つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
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水木しげる『私はゲゲゲ』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本  文中敬称略



『私はゲゲゲ 神秘家水木しげる伝』(角川文庫)は、2008年に刊行された漫画家水木しげるの自伝的漫画、『神秘家水木しげる』の文庫化である。幼年期から、戦争をくぐりぬけ、戦後の貧困時代、漫画家としての成功、そして水木しげるロードや水木しげる記念館ができてからの晩年の逸話まで、人生の大半80年にわたる記録が収められている。

幼い頃から何度となく水木しげるの本や漫画を読んで知っているつもりになっていても、この本を見ると驚きの連続である。ここには三つの驚きがある。

第一の驚きは、細線でびっしりと描き込まれた風景や背景の素晴らしさである。冒頭では境港の俯瞰的風景が見開きにわたって登場するが、それが最後のページに至るまで続いている。それぞれが一枚の絵画として使えるほどの圧倒的画力、そうした風景が1ページにいくつも続いてゆくのを見ると、いかに全身全霊を注いで水木が晩年に至るまで漫画を描き続けたかをあらためて知るのである。そして、境港、米子、亀戸、調布など水木が過ごした失われた時代のあの街、この街の風景もまた鮮やかに蘇ってくる。アシスタントに『ゲンセンカン主人』のつげ義春がいたのもむべなるかなである。

第二の驚きは、戦場であったラバウルなど南方への愛情だ。一時期は移住を考えたほどで、何度も旅行しながら現地民のトライ続との旧交を温めている。しかし、やがて人々は老い、かつての楽園も文明化の波が押し寄せる。そして、最後には火山の爆発で完全に村が滅びてしまうという時代の変化を、無常観とともに伝えている。

トペトロの墓も
戦争中にいた防空壕もすべて
灰に埋まってしまったんだなあ

すべては思い出とともに
遠くへ行ってしまった

やはり、南方は水木しげるの原点なのだ。

そして第三の驚きは、水木しげるにとって妖怪や怪奇は、商売のためのつくりごとではなく、日常そのものであり、それらとの共存の中に過ごしていたということである。

家の住人も、漫画家として成功し貧乏生活から抜け出するにつれ、貧乏神から福の神に入れ替わる。北海道の山奥では、編集者ともども小豆ばかりという巨大な手の持ち主の妖怪と遭遇し、恐怖の一夜を明かす。

思わぬ所で
思わぬ妖怪と
遭遇したものだ

それからもぼくは
日本のみならず外国でもいろいろな
ものに出くわすことになる

あるいは忘れても、風に飛ばされても戻ってくる不思議な帽子。夢枕に立つ出雲族の少年…無数の不可思議な出来事を呼び寄せてしまう体質があるようだ。

テレビ化や映画化された『ゲゲゲの女房』の美男美女揃いのキャストのイメージで、スマートに書き換えられすぎてしまった水木しげるの、泥くさい等身大の自画像がここにある。
『私はゲゲゲ 神秘家水木しげるは、水木しげるの人生を知る上でも、その完成された晩年の画力を知る上でもベストの一冊である。


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