つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
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桐木憲一『東京シャッターガール』1〜3
JUGEMテーマ:自分が読んだ本 文中敬称略

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清楚な美少女が、レトロなフイルムカメラを持って、東京の懐かしい撮影スポットをめぐるーそんな設定で話題になったのが桐木憲一『東京シャッターガール』だ。美少女と言っても、デフォルメ系の萌え絵ではなく、写実系の丹念にディテールが描き込まれた絵だ。髪の毛から目鼻立ち、服装、指先に至るまで、さらに風景も写真そのもののように、選りすぐりの構図で、精緻に描き込まれている。人物と風景の双方の表現に長けた桐木の画力なしには、『東京シャッターガール』は漫画としての精彩を失ったことだろう。絵のタッチもストーリーも危なげのない清楚なものなのに、やたらと短いスカートにきわどいアングルであえて全身像を構図に収めたりもする。その隠れたエロスが隠し味となっている。

主人公の夢路歩は東京の女子高生、昭和の面影の残る町を歩きながら、次々にフイルムに収めてゆく。第1巻ではこれといったストーリーもなく、ただセッションの連続と撮影スポットの過去へと遡りながらの詳細情報があるだけである。そうしてめぐる場所は、押上と工事途中の東京スカイツリー、築地市場、神田、田端文士村、等々力渓谷…と二十数カ所に上る。金魚坂などかなりの街歩き好きな人間でも見落としがちなスポットを押さえているところが心憎い。



第2巻では日本科学未来館を皮切りに、府中小学校や野方配水塔とディープなスポットを加えるがそれだけでは撮影スポットが枯渇しマンネリズムにおちいってしまう。それを避けるためなのだろう、夢路は写真部の仲間とともに宝塚へと合宿に出かけることになる。宝塚は手塚治虫ゆかりの漫画の聖地である。手塚治虫記念館を中心に、手塚ゆかりの場所を押さえることも忘れず、このシーンではものすごい情報量が一枚のページに圧縮されている。ここで夢路の撮影スタイルも、デジタル一眼併用となる。そのまま、旧福知山線廃線などローカルな鉄道スポットを加え、世界をさらにふくらませたりする。そして、女子のみならず、男子の写真部員を加えることで、徐々に青春群像ものへと『東京シャッターガール』は変化してゆくのである。



第3巻では夢路の所属する芝浜高校写真部が写真甲子園に出場することになり、北海道での本選に臨むことになる。この巻では、単なる撮影スポットをめぐる旅にとどまらず、何をどのように撮るのかという、写真の本質に関わる問いも提起される。さらに夢路の怪我などアクシデント的な要素も加えることで、ドラマチックな演出も加わるようになる。風景の多様性が乏しくなるのを補うのが、他校の生徒まで含めた少女の多様性である。とは言え、桐木の描く少女たちはすべてがオーソドックスな美少女であり、かえって個性に欠けるきらいがあるのは贅沢な悩みだろう。女子の寝室やら、浴室シーンまで押さえているのは掲載誌ゆえの読者サービスではあるが、『名探偵コナン』やあだち充の青春漫画同様、あからさまにならずに隠し味にとどめている。

恋愛や同性間、異性間の愛憎、部活動のサクセスストーリーなど、ドラマチックな要素が前面に押し出されているわけではないが、『東京シャッターガール』は、街歩きや下町写真を愛好する人にとってはたまらないコミックとなっている。物語や感情成分が希薄なのも、真の主人公が夢路ら少女たちというよりも、被写体である場所そのものであるためである。
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