つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
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岩井俊二『リップヴァンウィンクルの花嫁』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略

「嘘つき」
「嘘じゃないですよ」
「嘘」
「…嘘じゃないですよ。でも……嘘でもいいじゃないですか」

(『リップヴァンウィンクルの花嫁』p259)



岩井俊二『リップヴァンウィンクルの花嫁』(文藝春秋)は、自作映画の原作となるラブストーリー、SNS時代の壊れやすい人間関係をテーマとした作品である。リップヴァンウィンクルは、森に出かけ迷子になり、見知らぬ人と酒を飲みかわしひと眠りした後、家に戻ってみると20年の歳月が過ぎ、知らない人物ばかりに出会うアメリカの小説の主人公、いわば浦島太郎にあたるキャラクターであるが、この物語の中で意味するものは何だろうか?

【あらすじ】

皆川七海
は、中学の派遣教師、とあるミスからその仕事をクビになるが、それを隠したまま、プラネットというマイナーなSNSで出会った男と結婚してしまう。しかし、七海の母親は男と出奔し、残された父親も別の女性と結婚しようとしていた。そんな事情を相手方に知られまいと、結婚式に代理の親族を依頼する。その窓口となったのが、やはりSNSで出会った安室という男だった。

やがて七海の結婚生活が齟齬をきたし破局を迎える。逃げ出すようにホテルの仕事を見つけた七海だったが、安室が彼女にもって来た新しいアルバイトとは、山奥にある大きな邸宅で、月100万円のメイドの仕事を住み込みでするというものだった。そこにメイド姿で現れたのは、里中真白という女性だった。

真白とともにつかの間の平穏な時間を過ごす七海。だが真白は闇の部分を抱えた女性だった。やがて訪れる破局によって、思いがけない真実が明るみになる。


『リップヴァンウィンクルの花嫁』
の嘘と真実が混然一体になったインターネットの社会、偽りの仮面の方が真実として通用する不思議な世界の中に引き入れられ、翻弄される七海と真白の心のつながりがテーマとなっている。

岩井俊二は、透明感のある詩的な映像、一人ひとりの女性の個性的な美しさをとらえる映像作家として定評があるが、この物語では、派遣教師の過酷な仕事環境、レイプ未遂、別れさせ屋、結婚式場の偽の親族、AV女優の世界など、現代日本の社会のダークサイドが曼荼羅のように集められていて、その分堀りが深い傑作になっている。SNSを媒介としてつながる現代の社会とは、これら暗部を凝集させたパンドラの箱のようなものであろう。それは、作中に登場するイモガイやヤドクガエルのように、人を殺すことができる毒に満ちている。その中で七海と真白の物語は、最後に残された希望の物語なのかもしれない。

『リップヴァンウィンクルの花嫁』
とは、インターネットの中で、日々何らかの役割を演じている私たち自身の物語なのである。

映画『リップ・ヴァン・ウィンクルの花嫁』公式サイト

関連ページ:
岩井俊二『ヴァンパイア』
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