つぶやきコミューン

立場なきラディカリズム、ツイッターと書物とアートと音楽とリアルをつなぐ幻想の共同体
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小林よしのり・宮台真司・東浩紀『戦争する国の道徳』
JUGEMテーマ:自分が読んだ本   文中敬称略

           Kindle版
小林よしのり・宮台真司・東浩紀『戦争する国の道徳 
安保・沖縄・福島(幻冬舎新書)は、2015年3月にゲンロン・カフェで行われた鼎談の書籍化である。第一部の「日本を変えるにはテロしかないのか」が公開部分であり、第二部の「国民国家の戦争はあり得るか」が、補足的に行われた非公開部分である。

かつては完全に立場を異にしていた漫画家小林よしのりと社会学者宮台真司が口を揃えて語るの最大の問題とは、単なる政権や大衆の右傾化ではなく、感情の劣化であり、それは安保法制のみならず福島や沖縄をめぐる言説をも支配している。鼎談という形をとっているが、思想家東浩紀は、主としてサブカル的な視点から問題に光を当てる以外は、ゲンロンカフェのオーナーとして両者の話の調整役に徹している。

沖縄に関しては、あくまで日本の国内事情、内政問題にすぎないという点で小林・宮台は一致している。なぜ、沖縄に世界の海兵隊の6〜7割が存在しているのか、それは日本政府から「思いやり予算」が出るのと沖縄がリゾートであるためにすぎない。沖縄に米軍基地が存在する必然性はないということを沖縄に対して突きつけるがゆえに、小林も宮台も沖縄の人々に嫌われる事情を読み解くことより、この鼎談はスタートする。

宮台 さっきも言ったけど、そもそも沖縄の海兵隊には強襲揚陸艦という、ノルマンディー上陸みたいに占領された島を奪還しに行く、第一陣に必須の装備ないんだね。それは佐世保を母港とするアメリカ海軍が持ってる。海兵隊が日本を守るために沖縄にいるわけじゃないから、いらないんだよ。そんなことは一目瞭然じゃないか。p32

なぜ、沖縄の米軍基地の存在をなくすべきなのか。

沖縄の人が本気で怒っているからではなく、日本の「対米ケツなめ外交」の結果、沖縄の人々に「条件闘争」を行わせているが、基地があることによって失われた機会費用は埋め合わせることができないからである。最初は「復讐」のつもりで始めた本土への依存もいつしか不可欠な存在となってしまうことがさらなる問題を生んでしまう。そこには福島と共通した構図があるのだ。

(宮台)しかし問題は、「あえてする依存」が、気がついたときには「余儀なき依存」すなわち「依存せずには生きられない状態」に頽落してしまうこと。そうなると依存先に徹底的に足元を見られ、「エラそうにしても、基地や原発がなけりゃ生きていけないくせに」という軽蔑を生み、差別を再生産し続けてしまう、このシステム理論的な循環を避けなけりゃいけない。p39

では沖縄は独立すべきかというと、これも現実的ではない。独立するためには一気に警察と軍隊という暴力装置を手に入れなければならないが、それだけの覚悟があって言ってるわけではないし、本土の劣化左翼のコピペにすぎないからと宮台・小林ともにこの考えを斥ける。最後はジャイアンの暴力に頼るスネ夫が平和主義者であるわけではないのだ。

価値で戦えなくなるとルーツを持ち出そうとするのが左翼の悪いパターンだが、ルーツを持ち出すと分断が生じる。スコットランド独立運動にならって、沖縄はルーツではなく価値、それも依存価値ではなく自立価値を打ち出し、日本人もアメリカ人も包摂すべきなのだ。

解決策となるのは、「誇り」や「立派さ」「気概」といった価値である。宮台が「クソ左翼」「クソ右翼」と呼ぶものに共通するのは、立場さえ同じであれば、その人間の人格を問わず「仲間」と認めることである。誇りがない右翼ばかりになったのが、現在の日本の憂うべき状況を招いているのである。

小林 愛国心と言うなら、なぜわが国にアメリカの基地を置くのか。どうしてそれで「誇り」を持てるのか。わしはそれを徹底的に追及していくけど、保守を自称する連中にとって、そこはいちばん突かれたくない痛いところなんだよ。p46

米軍基地存在の問題とともに保守にとってのタブーは、イラク戦争である。追従するアメリカのどこに正義があるというのか。

(宮台)イラン革命もアメリカが招いた。イランと戦うイラクのフセイン将軍もアメリカが育てた。イスラム国もアメリカによるフセイン打倒後の権力の空白に生まれた。アル・カイダも対ソ義勇兵としてアメリカが育てた。タリバンをアフガンに送り込むパキスタンをあらゆる面で支援したのもアメリカ。こんな国が世界の正義だと考える保守に脳はあるのか。p49

アメリカは間違いなくまた侵略戦争を行ってしまうから、日本の「誇り」を取り戻すためには、「重武装中立化」しかないと宮台真司は言うのである。

「感情の劣化」の問題は避けて通ることができない。感情が劣化するから知性を尊重することができない。個人が分断されアトム化した結果の受け皿として日本が発明しえたのは「会社」くらいしかなかった。もはや共同体による承認は期待できない。その歪な姿はオウム真理教事件の際のエリートたちの強いものへの帰属意識の形で現れたが、ネット社会においては感情の劣化に拍車がかかり、わずかに残されたまともな共同体を維持するためには「見えない化」するしかなく、結果一層社会は殺伐としたものに見えるようになる。それは実は日本社会の問題だけではない。感情劣化層は簡単に代理店的マーケティングによってコントロール可能なことが政治学の研究で明らかになっている。

いかにこの「感情の劣化」と戦うべきか。宮台は二重の戦略を提案する。

従来のような「理を説けば大衆が動く」みたいな朝日新聞的な路線はダメだということ。つまり、理を説くのもいいけれど、並行して「感情的動員に対しては感情的動員で闘う」という戦略で抗わなければいけないということ。ミクロには理を説き、マクロには「目には目を」で闘うんだ。p71

そして小林もその方向性に同調する。

情念や感情の豊かさの部分を失った「劣化した感情」が問題の根本にあるんだったら、そうじゃないものを与え、なおかつそこに理もついていく、というやり方を取るしかない。これはわし個人の闘い方だけれども、さっき宮台真司は、自分も保守だと言ったわけだから、そこでは意見がかなり一致してる。p74

このように、方向性においても、方法においても、歩みを一致させながら、現代日本の置かれた状況、そしてこれから歩むべき方向に関して、オーソドックスな左翼でも右翼でもない立場から輪郭を素描してゆくのが『戦争する国の道徳』なのである。その中心にあるコンセプトは、根本のところで何かに目をつぶったりそらしたりしないラディカリズムの徹底であると言えるだろう。

『戦争する国の道徳』には、福島を、沖縄を、そして日本の安全保障やテロリズムを、さらには地方の生き残る道をどのように語るのか、三者の綿密かつ誠実な思考の積み重ねの結果が集約されている。そして、教条主義の罠にとらわれたり、自己欺瞞的であったりしない限り、立場の右・左に関わらず、脳細胞を沸騰させ、多くの実りある思考や気づきを与えてくれる快著である。

関連ページ:
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宮台真司『日本の難点』
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