が生まれるのだろう。

その他、見開きの右側に来る偶数ページでサプライズを与える方法とか、アシスタントが入るのは1週間のうち仕上げの2日だけとか、ネームから仕上げまでの工程も特に隠すべき秘密などないようにわかりやすく説明している。ガラス張りにしたところで、誰もが『暗殺教室』のような面白い漫画が描けるわけではないところがミソである。

佐藤オオキの仕事としては、特に螺旋を重ねると二本が一本になるデザインの箸が素晴らしいと思う。欠点のない万能なモノよりも欠点があるけどこれはこれでおもしろいモノを目指すのが彼のポリシーだ。

佐藤オオキのその場の偶然性を活かしきろうとするキャラクターを伝えるエピソードもいろいろあるが、その天才ぶりはキャリア決定のプロセスに端的に表現されている。
 

佐藤 そうなんです。そういう経緯で建築の世界に足を踏み入れたものだから、よその世界にも目を向けることが多かったですね。まず入学した日に買わされた製図ペンというのが非常に高価だったので、これはもとをとらなければと雑誌掲載料がもらえる週刊誌の似顔絵コーナーにせっせと投稿したり、テレビの素人コーナーにも定期的に出て、賞金を稼いでたんですね。これはおもしろいなと思っていた矢先、たまたま貿易会社で通訳のバイトをしていたら、もととなる商社が潰れてしまった。それで「じゃあ、おまえがやれ」とお鉢が回ってきたので、仕方なく法人化して、十九歳のときに貿易会社を作ったんですよ。
松井 何ですか、そのめまぐるしい展開は。
佐藤 その会社で日本の雑貨をアジアやヨーロッパに輸出してみたら、一つのコンテナを商材でどう埋めるか考えたりして、これが結構楽しいんです。それで気がついたら大学四年になっていた。ふと、自分は何をしているんだ?と会社をたたんで、大学院では二年間、しっかり建築を勉強しようと決意したんです。そしたら今度は知り合いから電話がかかってきまして。
松井 何か起こる予感しかしませんね(笑)。
p149


次々にその場の成り行きを大きなビジネスチャンスにつなげてしまう佐藤の天才ぶりが紹介される。

両者に共通するのは、マイナス思考の松井とプラス思考の佐藤、タイプは違えど、一瞬のひらめきから先の先まで見通して行動し、それを形にする能力である。

『ひらめき教室 「弱者」のための仕事論』は、単に『暗殺教室』のファン必読の副読本であるだけでなく、クリエイティブな発想を仕事につなげたい人が考えるためのヒント満載の本である。

関連ページ:
松井優征『暗殺教室 19』
松井優征『暗殺教室 18』
松井優征『暗殺教室 17』
松井優征『暗殺教室 16』
松井優征『暗殺教室 15』
松井優征『暗殺教室 14』
松井優征『暗殺教室 11』
松井優征『暗殺教室 9』 
松井優征『暗殺教室 8』
松井優征『暗殺教室 6』
松井優征『暗殺教室 5』
 
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