つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
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松浦儀実×渡辺保宏『神様がくれた背番号』(1〜3)
JUGEMテーマ:自分が読んだ本   文中敬称略

昨日 夢に 
神様が出てきて

一つ願いを
叶えてやるって
言われたんやて

それで
ケンちゃんは
神様に…

世界で一番
野球の上手い
40歳になって

阪神タイガースで
活躍してみたい

って言うたんで…


松浦儀実・渡辺保宏『神様がくれた背番号』は、松浦儀実の同名の原作の漫画化。40歳のホームレスの男が、突如野球の才能に目覚め、阪神タイガースでピッチャーとして活躍するという野球漫画です。荒唐無稽な設定にもかかわらず、このコミックが多くの人の共感を呼ぶのは、気の弱さや吃音といった野球の才能以外の部分のハンディは一切克服されず、弱点としてとどまり続ける点、そしてホームレスの人一人一人の人生観まで丁寧に描かれているからでしょう。

大阪は天王寺公園近くのホームレス、ケンちゃんこと飛田謙吉は気は弱いけれど、人のよい正直者のホームレスでした。彼は、吃音のために周囲の人と十分なコミュニケーションができなかったのですが、唯一彼の言葉を解したのが、近所の野球好きの少年、タケ坊こと中島武司でした。しかし、彼は心臓の持病を抱えて野球をすることができないのでした。やがて親友となって心を通わせるようになる二人。ある夜、神様がケンちゃんの夢枕に立って、何でもいいから願い事を一つだけかなえてあげると言います。タケ坊の心臓病を治してほしいと言うケンちゃんですが、願い事は自分のことでないとダメらしい。そこで、次にケンちゃんが言った願い事とは、世界一野球の上手い人間となることでした。そうすれば、タケ坊の好きな阪神タイガースで活躍し、優勝や日本一に貢献できると考えたからでした。

翌朝起きてみると、はたしてケンちゃんはものすごい剛速球を投げるようになっていました。その才能を埋もれさせまいと、周囲の人たちが奔走した結果阪神タイガースの目にとまるようになります。やがて、プロ野球選手となったケンちゃんは、ピッチャーとしても、バッターとして大活躍するのでしたが、いつしか彼の周辺に暗い影がよぎります。一つはマスコミがケンちゃんの正体に気づいたこと。そしてもう一つはタケ坊の病状が悪化したことでした。さらに球団が快進撃を続ける中でも、もう一つの期限が迫っていました。それは…

おそらく作者は阪神タイガースの熱狂的なファンなのでしょう。球団の協力のもと、岡田や金本、藤川など多くの実在の監督や選手が出てきます。一方の荒唐無稽なファンタジーの設定を支えているのは、こうしたもう一方のリアルな人物像です。その中でもまれ、支えられることによって、ケンちゃんはそれまでにない人生の経験を次々に積んでゆきます。それとともに、ケンちゃんの周辺のホームレスの人々の人生も、少しずつかつての輝きを取り戻し始めます。最後に来るのは、シンデレラの夢の終焉なのですが、それを超えるエンディングが、爽やかな感動をもたらします。阪神タイガースファンであろうとなかろうと、プロ野球ファンであろうとなかろうと、この感動からは逃れることができないでしょう。『神様がくれた背番号』は、感涙率ほぼ100%の傑作ファンタジーなのです。

  Kindle版


PS 松浦儀実の原作はこちらで前半が読むことができます。
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