つぶやきコミューン

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万城目学『バベル九朔』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略



万城目学の現代物の作品は、場所の喚起するイメージをベースに、想像力を膨らませた作品が主となっている。『鴨川ホルモー』は鴨川の河原や吉田山周辺を中心に、京都全体が舞台として活用される。『鹿男あをによし』は奈良や平城京周辺のイメージをベースにし、『プリンセストヨトミ』は大阪城と谷町の商店街周辺がイメージの祖型となり、『偉大なるしゅららぼん』では、琵琶湖周辺、特に湖北地方が超能力合戦の活劇の舞台となる。

最新作の『バベル九朔』では、一方においては、巨大な塔の主である『バビル二世』のイメージを借用しながらも、その上に重ねられるのは、江戸川乱歩的の登場人物が出没しそうな怪しげなモダンビルのイメージなのである。その祖型は、電車の中から見た雑居ビル屋上のペントハウス、他のフロアとは異質の空間だったのかもしれない。
  たとえば、駅のプラットホームで電車待ちをしているとき、俺はたいていホームの端に移動し、高架に沿って建つ雑居ビルを眺めている。どんなテナントが入っているかを見るのではない。最上階に住むオーナーの部屋をこっそりチェックしているのだ。
  バベルと同じく、駅前、駅近の好立地に雑居ビルを建て、その最上階を住居専用にするオーナーは多い。その様子を人知れずうかがうとき、何とも言えぬ秘密めいた楽しさに心がくすぐられる。なかでも俺が好きなのは、テナント階と最上階のギャップが大きなビルだ。デザイン重視の外観に、凝った照明が窓ガラス越しに光を放つ。いかにもおしゃれなテナントが三階まで続いているところから、最上階の窓へと視線を移すと、打って変わった雰囲気で、レースカーテン越しに四角張った和室用の天井照明が見える――、なんてときは、思わず口元がほころんでしまう。
pp178-179

バベル九朔とは何か?九朔家のつくった雑居ビルのことである。「俺」は祖父九朔満男より受け継いだこのビルの管理人となり、五階に住みながら小説を書こうとしている。ビルの持ち主は母親だが、勝手に俺が潜り込み、管理人となってしまった。母九朔美津子は激怒した。何しろ、このご時世に安定した会社員の身分を捨てて、小説を書こうとしているのだから。

ビルは地階が「SNACK ハンター」、1階が中古レコード店の「レコ一」、二回が居酒屋の「清酒会議」、三階が「ギャラリー蜜」 、四階が探偵事務所の「ホーク・アイ・エージェンシー」である。

ある日、そこで窃盗事件が発生する。犯人は、「俺」が階段ですれちがった若い女は、黒いサングラス、黒のワンピース、大きく開いた胸、黒いタイツに黒いハイヒール、グロスの塗られた唇に、黒のマニキュアで染められた爪とまさに黒づくめ、「カラス」と呼ばれる泥棒らしい。

盗賊が本物のカラスではないかと思わせるところから、物語はあらぬ方向へと進み始める。『鹿男あをによし』が、鹿の言葉を解する物語なら、バベル九朔はカラス女の言葉を解する男の話なのだろうか?

会社を辞めて、小説を書き始める、しかし新人文学賞の一次予選にもひっかからない。そのどうしようもない作者の過去の焦りの気持ちが主人公には投影しているように見える。しかし、私小説的に見えるこの描写もまた、物語を支える大きな柱としての役割を後半果たすことになる。

やがて次なる異変が訪れる。隊長40センチもあるネズミが出没したかと思うと、謎の死をとげる。何者かに殺されたらしいのだ。そして38年間店子であったギャラリー蜜が引き払われ後に一枚の絵が残される。そして3階の水道代がべらぼう金額にまでふくれあがってしまう。その謎を突き止めようと3階に向かうが、黒づくめの女に追いつめられ、部屋へと駆け込んだ先にそれは、「バベル」はあったのである。

湖へと投げ出される「俺」、一体それはどこなのか?
そこで会った一人の少女、その正体は?

江戸川乱歩のような、あるいは『名探偵コナン』のようなミステリーぽい世界は、村上春樹のような世界、『ナルニア国物語』のようなファンタジーの世界へと、さらには『新世紀エヴァンゲリオン』の人類補完計画のような世界へと変容し続ける。

すべては、「俺」の祖父、バベル九朔を作った九朔満男のしわざであった。しかし、そのバベルが今崩れようとしているとは、どういうことなのか?そして、死んだはずの祖父との再会、一体彼は何を望んでいるのか。バベルは一体どうなってしまうのか。

『バベル九朔』において、万城目学は新しい小説の世界へと一歩歩み出した。従来のように不思議な出来事が実在の場所で起こるのではない。実在の場所が、不思議な世界へと通じ、二重化し、エッシャーのだまし絵のような空間を、ビルの過去のテナントがすべて存在する時空を歪めたような世界を生成する。そして、読者は目もくらむような圧倒的なイメージの連続に翻弄され続けるのだ。『バベル九朔』は、どこからが現実で、どこからが夢、どこからが別世界なのかわからない悪夢のようなファンタジーである。

関連ページ:
万城目学『ザ・万字固め』
万城目学『悟浄出立』
万城目学『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』
万城目学『とっぴんぱらりの風太郎』
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