つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
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大崎善生『聖の青春』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本   文中敬称略  ver.1.1



羽海野チカのコミック『三月のライオン』に登場する丸々とした顔と身体の少年棋士二海堂晴信がいる。主人公桐山零を終生のライバルと呼び、暑苦しいまでの友情を押しつけようとする二海堂は、時折発熱に襲われ、今にも死にそうな苦悶の表情で、試合会場へと現れ、棋戦を戦い抜く。そのモデルこそが「肉丸君」とあだ名された実在の棋士村山聖(むらやまさとし)である。

大崎善生『聖の青春』(角川文庫)は、1998年8月8日、29歳で夭折した天才棋士村山聖の自伝的ノンフィクションである。今ではノンフィクションのみならず多くの小説を世に出す人気作家の大崎も2000年に『聖の青春』が出版された時には、将棋雑誌の編集者にすぎなかった。しかし、単なる傍観者ではなく、村山と寝食をともにしてきた長年の友人として、また通帳やアパートの鍵まで預かる後見人的な存在として、間近からその生きざまを見守ってきただけに、到底平静な気分では読み通すことはできない、血肉の通った傑作ドキュメンタリーとなっている。

1969年6月15日に広島で生まれた聖の母トミコは、原爆の後遺症で肝臓の持病があった。南山ではあったが、聖は元気に育ち、ガキ大将として野山を駆け巡っていた。しかし、3歳のある日を境に彼の人生は暗転する。高熱が聖を襲い、医師から腎ネフローゼの診断を受けた。いったん治ったかに見えても、再び発熱と倦怠感が繰り返される日々、活発に動き回りたい盛りの聖はベッドに縛りつけられることになる。そこで、出会ったのが将棋だった。やがて親が買い与えた本『将棋は歩から』をきっかけに聖は、あっというまに周囲の大人たちも太刀打ちできないほどの将棋の才能を開花させてゆく。いつしか将棋の名人になりたいという気持ちが聖の心に芽生え始めていた。

   もっともっと強くなりたい。そう心の中で強く念じた。
 もっともっと強くなって、名人になりたい。
 そう思った瞬間、聖の胸はわけもなく熱くなった。名人という言葉が灼熱の鉄の棒となり、身体を貫き通したような感覚に聖は襲われた。
 名人になりたい。
 聖は心の中でもう一度そっとそう呟いてみた。

   p53

見る見る頭角を現した聖は、中学生のころ、奨励会入りするため森信雄六段の弟子となり大阪へと移り住むようになる。

 お母さんは痩せていて小さくて、そしてとてもやさしい雰囲気である。品のいい洋服を慎ましく着こなしている。ところがその横にいる子供は、ワイシャツをだらしなく着こみ、だぶだぶの学生服に裸足で、愛想の一つも見せずに立ちつくしている。 そのくせ、病気のせいで膨らんだほっぺたは愛嬌たっぷりだ。
 森は一目で聖を弟子にすることにした。はじめて聖を見てからその決断をするまでに5秒もかからなかった。卑屈さがないのがよかった。重い病気と闘ってきた強い意志を感じさせる日目がよかった。まくり上げたワイシャツも裸足でいることさえも、森にとっては清々しいものに思えた。容貌も態度も何もかもなっていなかったが、それがかえって森の心を大きく動かした。
p75

それとともに、二人の奇妙な生活が始まる。師匠が床屋嫌いの聖を連れてゆき、髪を洗ってやる。師匠が弟子のために、パンツを洗い、少女漫画を買い探す。病身で自由に動けない弟子のために、かいがいしく身の回りの世話をする森。森だけでなく、周囲の棋士たちもいつのあにか聖の純粋な将棋への情熱と愛すべき性格のとりことなってゆく。

16歳で初段、二段、17歳で三段、さらに念願の四段と、多くの強豪をなぎ倒しながら、登竜門を駆けのぼった聖だが、連戦をともなう将棋の試合は、拷問のような日々でもあった。病院から這うように出ては会場に向かい、試合を終えては倒れ込むような日々の繰り返しであった。

順位戦の厳しい戦いを終えた後は必ずと言っていいほど村山は体調を崩し、寝こんだ。そのたびにトミコは上阪し村山を住友病院へと連れて行く。主治医はときには入院を勧め、体力的にも精神的にも常にぎりぎりの戦いを繰りひろげている村山を容赦なく叱った。
 身体はもうぼろぼろだった。
p267

生涯のライバル、羽生善治や、前に立ちはだかり、連戦連敗を強いられた谷川浩司の壁さえも超えて、まさに名人が手の届きそうに見えたその時に、次の病魔が聖に襲う。

癌である。それでも、病気を知りながらも、聖は戦い続ける。膀胱摘出の手術の後も、さらなる癌の発症。自らの死期が近いのを知り、遺言状を作成させ、生命の力が尽きるその時まで、聖は将棋をさし続ける。

何と言う純粋なる情熱、そして彼を支え続けた何と多くの人々の愛情。家族のみならず、師も友人も、ライバルも彼を愛した。

「あんなかわいいやつはいなかった」
「あんなに面白い人はいなかった」
「あそこまで純粋な男がいるだろうか」
 
p385

『聖の青春』は、村山聖の人生と表裏一体となった将棋賛歌であるが、それ以上に村山聖とその人生をともにした人々のかけがえのない人間賛歌である。

参照リンク:
「聖の青春」主演は松山ケンイチ、実在の棋士・村山聖の生涯を映画化(映画ナタリー)
http://natalie.mu/eiga/news/174668


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