つぶやきコミューン

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万城目学『ザ・万字固め』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本   文中敬称略



『ザ・万字固め』(文春文庫)は、『ザ・万歩計』『ザ・万遊記』につぐ、小説家万城目学の第三エッセイ集。「平日開店ミシマガジン」に連載され、2013年にミシマ社から刊行された『ザ・万字固め』をベースに、2010年から2015年にかけて発表した様々なジャンルの文章、さらには綿矢りさ森見登美彦との鼎談「三文人やわらか問答」を加え、再構成したものである。

何かしら珍しいもの、妙ちきりんなものに、注目し、思いきり想像力というか妄想力をはたらかせ、誰も思いつかないような独自の世界築き上げる万城目学の文章力はここでも冴えわたる。

冒頭を飾るのは、ひょうたんの話である。数多くのひょうたんの登場する小説を書き、いろいろと調べるうちにだんだんと万城目はひょうたんの世界に引き込まれるようになった。

 気がついたときには、「何だかおもしろそうであるし、いっぺん育ててみようか」と私はひょうたんの種を通販で買い求めていた。今となって振り返ると、まさにひょうたんの毒気に当てられたのというほかない。p19

それから五ヶ月、かいがいしく世話をすることになった万城目は、ひょうたんを壁一面覆うほどに成長させて、無事実をつけさせることができるだろうか。

あるいは、台湾でのサイン会の話。『偉大なる、しゅららぼん』の台湾版が出版され、台中と台北の二カ所でサイン会が行われることになった。そんな中でも、作家の鋭い観察力が発揮される。

中国版のタイトルは、台湾と中国では異なり、中身が何かわからないと売れない中国では『鴨川ホルモー』も『鴨川小鬼』といきなりネタバレなのに対し、対談では「意味がわからんところがおもしろい」という日本的な感覚がまかり通るなど、その国の国民性が如実に現れる。

 すなわち、そのまま何の注釈もなく「ホルモー」を受け入れてしまう日本と台湾、この両者は明らかにゆるい。一方、読者に何かしらの注釈をつけてあげようとする中国と韓国、こちらは真面目である。そして北朝鮮ではホルモーの存在自体が許されない。p66

あるいは、日本語版と中国版の長さの違いに関しても、たとえば「〜でんがな」のような日本語の語尾は中国版では全く訳されないので、総じて中国語版の方が短くなると面白い指摘をしている。

(…)基本的に中国語は漢字のみで動詞を簡潔に表現するために、日本語に比べ一文が短くて済む。私の実感では一、二割は文章が短く表現されている。さらには敬語などの、ややこしい変化もないため、会話文ではさらなる短縮が可能である。p77

「ポッキーは好きですか」「森巳登美彦さんと仲がよいですか?」のような、ファンとの心温まる質疑応答の後に、会場全体での感動的な「しゅららぼんコール」でフィナーレを迎えるのである。

さらにとびぬけて面白いのは、「やけどのあと(2011 東京電力株主総会レポート)」という一文である。原発事故に抗議して、株主として主張を行おうとしたわけではない。年3パーセントの配当につられては2010年12月に万城目は大量の東電株を買ってしまったのである。その数なんと5千株、980万円!だが、原発事故後さっさと処分しようにも、見る見るうちに東電株は下がり、茫然自失ののちに、万城目がつかみとったものは何か?

他方、一連のサッカーのレポートでは硬派な分析を行ってみたり、タオル地の表紙で城崎でしか手に入らないお風呂で読める小説『城崎裁判』とはどのようにできたか、どんな中身かも明かされる。何でも原告はイモリ、被告は小説家らしい。また少年時代に彼の周辺で流行った遠投げを軽いボールで行い続けたことによって、万城目少年からはかつて誇った遠投能力が永遠に失われたことを読者は知る。そして、最後を締める「ザ・万字固め」では、シャミッソーの小説よろしく、影を失った作者は、はたしてエッセイなのか小説なのかわからない世界へと突入してゆくのである。

要するに、『ザ・万字固め』は、万城目学ファン待望の、2016年版何でも入り福袋なのである。

関連ページ:
万城目学『悟浄出立』 
万城目学『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』
万城目学『とっぴんぱらりの風太郎』
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